TWILIGHT SYNDROME

〜 It's possible to challenge a lot of wonders!〜

 

 

 

 

「………樺地、お前な……」
「ウ、ウス…」
額を手で押さえながら重い吐息を零す跡部に、樺地が少し縮こまって遠慮がちに
いつも通りの返事をした。
NOのつもりで言ったのに、本当に来てしまったら言う通りにするしか無いではないか。
「ほら!言う通りにしましたよ!!
 付き合ってもらえるんでしょ?」
悪びれも無く笑顔で言う切原を、跡部は一度本気でどつき倒してやろうと固く心に
誓ったのだった。







#03 最終電車(前編)







事の発端はある土曜日、退屈を持て余した切原の叫びからだった。
「ヒマなんスよ!遊びに行きましょうってば!!」
「あァ!?ンなモン真田か柳にでも言えよ」
「あのヒト達居ないの知っててそんなコト言うんスか!?」
話題に上った当の2人は、幸村と約束があるとかで地元に戻っている。
残されたお子様は大いに不満があるようで、その矛先がこちらに向けられているのだが
それはそれでたまったものではない。
「大体、遊びに行くったって、何するんだよ」
「じ・つ・は!!ちょっと興味深いネタがあるんッスよ!!」
「……嫌な予感がするやんなぁ……」
真田の居ない部屋でのんびりくつろげると思ったらコレだ、と共に居た忍足も
僅かに苦笑を浮かべて見せた。
赤也の話は、割と近所にある駅のことだった。
メインで使っている寮近くの駅とは違い、少し歩かなければならない場所にあるその駅は、
ローカル線故か自分達が足を運んだのはたったの数度だ。
その駅に、何が。




「実はその駅、人がやたらと死ぬらしいんスよね」




ニコニコと笑みを浮かべつつそう話す切原に、先の読めた2人はやはり聞くんじゃなかったと
顔を見合わせて嘆息する。
だが聞いてしまった以上、話には付き合ってやらねばならないだろう。
「人が死ぬて……どういうコトなんや。名所とかなん?」
「なんか、それは色々らしいッスよ。
 自殺もあれば、単なる事故もあったらしいし……気になりません?」
「気にて……」
「絶対何かありますって!
 前に学校探検した時みたいに、見に行きましょうよッ!」
「はぁ…そんな展開になると思ったわ……」
やれやれと肩を竦めて、忍足は跡部に視線を向けた。
忍足自身の持つ霊感は厄介なものではあるが、だがそれでそういった場所に近付くのが
苦手かと言われればそうでもない。
線引きさえできれば、後は知らぬ存ぜぬで通せば済む事だ。
付き合いが悪いわけでは無いので、どうしてもと言うのなら行ってやっても良いが、
やはりここは跡部の判断を待つべきだろうと忍足は敢えて何も言わずにただ
隣に座る男の言葉を待った。
「……気が進まねぇなぁ……」
「そんなコト言わないで下さいよ〜!
 こう、ゴロゴロしてるだけじゃ刺激が足んないッスよ!!ね!?」
「………。」
「頼んますよ、跡部サンっ!」
目の前で両手を合わせて拝まれれば一概にNOとも突っぱねられず、渋面のままで
跡部が腕を組んだ。
突っぱね難いが、できれば突っぱねたい。
さて、どうしようか。
「………樺地を、」
「はい?」
「樺地を誘って……連れてくる事ができれば、行ってやる」
「本当ですかッ!?」
「まぁ…アイツがそう簡単に首を縦に振るとは思えねぇけどよ」
「任せといて下さいッ!!」
元気良くそう声を張り上げると、切原が勢い良くソファから立ち上がった。
「絶対に樺地の奴を口説き落としてくるッスよ!!
 今の言葉、忘れないで下さいよッ!?」
そう言い置いて、切原は大急ぎで自分の部屋へと戻って行った。
果たして彼は樺地を連れてくる事ができるだろうか。
樺地は肝試しに行こうと声をかけて乗ってくるタイプとはとてもじゃないが思えない。
だが、彼は友達思いのイイ奴だ。
もしかしたら……という事もあるだろう。
「…ええのん、跡部?
 そんな約束してもうて……」
「アーン?」
「樺地、来るんとちゃう?」
「………ま、そうなりゃそうなった時だ」
嘆息を零してそう答える跡部に、忍足が柔らかい笑みを浮かべたのだった。

