−銀時編−
「へェ〜、新八ちっこいアルな〜」
「そりゃあね、6歳だったらこんなモンでしょ」
「しかも弱っちそうネ。軟弱とゆーか貧弱とゆーか」
「神楽ちゃん、それ失礼だからさ」
志村家の蔵の掃除を頼まれて、最初からダラけまくっている銀時はアテにならないと
新八と神楽は2人で頑張っていたのだが、そこで神楽は1冊のアルバムを見つけたのだ。
あまり自分の写真なんて見返す事も無かったから、懐かしさに負けて神楽と共に
アルバムを覗き込んで、現在に至る。
「そういえば新ちゃん、この頃に行方不明になった時期があったわねぇ」
「うわ、姉上!?」
「行方不明?誘拐アルか?」
「それがねぇ、ある日ひょっこりと新ちゃんったら、何事も無かったかのような
顔して帰ってきたのよね。
何処で何してたのか訊いても、殴っても首締めても、絶対に白状しなかったわ」
「首締められたから喋れなかったんですよ、僕は!!
ていうかそんな暴力的な尋問やめて下さい!!」
「あら、じゃあ今なら教えてくれるの?」
「………それは、」
言い澱んで視線を逸らした新八に、お妙と神楽が横目で視線を交し合う。
これは何か企んでる目だ、むしろ拷問的な尋問を始める目だ。
「ぞ、雑巾洗ってくるからッ!!」
大慌てで立ち上がると、新八は一目散に蔵から飛び出して、母屋の方へと
駆け込んでいった。
草履を脱ぎ捨て居間に入ると、ジャンプも無くて暇なのかゴロ寝している
銀時が目に入り、ガクリと新八は肩を落とす。
まったく、ぐうたらなのも大概にしてほしい。
「銀さーん、いつまで寝てるんですか?」
「………蔵の掃除が終わるまで」
「コレっぽっちもやる気ねぇのかよ!!」
とはいえ言い出したら梃でも動かないのが銀時だ、諦めると新八は畳の上に
座り込んだ。
夏の熱を孕んだ風が、吊ってある風鈴を揺らしていく。
ちりん、ちりん、と音が鳴るのを聞きながら、新八は少し前の事を思い出していた。
捜して見つけ出せと言われたが、その術を知らない自分は日々を何事も無く過ごし、
そうして偶然、再会する事ができたのだ。
攘夷志士の一団が解体された後、銀時は隣の町で万事屋なる家業を営んでいた。
元々縁が無い職だ、見つかるわけがない。
「ほんと、勝手に抜けるんだもの、まだ居るんだって思ってたこっちにしてみれば
イイ迷惑だっつーの」
「……え、なに?何いきなり怒ってんの、お前?」
「捜せって言っといて、手間ァかけさせんなって話ですよ」
「………ああ、」
少し考えるような素振りを見せた銀時は、そっか、と声を漏らしてゴロリと
仰向けに転がった。
ちょいちょいと手だけで新八を呼び寄せる。
「なんですか?」
「約束、あったろ」
「ありましたね」
だから今、こうして自分も万事屋にいるのだ。
交わした約束は漸く果たされて、何とか自分は銀時を手伝っている。
「……俺さァ、嬉しかったんだよな。
てめぇの勝手で戦場から足抜けて、なのにこうして、やっぱお前が居るんだよ。
それが、さ。………嬉しかったんだよ」
「銀さん……」
「ありがとよ、新八」
「………僕の方こそ。
待っててくれて、ありがとうございます」
にこりと笑って言う新八を、眩しそうに目を細めて銀時は見つめる。
ちりん、と風鈴が懐かしい音を上げた。
<終>
締めはベーシックに銀新で。(笑)
再会した後に、銀時は新八に対する思いを自覚すればいい。
でも、それはきっと10年前から持ち続けてたものだと思います。
自覚してなかっただけでね。
最後までお付き合い有り難うございました!!
