「最近さぁ〜、おっしーの帰り、遅くね?」 「あー俺もそう思ってたんだよな。 夜明けギリギリだったりしてさぁ、侑士のヤツ、いっつもいっつも ドコに行ってんだろうなぁ」 「やっぱ気になるよねぇ。アヤCー!」 「その内さ、チャンスがあったら後追っかけてみねぇ?」 「さんせー!!」 <It introduces my companion.> それはある夜の事だった。 生憎の雨で、外をうろつこうという気も無ければサブローの散歩も今夜はお休みということで、 暇を持て余した忍足は相変わらず跡部の部屋に転がり込んでいた。 犬相手にボールを投げたりして遊んでいるその姿を眺めながら、ずっと気になっていた事を 跡部がぼんやりと口に出した。 「なァ忍足」 「なん?」 「ちょっと訊きたいんだけどよ」 「うん」 「お前がコイツの名前にするのを嫌がった【タロー】って奴と【ジロー】って奴、 どういう知り合いなんだ?」 「………イキナリやなぁ」 サブローの頭をよしよしと撫でてやってから立ち上がると、忍足は跡部の向かいの椅子に座る。 出されていた紅茶を一口飲んでから、へらりと笑みを浮かべた。 「どっちも、俺と同類のお仲間や」 「へぇ…?」 忍足の言葉に興味を持ったらしく、もう少し詳しく話せと促せば特に嫌がる風も無く 彼は頷いてくれた。 「ジロちゃんはな、いつでもよぉ寝る子でなぁ…。 ほら、俺ら基本的に昼間寝てて夜の間起きとる夜行性なんやけど、 ジロちゃんの場合は夜になってもまず起きて来ぉへん。 放っといたら朝になってて、それでも起きんとまた夜や」 「オイオイどれだけ寝るんだよ」 「そう思うやろ!? 大体いつ食事しとんのかもまず解らへん。 前に聞いた時は、『おなかへったらね〜』って言いよったわ。 あんなんでホンマ、今まで生きてこられたんが不思議でしゃあないわ」 「お前に言われちゃしまいだよなぁ…」 「どういう意味やねん」 しみじみと呟く跡部にジト目で忍足がツッコミを入れるが、それはさておきと 跡部は話を先に進めた。 「それじゃあよ、タローって…」 「ああそう!!それとがっくんの話もしとかんと!!」 「…あ?」 「岳人って言うてな、こぉんな小いちゃいのんが、ピョンピョン飛び回ってんねん。 めっちゃ可愛いねんで!!元気もええしな。 跡部にも今度会わしたるな?」 「小さいって……」 「せやねぇ、背丈は俺の肩ぐらい。 蝙蝠になった時は俺よりも2回りぐらい小さいやろか?」 「……うッ」 忍足よりもまだ小さい蝙蝠が飛び回るというのか。 想像してうっかりツボを突かれたらしく、跡部は口元を押さえて僅かに悶える。 それはもしかしなくても、物凄く見てみたい気がする。 「ジロちゃんもがっくんもええ子やしな、きっと仲良うなれるで?」 「そ、そうかよ……で、タローって奴は…」 「あ!それともう一人!!」 「…まだ何かあんのかよ」 ポンと手を打ち合わせて言う忍足に、ややげんなりと跡部は先を促した。 「あんな、忍足謙也っていうて……コイツはホンマに俺の血縁者や」 「………なに?」 ぴくりと反応を示して、テーブルについていた肘を離すと跡部は身体を起こした。 忍足に血縁者なんて初めて聞いたかもしれない。 そもそもこういった種族は、血族のものなのだろうか。 「誤解の無いようにまず説明しとくとな、俺も…俺以外の吸血鬼も…… 元々はみんな、跡部とかと同じ人間やったんや」 「人間だった…?」 「吸血鬼っちゅうモンがどこから発生したんかはよう解らへんねんけどな、 俺らは皆、誰かから伝染されて……こうなってしもうた」 自分の場合は確か、先に吸血鬼になってしまった謙也に、伝染された。 しかもとてもくだらない好奇心からだ。 「アホやて思ってくれて構へんよ。 けど…俺も謙也も、試してみたかったんよ」 「アーン…?」 「ホンマに吸血鬼になってしもたんか…ホンマに、吸血鬼になれるのか。 そんで……ホンマに、誰かを吸血鬼にする事ができるのか」 だから自分は進んで実験台になった。 結果は今この現状が全てを物語っているだろう。 「忍足の中でこうなったんは俺と謙也だけや。 他の家族はもう…とっくの昔に墓ん中でな。 もう…随分と長いこと生きてしもうとるよ、俺も謙也も」 「お前……まさか、それで、」 幸村の件の時に仲間に引き入れることを頑なに拒んだのか。 そうなる事がどれだけ辛いか、苦しいか、それを知っているから。 だから…もしかしたら。 「本当は……後悔してんのか?」 こんな身体になってしまった事を。 暗闇の中でしか、人の血を貰うことでしか、生きていけなくなってしまったことを。 それでも…なお、生き続けていることを。 問えば、忍足はとても曖昧な表情で笑みを零しただけだった。 「……まぁ、良い」 「ん?」 吐息を零して背凭れに身体を預けると、跡部は静かにそう言葉を漏らした。 忍足が不思議そうに顔を上げると、何ともばつの悪そうな視線とかち合って。 「お前が後悔してようがどうしようが、俺には関係ねぇよ。 だが少なくとも、お前がこうあっているお陰で、俺はお前に出会えたんだ」 でなきゃ、とっくの昔にジジイになってくたばってたんだろ? そう言えばきょとんとした視線を向けられて、その直後に忍足が大きく吹き出した。 「あはははは!! そう言われればそうやわ。 俺、今もし人間で生きとったら120歳超えてんやで?ありえへん!!」 「長寿番付に出れるじゃねぇかよ」 「出たないわ、そんなモン。 やけど…まぁ、そういう考え方もアリかもしれんなぁ」 「あ?」 「……自分が吸血鬼やなかったら、俺は跡部には会われへんかった」 そう思うだけで、ほんの少しだが救われた気がする。 人間らしい生き方をする事はもうできないけれど、代わりに今でなければ 知り得なかったことだってあるだろう。 今だからこそ、得られたものだってあるのだ。 例えば、今目の前にいる相手だとか。 「ありがとうな、跡部。 今ちょっと嬉しかったで」 「そうかよ」 にこりと笑んで忍足が言うのに、跡部は短く答えると肩を竦めた。 しかし、それはそれとして。 「なぁ、だからタローって誰だよ」 「……お前な、俺が一生懸命そこから話逸らそうとしとんのに気ィつかへんのか!?」 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「ほな、今日もちょお遊んでくるわ〜」 「おーう、行ってらっしゃい侑士ー!」 「お土産ヨロシクねおっしー!」 「あははジロちゃん、そんなモンあらへんあらへん」 「……行った?」 「行った行った」 「どっち?」 「東の方」 「よォし、そんじゃ行きますかがっくん!」 「おっけージロ!!」 蝙蝠姿で飛び立った忍足の後を追うように、2匹の小ぶりな蝙蝠が 夜空を高く舞い上がった。 さぁ、尾行の開始だ。 <END> このまま続けて岳人&慈郎編を書いてしまおうかなぁなんて 思ったんですが、ここでちょいと一区切り。 けど……一体何なんだ太郎。(笑) 自分で書いてて何やけど謎や…!! |