そして冒頭の結論に至る。



















「ったく……それで結局こうなっちまうんだな…」
「へへへッ、イイじゃないッスか!折角なんだし楽しみましょうって!!」
「お前、こないだ学校で散々怖い目に合うとったんとちゃうん。
 大概に懲りひん奴っちゃなぁ……」
「やだなぁ忍足サン、そう褒めないで下さいよ〜」
「褒めてへん」
ぞろぞろと駅に向かいながら、楽しみで仕方無いのか足取りの軽い切原を筆頭に
跡部と忍足が呆れた表情を隠さないままで続き、しんがりに樺地が静かに歩く。
15分程歩いた頃、漸くお目当ての駅が視界に入ってきた。
「ここか……」
「そういえば…前にもこの駅で凄いヒサンなのがあったらしいんスよ。
 小っちゃい子供らしいんスけど、」
「子供…?」
「ええ。何でか、まるで誘われるように線路に下りちゃって…」
「………轢かれたんか?」
忍足が問うのに、切原が頷くことだけで答える。
「母親も一緒に居たらしいんスけど、その場で気絶、ですって」
「……何してたんだよ、その母親は」
「さぁ?そこまでは知んないですけどね。
 それでその子かどうかは判んないッスけど、子供の霊も出るらしいッスよ?」
こくりと首を傾げて切原が跡部の言葉に答えると、急ぎ足で券売機傍の
駅員室へと向かって行った。
こそりと様子を窺うが、もう誰も居ないのか中は暗く人の気配は無い。
それを確認すると、少し離れたところで待機している3人へと腕で大きく丸を作って
駅員達が帰ってしまっている事を知らせた。
「さぁて、そしたら探検開始ッスね!」
「お前はなんでそんな楽しそうなんや…?」
「うーん、やっぱり夜中に出歩いてるっていうだけで、何となくハイ?みたいな、ねぇ」
「はいはい。ほな行くで」
改札口の端にある腰ほどの高さの柵を軽々と越えると、4人はホームの中へと
乗り込んでいった。







ホームの電気は常についているので今回は懐中電灯を使う必要は無さそうだ。
それでも周囲の闇の方が強く視界はやや覚束ない部分もあるが、歩けない程でもない。
その中途半端さが、より一層深夜のホームの雰囲気をどこか別のものに変えている。
日中大勢の人で賑わっている駅構内に自分達以外誰も居ないというのも、普段の
ホームをより広く見せることに一役買っているだろう。
「さて、まず何処に行きてぇんだ、切原」
ホームに立ち猛スピードで行過ぎていく通過電車を見送りながら、跡部が切原にそう問うと、
何処で情報をリサーチしているのか、霊の出現ポイントを次々と口に乗せて見せた。
「ええとぉ、男子トイレでしょ、そこの陸橋でしょ、あと…」
「お前ドコでそんなネタ聞いてくんねん」
「それは日吉に聞いて下さいよ」
「アイツか……」
見かけに寄らず、日吉もかなりの物好きだ。
もう何度ついたか解らない吐息を零すと、跡部がざっとホームを見渡す。
今立っている側のホームの端に、切原が言った男子トイレが見える。
まずはそこから見てみるか。
「切原、あそこの事だな?」
「ウィッス!!」
元気良く答えて駆けていく切原を見て、跡部が樺地に声をかけた。
「樺地、切原から目ェ離すなよ」
「ウス」
今回は自分より何をしでかすか解らないお子様の傍に居ろという意味で言えば、
違わずに受け取った樺地が切原の後を追うように歩く速度を上げた。
跡部と忍足はその後をゆっくりと歩いて行く。
「珍しいやん、お前が先導せんなんて」
「いやもう、アイツの好きにさせた方がラクなんじゃねぇかと思ってよ」
「それは言えてるわ」
「お前はどうなんだ?」
「うん?」
「何か……感じるか」
静かに問われて、忍足がぐるりと駅全体を見渡すように視線を向ける。
そして暫くしてから、困ったように首を傾げた。
「なんか……よく解らへん」
「アーン?」
「この場所に何かあんのは間違い無いと思うんやけど……、」
「えらく曖昧じゃねぇか」
「うーん……跡部にはこのホーム、今はどんな風に見える?」
「どうって…」
眉を寄せて少し悩む素振りを見せた後、跡部がゆっくりと答えた。
「人気はねぇし、妙に薄暗いし、だだっ広く感じるし、寂れちまったみてぇだよな」
「やっぱりそうなんやな」
「そうってどうなんだよ。俺にも解るように言えっての」
「せやし……俺には、昼間と何ら変わらへんイメージなん。
 人で混雑して、あちこち歩き回ってて……めっちゃ、賑やかや」
「おいおいおい、それって…」
「全部アレやろ」
しかめっ面で跡部が言葉を漏らせば、くすくすと笑みを見せて忍足が言葉を繋いだ。
煩雑し過ぎてて、何か感じるかと問われれば感じてはいるのだろうがよく解らない
という答えが正解だろう。
以前行った公園の時とはまた全く違う。
思いそのものに一貫性が無いから、その内のひとつだけに触れるというのが
なかなか難しいのだ。
そう言ってやれば、少し安堵したように跡部が息を漏らした。
「まぁ…前ン時みてぇな事になるんじゃなきゃ、良いがな」
「特定の何かに接触する事があれば感じるかもしれんけど、ま、今んトコ
 この混雑が幸いした……って言ってええんとちゃう?」
「そうかよ」
「ちょっとー!何してるんスか2人ともー!!」
少しお喋りが過ぎたようだ。
待ちくたびれた風の切原に顔を見合わせ苦笑を漏らすと、2人は止まっていた足を
またゆっくりと動かし出した。









<NEXT>









今回のお話は3本立てになると思います。
いつもより長いのですが、それだけ気合が入っているのだと思ってくらさい。(笑)


やっぱり忍足がメンバーの中に居ると、さくっと話が前に進みます。
便利キャラですねー。
その場合跡部は必須ですけどね。(笑)