<はじめに>
この話は、高校生パラレルの一番最後にくるお話です。
時間軸は高校を卒業してから15年後。
メインメンバーのオールキャラですが、この時点で既に亡くなっている人物がいます。
何があったのかを詳しくお伝えするような話では無いのですが、ただ、最後まで
彼ららしさを無くさない話にしようと思っています。
結構迷ったのですが、いつかテニプリから離れて書けなくなってしまう前に
アップしておこうと思いました。
この話は、これから高校生パラレルの世界を物色される方は一番最後に、
全て読んで下さった方は、これが最後なんだという事を念頭に入れて下さった上で、
どうぞそれなりの覚悟をお持ちの上、ずずいと下にお進み下さい。
※これが時間軸的に高校生パラレルのラストですが、まだパラレルは終わりません。
まだまだ佐伯的に書く話は沢山ありますので!!(きっと最終話は卒業式だろうなー…)
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< It swears that this friendship exists forever. >
あの楽しかった高校生活を終えてから、15年。
そして、忍足侑士という仲間を失ってから、7年。
命日である今日、彼の遺骨の納められている寺の墓地で、再会を果たした。
別に約束をしたわけじゃない。ただ、今日という日にこの場所に勝手に足が
向いてしまっただけだ。
「あれぇ?何だよ、やっぱ皆来てんじゃん」
表情を緩めてその場所に足を踏み入れたのは千石。
それに吸っていた煙草を携帯灰皿で揉み消した向日が手を振った。
「よ、千石!!久し振りだな」
「遅いぞ千石、たるんどる!」
「うわ、何だか懐かしいフレーズだよ」
墓石に水をかける手を止め真田が渋い表情でそう言うと、千石が軽く肩を竦めて苦笑を見せた。
花を供えている柳と、線香に火を点している手塚、墓石を洗う手を休めた乾とも挨拶を交わす。
どうやらほぼ終わってしまっていたらしい。
それらの手順を面倒だと思っていた千石は、最後に来たことをほんの少し幸運に思った。
相変わらず千石のラッキーは健在らしい。
「結局、全員揃ったのか」
「まぁ、何度もかわるがわる誰かが来るより良いんじゃないか?」
「そりゃ言えてる」
和やかに会話をして、墓石の前で全員揃って手を合わせる。
久し振り、忍足。
何となく彼の葬式の後どうしても足が向かなくて、7年経って漸く全員が思い切る事ができた。
やっぱり、辛かった。
彼が死んだ時は、皆声を上げて泣いた。
だけど、そこで自分達は立ち止まるわけにはいかなかった。
彼の不幸を嘆いて、捕われるわけにはいかなかった。
だからほんの少しの間だけ、心の整理がつくまでの間だけ、彼の事は片隅に追いやった。
皆が揃って今日という日を選んだのは、少し意外だったけど嬉しく感じる。
「だが、真田もよく来れたよな、刑事って忙しいんだろう?」
「ああ、弦一郎は半年前から今日の休みを申請していたな」
「そういう蓮二こそ、絶対休むって言い張っていたでは無いか」
「手塚も、試合と被ってたらどうしてたのさ」
「こっちに来るに決まっている」
「うわ、言い切ったな手塚……」
「それぐらい、今日は大切な日だ」
ぞろぞろと墓地を後にして、せっかくだから久々に皆で食事をしないかと向日が提案すれば、
全員がその誘いに乗った。
「俺らってさ、一体何年振りだよ?」
「ええと……4年近くになるんじゃない?」
「正確には3年と7ヶ月だ」
「うっわ柳、相変わらず細けー!!」
「あれ、何でだったっけ?」
「………あー、」
「そうだ、アレだ」
「跡部の葬式だな。あれは本当に大掛かりだった。
さすが跡部……と言うべきなのか?金持ちは違うなと思ったよ」
忍足が亡くなってから3年後、跡部もこの世を去った。
悪性の腫瘍が巣食っていたらしい。
結局その事は、向日以外は彼が死んだ後に聞かされた。
跡部が向日に対して半分脅しのような口止めをしたからだ。
「しっかし、最後に神技見せてくれたよね、跡部もさ」
「ああ……たった3年で、新しい事業の地盤を完璧に固めたのだろう?」
「普通の人間じゃできないよねー。しかもアレでしょ?跡部って、癌だったんでしょ?
