TWILIGHT SYNDROME

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#05 雛代の杜 2











「裏山って、結構キツイんだな〜…」
急勾配の坂道を上がりながら、向日がそんな事を口にした。
裏山という文字通りそこは山道で、標高はそれなりだ。
結構進んだな、と柳が後ろを振り返って、思わず声を上げた。
「おい2人とも、ちょっと見てみろ」
「おー、すっげぇ…!!」
「街がよく見えるんだな」
そこからは街並みが一望できて、しかも夕暮れのこの時刻、夕陽に照らされ
遠く並ぶ家々がオレンジ色に染まっている。
「千石の髪の色だなー」
「ああ、そうだな」
暫くそうやって景色を堪能し、少し回復したらしい向日が行こうぜと声をかけて
歩き出した。
程なく山道は森の中へと入り、見えていた景色も木々に隠れて分からなくなったころ、
その御社はひっそりとした静けさで現われた。
「此処か……」
「切原は?」
「………いないな」
キョロキョロと見回し近くを捜し回るが、切原の姿は何処にも見えない。
別の場所かとも思ったが、この裏山に御社は此処だけだ。
まさか迷子になったわけでは無いだろう、ここまでは一本道だった。
「何処にいってしまったんだ……」
「向日、どうだ?」
「うーん……何か、聞こえてはいるんだけど………こっち、」
ガサガサと茂みを掻き分けながら、音の聞こえてくる方へと向日は進んでいく。
切原の声でも、女の子と思われる相手の声でもない。
声ではなく、音だ。
しかもこれは…
「音楽?みたい」
「……音楽…?」
「そう、なんかの曲みてぇ。誰か弾いてる………ワケねぇなあ」
誰かが演奏しているのなら、真田と柳にも聞こえる筈だ。
そうでないということは、音の正体はやはりアレなのだろう。
こっちこっち、と音を辿っていくと、急に視界が開けた。
その先は崖になっていて、そしてそこに。



「赤也!!」



ぽつんと自分達に背を向けて立つ切原の姿があった。
そこには他に人の気配は無く、どうやら彼一人のようだ。
「赤也、お前そんな所で、何を…」
草木を掻き分けてそこから脱出し、切原の傍へ歩み寄ろうとする真田へ、
後輩の視線が向けられる。
正気を失っているわけでも何でもなく、ただ申し訳ないといった色が
その目にはありありと映っている。
仕方無いと吐息を零して、真田は腕を組んだ。
「人を教室に待たせておいて、そんな所で何をしているんだ」
「真田センパイ……俺、」
「まったく、人騒がせな奴だなぁ、もう」
「随分捜したぞ、赤也」
遅れて這い出してきた向日と柳も真田の傍へ歩み寄る。
しゅんとした風に俯いて、切原がスンマセン、ともう一度頭を下げた。
「あの、でも、俺……行かないと」
「ダメだ、赤也」
「でも、呼んでるんスよ、あのコ……」
「赤也、戻るんだ!!」
「ちょっと、行ってきます」
「おい…!!」
トン、と一歩赤也が後ろへと踏み出した。
その先にはもう、何も無い。
落ちる!と誰もが思ったその瞬間。



「な……ッ!?」



ふわり、と赤也の体が宙に浮く。
「な……なんで・……!?」
「おい、赤也、戻れ!!」
「赤也!!」
崖のギリギリまで駆け寄って手を伸ばすが、その一回り小さい体までは届かない。
どうすることもできないままで、宙に浮いた後輩の身体は。



空気に溶けるように、消えた。




















どうしたことか、気がつくと御社の前に座り込んでいて、表情には出なかったが
少なからず柳は驚いていた。
確か自分達はあの崖にいて、赤也が宙に浮いて消えて。
そこから此処までどうやって戻ったのか全く記憶に無い。
「………どうなっているんだ…?」
こんなこと、今までに経験などしたことがない。
ましてや、目の前で人が消えてしまうなんてこと。
「おい、弦一郎、向日。大丈夫か?」
「あ、ああ……」
「どうなってんだ、こりゃ…」
動揺しているのだろう、真田と向日の返事も弱々しい。
「どうするんだ……これから」
「分からん、大体…赤也が消えた事も今だに信じられんのに…」
柳の問い掛けに、真田がゆるく首を左右に振ってそう答える。
切原は一体何処へ連れ去られてしまったのだろうか。
考えても答えなど出る筈が無い。
答えを出すには、余りにもカードが足りなさすぎる。
こうなると頼みの綱はもう、向日しかいない。
「向日……俺達はこういった経験をした事が無い。
 どうすれば良いんだ?」
「多分…もうさっきの崖に行っても切原はいねぇと思う。
 何処に行ったか、まではちょっと俺も分かんねぇけど……。
 けど、少なくとも切原はまだ、この裏山に居ると思う」
「この場所に…?」
「ああ。この場所に居るけど、このままじゃ会えない」
「そんな事…有り得るのか…!?」
「疑ってもイイけどよ、永遠に切原は見つけらんねーぞ」
柳の言葉に頭を掻きながら向日が答えると、それ以上は述べられようもなく
口を噤むしか無かった。
特にこういった事象においては、自分達の持つ常識だとか、そういうモノが
全く役に立たなくなってしまう。
それは、過去の件でも十二分に思い知っていた筈だ。
どうするか、なんて選択肢はいくつも無い。
何ができるか、を考えるしかないのだ。
「とりあえず、闇雲に捜し回ったってしょうがねーな。
 調べたいことがあるんだけど、手伝ってくれるか?」
「無論だ」
「切原を連れてった相手のこと。まずは敵を知らねーとな。
 ま、とにかく学校の図書室に戻ってみようぜ。
 1から出直しだ」
「だが、下校時刻はとっくに過ぎて…」
腕時計を見ながらそう言う真田の脳天にチョップを入れて、向日が呆れたように
声を上げた。
「バカ、忍び込むに決まってんだろ!
 何度か入ったコトもあるし、勝手は分かってるから安心しな」
「……まったく、頼りになる」
苦笑を見せて柳が言えば、なんのなんの、と笑って向日は立ち上がった。
















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赤也、失踪。