−桂編−
それを町で見かけたのは、ほんの偶然だった。
道の端に立てられた看板に貼られているのは、最近指名手配された男の似顔絵と名前。
買い物の帰り道だった新八は、それに気がついて思わず足を止めた。
懐かしい、その顔と名前。
「………うそ、」
誰も見てないのをいい事に、思わずその張り紙を引き剥がして、食い入るように見つめた。
間違いない、この辺りにいるのだ。
大急ぎで家に帰って買ってきたものを冷蔵庫に放り込むと、新八はもう一度外へ出た。
何処へ向かうのかなんて自分でも分からない。
けれど近くにいるかもしれないと知った自分に、もう足を止める事なんてできなかった。
江戸の西と東を繋ぐ橋の上、笠を深く被った一人の僧が座っている。
傍らには変な白い生き物もいて、一体何だろうと一瞬考えてしまった。
走っていた足を僧の前で止め、ぜえぜえと切らした息をなんとか整えて、
ずっと握りっぱなしだった手配書を、もう一度広げる。
「………ヅラさん、ですよね?」
「ヅラじゃない、桂だ。
そういう君は何者だ…?」
「新八です。志村新八」
「………なに?」
怪訝そうな顔をして、座り込んでいた僧は笠を持ち上げて仰ぎ見るように
首を傾けた。
長く黒い髪がさらりと肩を流れる。
「お久し振りです、………随分捜したんですよ?」
「あの時の……子供か」
「子供って…嫌ですよ、僕もう16になったんですから」
「そうか……あれから10年も経ったのか……」
「随分捜したんですよ。
いつの間にか皆バラバラになっちゃって…本当に、何処に行っちゃったのか
ぜんぜん……分からなくて……」
もう、二度と誰にも会えないのかもしれない、それは確かに一度は胸を掠めた
締め付けられるような不安だった。
「僕、あの時から決めてたんです。
もっともっと強くなって、立派なお侍になって、皆の手助けをするんだって」
「………あれからの時代の流れを知っているだろう?
今はもう……俺も、お尋ね者の身だ」
「分かってますし、それでもいいんです。
それでも……会いたかったんです」
心細くて泣いていた自分に優しく手を差し伸べてくれた事を覚えている。
あの頃のように、まだこの手は温かいのなら。
「今度こそ、僕も一緒に戦わせて下さい、桂さん」
そっと手を伸ばして桂の手を握って、新八はそう告げて笑みを浮かべる。
傍に居た白い生き物が、『仲間になるのか?』というプレートを持ち上げ、
ぽちくりと瞬きを繰り返した新八は、あはは、とあの頃と同じような
幼さの残る笑い顔を見せた。
「僕で力になれるのなら、喜んで」
「………歓迎しようじゃないか」
ふふ、と桂も笑みを零して、新八の手を引き立ち上がる。
繋いだ手は、あの頃と同じで温かかった。
<終>
ありそうでなさそうなヅラ新で。(ニヤ)
この後はきっとヅラに振り回されまくってる新八がいるんでしょう。
そしてエリーとは、エリゴ13と後輩の仲。(笑)
結局のところ仲良くやるんだろうなぁと思ってみたり。
最後までお付き合い有り難うございました!!
−坂本編−
バイトを転々とした末に辿り着いた場所は、一隻の船だった。
それも、海をゆくのではなく、宇宙へと出る船だ。
機械に弱かった新八は、その船の中で荷物の運搬を手伝っていた。
昔から鍛えていた事もあって、頭を使うより力仕事の方が向いている。
船内を倉庫へ向かっていくつかの荷を積んだ台車を押していると、
この船の主が来ると、前を歩いていた先輩のバイトが声を上げた。
自然と足は廊下の隅に寄り止まって、挨拶をするために頭を下げる。
ふと顔を上げた新八が、その船の主と目を合わせた。
「………見ん顔じゃな、新入りか?」
「はい、志村新八です。宜しくお願いします」
改めてぺこりと頭を下げると、自分の前で足を止めた主が僅かに息を呑む。
「おまん………まさか、」
「はい?」
こくりと新八が首を傾げれば、相手はサングラスを取ってまじまじと新八の
顔を見つめた。
その表情がみるみる内に笑顔へと変わるのを、間近で見た新八は大きく
両目を瞠る。
「わっはっはっは!!久し振りじゃのォ!!
