誰が新八を連れて行くかで実は少々揉めたのだが、これが最後なのだからと
結局4人で向かう事になった。
銀時は保護者してた俺が行かないワケにはいかないと言い張り、桂はお前では
ロクに事情説明もできやしないだろうとのたまい、高杉は面倒臭いがお前らだけじゃ
心配だと嘆き、坂本はただ単に行きたがっただけだ。
拠点の守りは他の仲間達に任せておけば安心なのでそう心配はしてなかったのだが、
正直、こういう展開になるとは思ってもみなかった。
よもやまさか、囲まれてしまうなんて。
「おいおいおーい?
 これってどういう事ですか、ヅラくーん?」
「どうして俺達が此処を通ると知っているのだ…。
 まさか、味方内に内通者が…!?」
「ま、そう考えるのが妥当なセンだな」
自分達を取り囲むのは天人の集団だ。
それぞれに武器を持っている所を見ると、観光客の集団というわけでも
道を尋ねに来たというわけでもないらしい。
「どうすんじゃ?
 向こうさんは、おっぱじめる気満々じゃけぇ、このままじゃあ…」
「分かっている!!だが……」
坂本の言葉に荒々しく返して、桂は気遣わしげに新八の方を見た。
此処で刀を抜き戦うのは難しい話ではない。
だが、どうあったってこの幼い子供が巻き込まれるのは間違いないだろう。
「………よォ、此処は3人でヤるってぇのは、どうだ?」
「高杉?」
「たかだか天人の2〜30人ぐらい、俺らにとっちゃ造作もねェ。
 一人減ったってノルマ10人がいいトコだ。できるだろ」
「…………それしかないか」
高杉の提案に暫し思案していた風だった桂が、こくりと頷いてみせる。
そうと決まればさっさと片付けるに限る、モタモタして加勢が増えれば
更に厄介な事になるのは間違いない。
「銀時」
「へ?」
「お前、クソガキを連れて行け。
 天人共は此処で食い止める」
「いやいやいや、でもそれじゃお前らが……」
「馬鹿言え、今は我々の事よりも、少年の命が最優先だ」
「…………。」
「モタモタしとる暇はなか、さっさと行かんか!!」
逡巡する銀時の服の裾を掴んだのは新八だ。
不安そうに見上げてくるそれは、幼いながらもきっと状況を理解しているのだろう。
ち、と小さく舌打ちを零すと、すぐに戻ると言って銀時は新八を抱き上げた。
橋を渡って行く姿を見送って、その手前に陣取った3人は各々腰の得物を手にする。
「じゃ、いっちょ暴れてやるとしようぜ」
「楽しそうだな、高杉」
「暴れたくてウズウズしていた所でな。丁度良い」
「ほんに、おっかない男じゃの、高杉は」
「お前らだって同じなクセによく言うぜ」
「ははは!」
「違いない」
鼻で笑って言う高杉に、坂本は思わず声を上げて手を叩き、桂も口元に笑みを乗せた。

 

とりあえず今は、あの子供が無事であればそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎ、銀さん銀さん銀さん!!」
「んだよ、うっせーな!!」
新八を肩に担ぎ上げて走る銀時が、背中を叩かれて苛ついたように目を向ける。
張り紙で見た住所と確認した地図の記憶だけが頼りだ。
あまり詳しくない町を歩くのは慣れていない。
3人と天人達の姿はあっという間に見えなくなって、ただ風に乗って喧騒と
刀がぶつかり合う音だけが聞こえてきていた。
「銀さん、とめて!とめてよ!!」
「できるかッ!!
 とにかく今は真っ直ぐお前ンちまで…」
「いいから!!ボクはいいから!!」
じたばたと暴れ出されて走り難くなった銀時は、そこで足を止めた。
ゆっくりと地面に下ろしてやれば、新八はキョロキョロと辺りを見回す。
「この道、ボク、知ってます。
 だから一人で帰れるよ」
事実、生まれ育った家へは、あと角を2つ3つ曲がれば辿り着く。
手を引かれなければ帰れないほど子供ではない。
「あのね、銀さん。
 ボクはもうだいじょうぶだから、銀さんはみんなのところへ行ってあげてよ」
「新八………お前、」
「ボクはみんなが大好きだから、あぶないことしてほしくないよ。
 ヅラさんも坂本さんも高杉さんも、みんな大好きなんだ。
 銀さんだって……みんなが大好きでしょ?」
必死に喋る新八の声を聞きながら、銀時は腰に差している刀へ目をやった。
カチャリ、と鯉口が鳴って、ギクリとする。
この子供はもしかして全てを見透かしているのだろうか、そう思って。
「ボクは一人で行けるよ、だから銀さんはみんなを助けてあげてよ」
「………本当に、一人で行けるか?」
「うん!」
強く刀の鞘を握り締めて問えば、新八は力強く頷いてみせる。
ふ、と口元から自然と笑みが零れ出た。
「すまねぇな、新八。最後まで面倒見てやれなくてよ」
手を伸ばしてくしゃりと頭を撫でて、さよならだ、と告げると銀時は踵を返した。
だが、来た道を戻ろうとしたその服の裾を、反射的に新八がぎゅうと握って止める。
「………どした?」
「あ、あのね、あのね。
 ボク、銀さんも大好きだよ。大好きだからね、
 だから………ぜったいに死なないで、ね?」
「………バーカ、」
ニタリと笑みを浮かべると、銀時は少しだけ腰を屈めて泣きそうな顔で見上げてくる
小さな少年の額に唇を押し付けた。
「絶対また会うって約束したろ、死なねーよ。
 お前こそ約束破んじゃねーぞ?」
「うん!ぜったい!!」
ぐっと突き出してきた新八の小指に自分の小指を絡めると、今度こそ銀時は
通りの向こうへと走って行った。
その姿を見えなくなるまで見送って、頬を流れた涙を拭うと新八は歩き慣れた道を
我が家へと向かって駆けて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、そういう事があったわけで、
3週間ほど行方知れずになっていた僕は、帰った途端に姉上にボコボコにされて、
それから沢山泣かれてしまった。
本当に心配させたんだろう、そりゃそうだ、危うく本当に一人ぼっちになるかも
しれなかったのだから。

 

それから暫くは家から出られなかったのだけれど、その規制もじきに無くなって、
普段通りの生活を始めて、あの時の思い出は記憶の中でほんの少しずつ薄れていった。
約束を忘れたわけじゃなかったから、僕が人並みに色々考えられる歳になってから
調べてみて分かったのは、あの時の攘夷志士の一団は解体していたという事実だった。
これではもう、捜しようがない。
途方に暮れたけど、これも時代の流れ。

 

 

そうして気が付けば10年が経ち、僕は16歳になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      あなたは誰との再会を、望みますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.銀時

 

2.桂

 

3.坂本

 

4.高杉