− Message −  Side.A









夏。
じりじりと照りつける太陽は、さも当然かのように高温を突きつけ
発汗を余儀なくさせてくる。
「……あっちィ……」
こんな日はどうしようもなくダレる。
今日が部活のオフ日で本当に良かった。
こんな日に部活なんかしていたら、熱射病で倒れる奴が後を絶たないだろう。
特にする事もしたい事もあったわけじゃなくて、単に退屈だったから
散歩がてらにあちこち練り歩いて、気がつけば学校の近くにある公園まで来ていた。
……事実を言えば、そこであまりの暑さに力尽きた、のだけれど。
「くそ…」
残念ながら日よけになるものなど何ひとつ持っちゃいない。
ベンチに腰掛けるも、そのベンチすら灼熱でいっそ拷問かとも思えた。
ああくそ、やってらんねぇ。
確かにこの世界を明るく照らす太陽は嫌いじゃない。
だが暑さはやっぱり別だ。
今日のソレはハッキリ言うが限界を超えている。




「……くそ、なんでこんなに暑ィんだよ……」


「夏やからに決まってるやん」




独り言のつもりで吐き出した言葉に思いもよらず返事があって、
表情には出さなかったけれど正直驚いた。
ふいに頭上が陰って直射日光を遮るのは、ひとつの手。
何事かと思って視線を緩慢に動かせば、頬に当たったのはヒヤリとした冷気。
ピタリと頬にくっつけられた、恐らく買ったばかりであろうスポーツドリンクの
ペットボトルを有り難く頂戴して、ベンチに背を持たせかけてそのまま
真後ろが見えるように頭を傾けると、呆れたような丸眼鏡が俺を見ていた。
「……何でお前が此処に居るんだ?」
「単なる通りすがりや。俺んちこの近所やねん」
「そうだったか?」
「暑さでボケとんな〜……ほら、お中元」
「おう、サンキュ」
ペットの蓋を開けて、冷たい液体をぐいと喉に流し込むと身体中を駆けるかのように
水分が行き渡った。
生き返る。
「日傘も差さんとこんな直射日光浴びるなんて、お前も相当イカれとんな」
「あァ?」
「何しとんの」
「一人我慢大会」
「アホや」
おどけて言えば、呆れたような忍足の笑い声が聞こえてくる。
しかしまぁ、偶然とはいえ此処まで来たからコイツと会えたってのもあるんだよな。
そう思えば悪くねぇカンジだ。
「予定は?」
「特には何も」
「ほな、ウチ来る?」
「いいのかよ」
「別に、俺もヒマやし。少なくとも此処より涼しいで?」
「そりゃあ良い」
そういえば、まだ忍足の家には行った事が無かったな。
ぼんやりそんな事を考えていたら、さっさと家に向かおうとしていたのか
少し離れたところから催促する声が聞こえてきた。
残りのスポーツドリンクを一気に流し込んで、ベンチ近くのゴミ箱に投げ込む。
ホールインワン。さすが俺様。
「何してんねん跡部!早よ行くで!!」
「ああ、わかったわかった。ンな焦んなよ」
答えて俺はベンチを立つ。
一度だけ、目の前に手を翳し俺は太陽を仰ぎ見た。
ギラギラと相変わらず照りつけるソレに、少しだけ目を細めて。




「………もっと、輝けよ」




足りない。
まだまだ、足りない。
もっと輝いて、世界を眩いばかりに照らし出せ。






太陽の光に晒されて映える世界を、俺は見届けていよう。


ただし……冷房の効いた忍足の部屋の中からだけど…な?







【END】







※跡部から夏の太陽へのメッセージというコトで。
 そして実はこっそりと対の
忍足版があったりします。(笑)


※DLフリー期間は過ぎております。閲覧のみでよろしくお願いします。