あーんなに小さかった童が、こんなにでっかくなっちょるとは
思わんかったきに!!」
「え、あ、も…しかして、坂本、さん!?」
わしわしと大きな掌で乱暴に頭をかき回されて、目を白黒させながら
新八は驚きの声を上げる。
まさか、たまたま入ったバイト先の主人が、あの坂本だったなんて。
「ところでおまん、こんな所で何しとんじゃ?」
「……いや、あの……バイトで入ったんですけど……」
「おお、おお、そうだったか!!」
「あれから僕の方も色々ありまして……道場を復興させるために、
姉と生活していくために、お金が要るんですよ」
「……無事に帰れたか、そりゃ何よりじゃァ」
「ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げて新八は改めて礼を告げると、坂本はなぁに、と
穏やかな表情で笑みを覗かせる。
「金時たちには会えたか?」
「いいえ……まだですっていうか、銀ですよね、銀。
……みんなにも会いたいなァ……」
ぽつりと寂しそうな顔で呟いた新八の顔を暫く眺め、坂本はポンと
ひとつ手を打った。
自分も彼らとは随分ご無沙汰ではあるが、時折何の気まぐれか桂が
手紙を書いて寄越す。
しかもお尋ね者の身の上のクセに、ご丁寧に潜伏先の住所をリターンアドレスとして
書いているのだ、これには流石の坂本も呆れ返った記憶がある。
住所は江戸の中心地に近いところだった。
手紙には取り留めの無いことがつらつらと書き綴ってあるだけなのだが、
最近貰ったものに「久し振りに銀時に会ったぞ」という一言が書いてあった
ような気がする。そして、高杉も京から江戸に出てきているとも。
其処へ行けば、会えるかもしれない。
「捜しに行くかァ」
「………は?」
「2人で捜せばほんのスグじゃき、行くぜよ少年!!
ほれ、走った走った!!」
「え、ちょ、坂本さん仕事はァァァ!?」
「大丈夫じゃ、陸奥がしっかりやっちょるけん!!」
新八の腕を引っ張り走り出しながら、坂本はぐっと親指を立ててみせる。
それにやや困ったように眉を下げながらも、新八は小さく笑顔を落とした。
なんとなく、なんとなくだが、見つかりそうな気がするのだ。
坂本と一緒なら、きっと見つかると。
2人が懐かしい顔ぶれを探し当てるのは、それからほんの暫く後のこと。
<終>
真っ先にコレを選ばれた方はきっとモノズキなのだろう坂新。(爆)
きっと仲間達を捜し当てて、坂本はまたひと騒動起こしていくのだろうな。
そんで怒り狂った陸奥がお迎えに来るのでしょう。
新八は呆れながらも後ろで眺めていると微笑ましいですね!(ね!って…)
最後までお付き合い有り難うございました!!
