どうして、どうして彼は笑うのだろうか。
その答えだけが、今も出せない。
「小僧にさ、ひとつ頼みがあるんだ」
「なんだ?何でも言ってみろ。
悪いようにはしねーぞ」
「ははは、んな大層なコトじゃねーんだけど……コレ、さ」
ごそごそとベッドの下を漁って、山本が引っ張り出してきたのはひとつの箱。
よく見ればDVDがずらりと並べられてある。
しかも背中のタイトルには「剣豪への道」とか書いてあった。
「……なんだこの趣味のワリーのは」
「あははははは!!そんなこと言ったらスクアーロが怒るぜ?
ほんと、相変わらず小僧ってばおもしれーのな!!」
ぐりぐりとリボーンの頭を撫でながら、山本は豪快に笑い声を上げる。
リボーンにしてみれば、思った事をそのまま声にしただけなのだが。
「スクアーロがな、どうしても俺を剣の道に引き摺り込みたかったみてーでさ、
世界各地にいる剣豪と呼ばれる奴らと戦っては、その様子をDVDにして
俺に送ってきてたんだよ。
ま、半分以上が自慢みてーなモンなんだろうけどさ。
実際……俺がボンゴレに入る時に持ってきたものっていえば、刀と…
このDVDだけだった」
どこか律儀なところがあった山本は、せっかく送ってくれたのだからと届いたDVDには
全て目を通していた。
野球の練習の傍らで竹刀を振る事も忘れなかった自分にとって、良い刺激だったと思う。
「で、こいつをオレにどうしろってんだ?」
「小僧がこの世界に来て、ツナが来て、獄寺も来た。
てことは、きっと遠くない先に、10年前の俺もこっちに来ると思う」
「……そうだろうな」
「その時が来たら……10年前の俺に、こいつを見せて欲しいんだ」
「なんだと…?」
10年前の自分といえば、まだマフィアを『ごっこ』遊びだと思っていて、剣の道を
歩み始めてすぐの頃だろう。
まだまだ未熟だが、吸収力だけなら今の自分より遥かに上だ。
見せればきっと、プラスになる筈。
「小僧やツナを守るには、今の俺には力が足りな過ぎた。
それを補うには……10年前の俺にもっともっと強くなってもらう必要がある。
遊び半分じゃなくて、真剣にな」
「山本……」
「10年バズーカで入れ替わっちまったら、俺は此処から居なくなる。
だから今の内に、小僧に預けておこうと思って」
「オレで良いのか?」
「ボンゴレ最強のヒットマンに預けるんだ、間違いねーのな」
ニッと笑みを見せて言う山本の姿を見て、漸くリボーンの中で色んな事が腑に落ちた。
要するに、彼はまだ諦めてなかったのだろう。
リボーンや綱吉が死んでしまうという、この現実を変える可能性を。
「………分かった、任せとけ」
「ああ、小僧なら安心だ」
「しかし驚いたぞ。
おめーがこんなに色々考えてるとはな」
「それって酷くねぇ?
俺だって10年も経ちゃ少しは成長するんだよ」
リボーンの軽口に山本も笑みを浮かべて反論する。
その笑顔に、もう違和感は感じなかった。
ブラックスペルの連中を何とか撃退して綱吉達がアジトに戻って来た時、リボーンの
口元に笑みが乗った。
10年前の連中が揃いも揃って現れたからだ。
京子やハルやチビ達だけでなく、山本も。
「なんだ小僧もこっちに来てたのか!
いなくなっちまって、随分捜したんだぜ?」
「そーか、そいつは悪かったな」
「ま、みんな元気そうで何よりだけどさ」
確かに、10年後の山本と10年前の山本とでは、ぱっと見ただけでも随分違う。
身に纏う空気というか、明らかに10年前の山本には足りないものが多すぎた。
今から決戦が始まるその時までに、どれだけの事をしなければならないのだろうか。
まずは現状を理解させて、遊びから本気へと気持ちを切り替えさせて、それでもまだ
あのDVDを見せるには足りない。
「……どした、小僧?
俺の顔になんかついてるか??」
「いや、なんでもねぇ」
随分見つめてしまっていたのだろう、その視線に気付いた山本がこくりと首を傾げて
問うてくる。
それに首を横へ振りながら答え、リボーンはこれから起こるであろう事態を想像して
口元に弧を浮かべた。
『小僧なら安心だ』
そう言って笑っていた男は、もういない。
ただ目の前に居るのは、まだ何も知らない無垢な少年。
それがこれからどのように変化していくのか、それを考えてリボーンの胸は
少しだけ、踊った。
<END>
大人山本とリボ様のセットが書いてみたかったのです。
きっとここの山本くんは色んな事を理解してるんじゃないかな、と。