TWILIGHT SYNDROME

〜 It's possible to challenge a lot of wonders!〜

 

 

 

 





#04 七不思議の秘密(前編)








夜の学校は、何度来ても気味が悪い。
静かだし、暗いし、響く自分達の足音だけでもBGMには充分すぎる。
どうしてこんな時間にこんな場所に来てしまうハメになったのだろう。
懐中電灯の明かりを眺め、裕太は己の不幸を心底呪った。










「七不思議って、興味ねぇ?」
そう言ってきたのは確か切原だった。
だが、言われた相手がまずかった。
ホラーというか、こういった類の話が実は大好きという日吉がその場に
いてしまったのだ。
「興味はあるけど、どうしたんだ?」
「ん?その謎に迫ってみようぜ、っていう、本日の企画」
平日の昼間、休み時間に突如現われた切原は、日吉の机に肘をついて
へへへ、と笑いを浮かべた。
居合わせてしまったのが、本日最大の不幸だったのかもしれない。
「へぇ、面白そうだな」
「ちょ…日吉!」
「どうして七不思議が生まれたかってコトだろ?
 気になるといえば気になるからな」
「乗るか?」
「乗った」
切原の浮かれた言葉に日吉が悩む素振りすら見せずに頷いてみせる。
あちゃーと額に手を当てた裕太へと、今度はその矛先が向いた。
「裕太は?来るか?」
「……何言ってんだ、行かねぇって言ったら怒るくせによ」
「今更拒否権もあったモンじゃないな」
裕太の言葉に納得したと日吉が頷けば、話は決まったと切原は立ち上がった。
時間は今夜8時。
部活が終わったら速攻で戻って夕飯をとって、もう一度学校へ忍び込むのだ。
「あーあ…先輩にバレたら怒られるぞ?」
「なーに言ってんの!
 これは俺達の好奇心を満たすための行動なんだから!」
そもそも寮を抜け出すのに、その先輩の部屋を通り抜けるのだから、秘密もなにも
あったものではないのだ。
きっと呆れた目をしつつも送り出してくれるだろう。
「樺地は?」
今この場にいないもう一人の仲間の名を口にすれば、切原はキョトンとした目を向ける。
だがそれは、すぐに笑みに変わった。
「来ーるに決まってんじゃんよ。引っ張ってでもな」
さすが切原のお気に入り、意を示さなくとも拒否権は自分と同じく最初から存在しない。
となると、一応拒否権の無かった自分も彼らのお気に入りなのか、と思って
知らず裕太の表情からも苦笑が零れ出ていた。










そして、夜の8時。
辺りはもう真っ暗で、下校時刻も2時間を過ぎてしまうと人の姿は無く静まり返っている。
階段の踊り場で立ち止まった裕太が、そういえば、と口を開いた。
「なぁ切原、お前七不思議って全部知ってんのか?」
「当然じゃんよ!日吉も知ってるよな?」
「いや…全部ってワケじゃない」
「あらら〜、じゃあ教えてやるからよーっく聞いとけよ?」
コホンとひとつ咳払いをすると、やたら胸を張った切原が口を開いた。





その1:13階段

西校舎…ええと、新校舎の方な?
あそこの屋上へ続く階段なんだけど、夜中に上ると2段増えて13段になるんだよ。
数えながら上っちまったら、13段目…つまり踊り場に、そこで死んだ男の幽霊が
出て来るってもっぱらのウワサだ。
男は相手を自分と同じ目に合わせてやろうと、階段から突き落とそうとする…
まぁ、そういう話だな。





その2:呪われた石膏像

美術室に、1つだけ重さの違う石膏像があるらしいぜ。
なんでも、それには本物の人間の頭蓋骨が埋め込まれてるって話だ。
夜になるとその石膏像が、血の涙を流すって言われてる。





その3:幽霊の話し声

夜中の図書室からな、数人の人間の話し声が聞こえてくるって話だ。
しかも実際これは聞いた奴が多い。
ひそひそ話す声から笑い合う声まで、やたら賑やかなんだってさ。
そんなに怖い話じゃねぇから、ぱっと確認しちまおうぜ。





その5:生物準備室の骨格標本

その骨格標本は、いつも決まった時間になると動き出すんだ。
なんでも、生きた肉体を探すためらしいぜ。
捕まってしまったら最後、そいつの餌食になっちまう。
昼間でも、長い時間その標本の前に立つと顔を覚えられちまって、
追いかけて来られるって話だ。





その6:開かずの掃除用具入れ

中庭のプレハブにある古いロッカーの中に、黒猫の死体が入ってんだと。
でも、どうしてかそのロッカー、昼間は絶対に開かないそうなんだ。
夜中になるとそのロッカーから猫の鳴き声が聞こえてきて、その時だけ
ロッカーが開くようになるらしい。





その7:陸上部員の幽霊

これはどこにでもありそうな話なんだけどよ、
要は…夜中にな、グラウンドのトラックを走り回るらしいんだ。
何がって…だから、幽霊がだよ!!





ざっくりと概要を聞いて、はぁ、と裕太が重く吐息を零した。
「どうしたよ?」
「…切原、4つ目が無い」
「は?」
「その4、忘れてるぞ」
「え?あれ?そうだっけ??」
ははは、と明るく笑うのにも溜息しか出す事ができず、仕方ないかと気を取り直して
裕太は階段を上りきった。
要するに、今言われた所を全部回れば満足するのだろう。
「行ってやれば良いんだろうが」
開き直って呟く裕太に、樺地が短く「ウス」と告げた。











<NEXT>











今回のお話は、七不思議の謎を解明しようっていう、ラフなお話です。
全然怖くはないので、気楽に読んで下さると嬉しいかも。
ちょっとした息抜き気分で。