< It swears that this friendship exists forever. >
「…だから、なんつーかさ、アイツが死んでもあんまり悲しいとかは思わなかったな」
適当な飲食店に入り、オーダーしたものが来るまでの間、向日はその時の事をそう話して聞かせた。
そして、最後にこう締め括る。
「アイツきっと、思い残したことなんて何もねーぜ?」
「…だろうな。そんな気がする」
「だから俺も引き摺らない事にしたんだ」
20歳の誕生日を迎えると同時に、向日から霊感は消えてしまった。
だから彼らが万が一その辺を漂っていたとしても、それを知ることは無い。
「跡部は別にイイんだよ」
「それも随分な言い方だな」
「でも、やっぱ………侑士の事は、痛かったなー……」
「アイツ、医者になりたがってたからな…」
「………だが、」
「どうした、蓮二?」
「忍足は……多分シンクロしている事を知っていた」
誰よりも強かった忍足は、誰よりも弱い者に連れて行かれてしまった。
振り切らなければならない存在に、手を差し伸べてしまったのだ。
忍足らしい最期だとも思ったが、結果的に彼を守る事の叶わなかった仲間達は
激しい後悔に見舞われる事になる。
立ち直るまでに、7年。
「……いーよ、今ではすんごく忍足らしいって思えるし」
「そだな、侑士らしい」
「しかし…もう7年になるのだな」
「まったく、時が流れるのは早い」
「あはは、言えてる」
「そういえば知ってる?忍足がさぁ、……」
もう、あの時の事を思い出して悲しむような事はしない。
そうじゃなくて、記憶に残っている事はもっと沢山あったから。
楽しかった時の思い出なら、山ほどあるから。
良い事も悪い事も全部、皆で共有しているものだから。
だから、辛くない。
「あ、そうだ。
手塚の今度の試合、日本でやるよ」
「マジ!?チケット回してくれよ!
俺絶対見に行くからさ!」
「はいはい、ええと、チケット欲しい人ー」
「「「はーい」」」
「…………全員じゃないか」
「負けたらタコ殴りだぜ?手塚」
「う……それは困るな」
「負けないよ、手塚は」
「乾…そこまで断言すると逆にプレッシャーになるんじゃない?」
「多少プレッシャーがあった方が良いんだよ」
食事をしながらそれぞれの近況を話す。
久々に会った分、話したいことはそれこそ山ほどあって、気が付けばあっという間に
時間は過ぎ去ってしまっていた。
「……む、いかん。そろそろ戻らないと…」
「ああ、そういえば蓮二、明日は最高裁だったな」
「俺が勝つ確率95%だ」
「うっわー!相変わらず高確率でやんの」
「俺、何かあったら絶対柳に頼もうっと…」
「……お前達は学生時代だけでなく今も俺に面倒をかけようと言うのか?」
「「宜しくお願いしまーす!!」」
「………弦一郎、何とかしてくれ」
「ははは、相変わらずだな」
またぞろぞろと店を出て、駅へ向かって皆で歩く。
「あーそういや、卒業式の日もこんなカンジで皆で歩いたよね」
「あの頃はまだ跡部も忍足も居たがな」
「うん。だけど……なんだか、」
「ああ、今も2人はすぐそこに居るような気がしてしょうがない」
「そうそう、跡部の奴、樺地に荷物持たせてさぁ」
「それで忍足に怒られてるんだよね。自分のモンぐらい自分で持てってさ」
「跡部が言う事聞かないから、俺達の荷物も樺地に押し付けたな」
「ああ、そしたら跡部、怒るんだよな。『テメェらの分ぐらいテメェらで持ちやがれ!』ってさ」
「そうだ、それで俺達は皆で答えるんだ」
「「「お前に言われる筋合いは無い」」」
「ってね」
「………ついこの間の事のようだ」
「そうだな」
切符を買って、今では皆住んでいるところが違うので、ここでお別れ。
「次っていつ会えるんだろうね。また来年の今日かな?」
「その前に跡部の命日が来るだろう」
「あ、忘れてた。いつだっけ」
「………本当に友達甲斐の無い奴だな…」
「10月15日だよ」
「あ!そっか!!誕生日!!」
「そうだ」
「………やっぱコレって狙ってたんじゃねェ?」
「跡部のことだからな、ありえそうだ。
きっと…自分の命日の事などより、忍足の誕生日を祝えと言うのだろう、アイツ」
「じゃあ、そうしようか。ちょっと遅れるけど跡部の誕生日と、跡部の命日と、忍足の誕生日、全部一緒に」
「楽で良い」
「言えてる」
皆で改札を潜って、ホームは違うので階段を上る前に次の予定を決めておく。
その時にふと、千石が気が付いた。
「ねぇ、もしかしてさ」
「ん?どうしたんだよ千石」
「……跡部と忍足って、三十路知らず?」
忍足は26で。
跡部は29で。
「何かハラ立つな」
「ムカつくな」
「…よし、次の墓参りの時は皆で嫌味を言ってやるか」
「「賛成ー!!」」
また、会う約束をしよう。
また、会いに行くと約束をしよう。
彼らの関係は、そうやってずっとずっと続いていく。
今までも、そしてこれからも。
<終>
ええと、色々書きたいことはあるんですけど…何から書いておこうかな。
私の中で既に出来上がっている設定を、箇条書きにしておきますか。
■忍足が最後に憑かれたのは、赤ん坊の霊です。水子霊ってヤツ。
■最終的に忍足は自殺同様の最期を遂げる……わけで、その辺は書きません。イタイから。
■忍足の命日は2月。
■跡部の命日は10月15日。忍足の誕生日と被ったのは偶然です。
■手塚はプロのテニスプレイヤー。世界中を飛び回ってます。
■乾は手塚の専属トレーナー。でも日本に来た時はバイトでカチロー君とこのテニスクラブで教えてます。
■真田は刑事。性格的に理想的だと思うよ。
■柳は弁護士。たまに真田とタッグを組んだり、たまに争ったり。
■向日はスタイリスト。最近人気が上がって来たらしい。
■千石……は、実はまだハッキリ決まってません。つーか、フツーに結婚とかしてそうだ。(笑)
■20歳で失った向日の霊感は、ある程度歳食ったらまた復活します。じーちゃんになったらね。
とまぁ、そんな具合です。
彼らはこれから、年に2回は必ず集合してそうですね。
跡部の命日と忍足の命日に。
ずっとずっと、仲良しでいてくれたらなぁという、願いをこめて。