−高杉編−
賊が忍び込んでいた、という話を高杉が耳にしたのは、表での騒動が
ある程度収まって暫くしてからだった。
高杉の率いる過激派集団に身を置くものは、大体にして喧嘩っ早く
口よりもまず手が出るような連中ばかりだ。
たった一人の侵入者が取り押さえられるのは時間の問題だった。
だが、興味を持った高杉が「連れて来い」と命じるのは、そうある話ではない。
そういう意味では、彼のその一言が全てを運命付けたと言っても過言ではなかった。
「……へェ、テメーか、一人でこんなトコロに忍び込んで来るモノズキは」
「…………。」
「おい、顔上げろ」
そう言われて、2人の男に両腕を捕えられるようにして来た侵入者は、ゆっくりと
俯けていた顔を高杉の方へと向ける。
それはまだ少年の域を抜けていないような年頃の子供で、眼鏡の下から大きな瞳が
強い意志を持っているかのように力強く向けられていた。
じっと真っ直ぐに見つめてくる子供に、高杉が訝しげに眉を顰める。
「………俺の顔に何かついてんのか?」
「高杉さん……ですね?」
「…如何にも?」
「その目で分かりましたよ。
今にも飛び掛ってきそうな、獣の目」
「………何モンだ?お前」
全く臆する事無く毅然とした態度で言う子供へと、高杉はますます怪訝そうな表情で
そのように問う。
すると子供は少しきょとんとした後、ふいにクスクスと笑いを零し始めた。
「分からないんですか、高杉さん。
もしかして、もう僕のことなんて忘れちゃいましたか?」
「なに…?」
「新八です。まァ……あなたに名前で呼ばれた覚えなんてないんですけどね」
クソガキとしか言わなかったじゃないですか、そう告げれば酷く驚いたような顔で。
「おめェ……あの時の」
「思い出してもらえましたか」
良かった、といって笑う子供の表情は、確かに記憶にある。
あの頃と比べるとぐっと背も伸び、まだ子供のそれではあるけれども、体つきも
随分としっかりしていた。
「……銀さんと約束したんです、大人になったらもう一度会いに行くって。
その時には、みんなのお手伝いをするんだって」
銀時の名が出たのなら間違いないだろう。
高杉は仲間に新八を捕えている手を離させると、そのまま人払いさせた。
ここから先は思い出話だ、野暮な連中に聞かせるものでもない。
「ちょっと見ねェ間に随分と成長するモンだなァ」
「やっぱり、最初は分からなかったんでしょう?」
「……まぁな」
僅かに視線を逸らして言う高杉に、ふふ、と新八は小さく笑みを零した。
「あれから僕、みんなを捜していたんです。
だけどあの時のグループはもう無くなっちゃってて…誰も見つからなくて、
半分諦めてたんですけどね、」
「他のヤツらは?」
「……まだ」
最初に見つけたのが高杉だったのだ。
噂で、まだ攘夷派に属してはいるものの、テロ活動と言うには少々過激すぎる
行動を取っているグループのトップだと聞いた。
ダメもとで乗り込んではみたものの、気性の荒い連中にあっさり捕まって、
このまま殺されるのかと思ったのだが。
「会えて良かったです」
「捜し出した根性だけは認めてやるよ。
こっから先は………おめェ次第だがな」
「はい」
別れたあの日、子供だった筈のこの少年は銀時を自分達の元へと向かわせ、
自身一人で家路についたのだと、天人を始末した後に銀時から聞いた。
その時自分は、言われるままに動いた銀時を殴り倒したい衝動に駆られたのと同時に、
この少年に向けて一つの賞賛にも似た感動を示していた。
思っていた以上に意志の強い……心の強い、子供だったのだと。
「おいクソガキ、おめぇ……俺と来るか?」
「もちろん、その為に来たんです」
「……ついて来い、案内してやる」
「はい!」
立ち上がった高杉に合わせて新八も立ち上がる。
己の肩ぐらいしかない身長の少年をまじまじと見遣って、何とはなしに
高杉は手を新八の頭へと伸ばした。
くしゃりと撫でて、気付く。
そういえばあの頃はこんな風に撫でてやった事なんて一度も無かった。
そして。
(……俺はずっと、こんな風にしてやりたかったんだろうなァ……)
らしくねェな、とくすぐったそうな表情でそんな風に思った高杉へ、なんでアンタが
そんな顔するんスか?と不思議そうな表情で新八が問い掛ける。
答えなんて、教えなくたっていいだろう。
<終>
ある意味で究極であろう高新。
破滅型の高杉さんですが、色々想像しているとなんだかんだで
新八とは上手くやってそうな気がします。
生活能力のあまりない過激派連中の世話をしてあげると良いですね。
また子さんと仲良しになって、事ある毎に先輩に狙われるのを、また子さんや
高杉さんに守ってもらうと面白いです。
でも個人的に一番話が合うのは万斉さんかと。お通ちゃんネタで盛り上がる2人。
最後までお付き合い有り難うございました!!