最後の方なんかもう精神力だったんじゃない?」
「……跡部はそういう男だ。抜かりなく、全てを整えておく…やはり完璧だよ、アイツは」
「侑士の前じゃあ、ダメ人間だったけどな」
「そういえば、忍足が死んだ時、跡部はやけに冷静だったな。もっと荒れるかと思ったが」
「ああ、あれは……知ってたからだよ」
「知っていた?」
忍足の死は唐突だった。
実際には『連れて行かれた』に等しい最期だった。
誰も想像していなかった現実に皆が動揺を隠せなかったというのに、跡部だけが違ったのだ。
彼は霊安室で目を閉じたままの忍足に短く別れを告げた後、病院の外で何食わぬ顔のまま
仕事の電話をしていた。
あまりといえばあまりな態度に、真田が彼に掴みかかったのはよく覚えている。
「そういえば………あの時跡部は、時間が無いんだと言っていたな」
「ああ、俺はアイツが死ぬ前に病院で直接聞いたんだけどな、あの時にはもう、
自分もあと少ししか生きられないって知ってたみたいだ」
「ということは、忍足が死ぬもっと前から悪かったという事なのか?」
「それまではちゃんと治療してたんだよ。転移してたから手術はもう無理だったけど、
薬で抑えれば少なくとも倍以上は生きられたんだってさ。
けどアイツ、忍足が死んだ後……一切の治療を断ったんだ」
「…馬鹿な、まさかヤケになったとでも…」
「違う違う。そうじゃなくて」
今でも、鮮明に思い出せる。
死を目前に控えた彼は、とても穏やかだった。
………無様か、今の俺は。
そんな事無ぇよ。しかし痩せたなー。今は?
痛み止め。
それだけかよ。
ああ。
モルヒネ?
とっくの昔だ。それも効かねぇ時だってあるんだぜ。
……恐ッ。
ああ、お前は早い目に手術して治せよ。たまったモンじゃねぇ。
いやいやいや、俺は癌じゃねーし。それ以前に健康だし。
バァカ。もしもの話だ。
…お前、相変わらず性格サイアクだな。
褒め言葉か?
そうかも。
…………。
…………。
………なぁ、跡部。
アーン?
どうして……治療止めたわけ?
…………。
もう、3年経つぜ?
あぁ……何となく、自分の身体のことって解るみてぇだ。
どういう意味だよ。
あまり、時間が無いような気がしてる。
限界か?
そうだな。だが……間に合った。
何がだよ。
全ての準備はもう整ってある。
…お前、今度は何やらかす気だよ。
やらかすなんて人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ。
だって昔からそうだったじゃねーか。俺と侑士はいっつもお前のフォローばっかりで。
………そりゃあ、苦労をかけた。
そういう事言ってんじゃねーから。
解ってるっつーんだよ。
やっぱお前、性格悪いな。
ありがとよ。
褒めてんじゃねーって。そんで話戻せっての。
ああ、そうだったな………忍足が死んだのは、本当に急だっただろ?
そうだったな。
丁度あの時、新しい事業に着手したところでな……俺自身、どうしていいか解らなかった。
何だよ、それ…。
あの時真田が人のツラ思い切りぶん殴ってくれたけどよ、
……そういやそんな事もあったっけ?
俺だって、本当は死にたいぐらい辛かったんだぜ?
だが……そんなワケにもいかねぇだろ?一応俺は大勢の人間の生活預かってる身だしな。
どっちみちあの頃から、もう長くは保たねぇとは言われてたけどよ…。
どのぐらいだったんだ?
あのまま投薬を続けていても、せいぜい6〜7年ってところだ。
で、担当だった医者に…ああ今でも担当だけどよ、治療止めたらどのぐらい保つか訊いたら、
せいぜい3年が良いところだって言いやがったんだよ。
うん。
新しい事業が軌道に乗るまで5年と読んでたんだが…今の俺の力なら3年ならやれると思ったんだ。
は?それで止めたのかよ!?
仕方無ぇだろうが。これが一杯一杯の選択だったんだ。
……跡部?
死にたい俺と、死ねない俺の、精一杯の妥協案がそれだったんだ。
それからはもういっそこのまま息の根が止まるんじゃねぇかっつーぐらい忙しかったんだぜ?
あークソ、もっと早くテメェに事情を話して手伝わせりゃあ良かったぜ。
いや、無理だし。つーかやりたくねーし。
ああ、お前にゃ無理だ。
………お前な。
漸く、一段落ついた。
え…?
全て上手く回り始めたし、俺の後継者ももう決まった。
後は……アイツの迎えを待つだけだな。
うっわ、侑士が迎えに来る事に決定してんのかよ。
アーン?当然だろ?
……ホント、お前その性格だけは変わんねぇのな……。
改めなきゃならねぇ性格だとは思わねぇが?
いや、まぁ、うん、もぉいいデス……。
岳人。
何だよ。
……氷帝でお前と忍足に出逢ってからずっと、楽しかった。ありがとよ。
今更礼なんて言うんじゃねーって。照れるから。
あ、それじゃあ俺、これで帰るよ。たくさん喋って疲れたろ?
…あぁ、また来いよ。
そうだなー……時間が取れるようなら、また来るぜ。
またな、岳人。
ああ、じゃあな跡部。
結局それから、一度も会う事はできなかった。
次はいつ行けそうかと仕事のスケジュールと睨み合っていた矢先、彼が亡くなったという連絡を受けた。
それは向日が跡部と言葉を交わした、ほんの5日後の事だった。
実は、高校生パラレルと霊感少年パラレルを繋げようと、
そして『ONE WEEK』を書こうと決めた時点で
この話は頭の中にありました。
そもそも、こんな設定で忍足が長生きできるとも思えませんでした。(苦笑)
跡部も忍足も居ないけれど、けれど8人の友情はずっと続いていくのだと、
そういうイメージで書こうと思ってます。
まだ後半がありますので、どうぞお付き合い下さい。