ばしゃん、と派手な水音を上げて、山本は道場の床に仰向けに倒れ込んだ。
何度やっても勝てそうにない、この小さな殺し屋に。
「おい山本、寝るにはまだ早ぇーぞ」
「小僧、」
ひょいと身体の上に飛び乗って座り込んだ赤子に、山本は目線だけを向ける。
くるくると指先で器用に銃を回しながら、リボーンはちらりと山本に視線を合わせた。
「本気でやれ、山本」
「…………。」
すっかり見透かしたその言葉に、困ったような笑みを浮かべながら山本は目を
真上へと逸らす。
小さな電球がいくつもつけられた広い道場は明るい。
「できねーってんなら、しょうがねぇ」
カチリ、と安全装置を外す音がして、右胸に冷たい感触。
何気無しに視線を戻せば、黒い銃口が自分の胸へと当てられていた。
「オレが今ここでお前を殺したって、文句ねーな?」
「小僧…」
「言っとくが、やるっつったらオレは本当にやるぞ」
「…………けどよ、」
もちろん、殺されたくなんかはない。
けれど今一度、この子供に剣を向けられる筈も無い。
そうだ、こんな小さな子供に。
「できるかよ、本気でなんて」
「ん?」
「だってお前、こんなに小せぇのに」
むくりと起き上がって、山本は両手でリボーンの身体を持ち上げる。
こうやって初めて面と向き合って剣を合わせて、確かにこの子供はとてつもなく
強いのだという事は理解した。
けれど、やはりどうあったってこの目に映るのは、こうやって簡単に
抱き上げることができる程度の、小さな小さな赤子なのだ。
「本気でやって、怪我させちまったら……」
「………山本」
ごつり、と今度は銃口が額へと当てられて、山本は目を丸くする。
思わず身を固くしてしまったその頬に、銃を持っていない方の掌が伸びてきた。
ぺたりと触ってくるその掌は、想像していた以上に小さくて。
「やっぱ、無理だって」
「オレは今はこんなナリだが、」
ふと、その銃口が離されたと思うと、リボーンは山本の手からひょいと抜け出して
床の上へと下り立つ。
くるりと振り返って、その小さな口から出された言葉は。
「オレは、お前より長く生きてるぞ」
「長く…?」
言われた事の意味がよく理解できずに、山本はこくりと首を傾げた。
「まぁ、こんなナリのオレが言っても信用できねーかもな。
けどコレは嘘じゃねぇ」
「てことは………小僧が、本当は俺より年上ってことか?」
「つまりはそういうコトだな」
「………うっそ、」
だぁ、と続けようとしたその前に、パァンと銃声がして、次の瞬間には
頬が焼け付くように熱くなった。
手の甲で頬を擦ると、滲むように移った赤。
「今、疑ったろ」
「え、いや、だってお前、そんなの……」
「嘘じゃねーぞ」
「……だけど、」
「もう一発食らうか?」
「……………マジで?
だ、だったら、なんで……」
疑う気持ちはまだ残っているが、そういえばこないだから10年後に飛ばされたり、
変な敵が出てきたり、死にそうな目にあってみたり、信じられないことばかりが
目の前で起こっているような気がする。
日課だったバットの素振りもやっているヒマなどない程に、だ。
そういえば、もう何日バットを握っていないだろうか。
「小僧、なんで……そんなになっちまったんだ?」
「それは修行が終わったら話してやる」
「やっぱ……それと、関係があんのか」
「でなきゃ、オレがこんなに強い理由がねーだろ」
「……確かにな」
よし、と気合を入れて立ち上がると、傍にあった刀へと手を伸ばす。
元々は竹刀の姿だったそれも、最近では握ればすぐに刀へと姿を変えるようになった。
考えてみれば、少しぐらいは強くなれたのだろうか。
「山本、もうひとつ教えといてやる」
「ん?」
「お前がどんなに本気で打ち込んできても、今のお前にオレは倒せねぇ。
いや、それどころかかすり傷だって怪しいモンだ」
「ハッキリ言うなー」
「だから心配しなくてイイんだぞ」
懐から取り出した弾丸を銃に込めながら言うと、リボーンはニヤリと笑みを浮かべた。
「ちったァ本気になりやがれ」
挑発のつもりで言った言葉は思いのほか効き目があったようで、刀を握った山本は
真っ直ぐにリボーンの方へと狙いを定めている。
そこにあるのが殺気じゃないのは残念なところだが、今はまだそれで良い。
相手に勝とうという覚悟と気迫があるなら、今はそれで良い。
「いくぜ、小僧」
この気迫に純粋な殺意が加わった時、一体この少年はどう変わってしまうのだろうか。
それを想像して、リボーンは少しだけぞくりと身を震わせた。
恐らくこれは、歓喜の震え。
<END>
リボ様と山本くんは、ツナ達が知らない間に
きっと色々育んでると思う。(笑)