第1幕:聞こえる人 −向日岳人−
本題に入る前に、俺が侑士と出逢った時の事をちょっとだけ教えてやるよ。
元々中学1年の時にクラスが一緒だった上に同じ部活って事もあって、よく喋る方ではあったと思う。
一応、最初から友達って呼べる仲だったと、俺は思ってる。
声をかけたのは俺から。あの独特の訛りが面白かったから、ってのが理由。
見た目はバサバサの黒髪にメガネかけてて、雰囲気はどこか暗〜いカンジだったんだけど、
喋ってみれば、その雰囲気はイキナリ正反対になっちまった。
淡々と喋る中身には時々ジョークも混じってるし、なんていうか……笑うと変わるんだよ。
笑うと、……曖昧な表現だけど、冬が春に変わる、そんなカンジ。
派手な感情表現は無かったけど、逆にそれが気持ちよかった。
ふんわり笑う方が、侑士らしいって俺は思った。
で、だ。
話は変わるけど、俺にはちょっと変な能力がある。
それは『音』だったり『声』だったり、少しぐらいなら『存在感』としても。
そういう目には見えないものを感じ取ることができてしまう。
パターンは色々なんだけど、有体に言えば『幽霊』っていうやつだ。
もっとも、俺はそんな呼び方はしないけど。
音とか存在感とかで気付くだけで、俺にはそれがカタチとして見えてない。
だから、俗に言う『幽霊』だとかそういう風には思えないんだよな。
すれ違う人の中に時折、その人以外の何か違う空気を感じたりとか、
すれ違った瞬間に聞こえる、空気が震える音とかで、「あ、このヒト背負ってるんだ」って
解るんだ。所詮その程度って言えばそれまでなんだけど。
強い思いが篭っていると、『音』は『声』に変わる。
強ければ強いほど、その声ははっきりと耳に届く。酷けりゃ何を言ってるかまで解ってしまう。
もちろんそこまで強烈なものになってしまえば背負ってる本人にも影響が出てくるみたいで、
酷く顔色の悪いヒトとか、やつれたヒト、肩凝りや腰痛に出ていたり、コイツ死ぬんじゃねーの?
って思う奴までいる。
だから俺は、その存在は『魂』って呼ぶ。
この世界には無数の魂が何処にも行けずに彷徨っていて、たまたま波長の合う人間を見つけたら
吸い寄せられるように寄っていって、ついてくんだ。
もっとシンクロできる相手がいたら、その中まで潜り込む。
そして憑かれた人間より『魂』の方が強かったら……その先はまぁ、言わなくても解るだろ?
俺はこんな体質だからなのかどうか知らないけど、ついて来る気配までは感じた事はあっても、
入り込まれたり、乗っ取られたりなんてした事はない。
大体、気が付いたら消えている。
だから特に気にもしてないし、憑かれてる誰かをどうこうしようっていう気にもならない。
そもそも俺に祓う力は無いからどうしようもないっていうのが現実だし、名前も知らねーような
奴がどこで憑かれて殺されようが知ったこっちゃねェってのが、本音。
……大体がさ、そんな話誰かにしたところで、本気になんてしてくれねェんだろうな。
面白がって、興味本位でさ、話は聞くけどハイそうですか岳人くんは凄いデスネーで
おしまいだろうし。
例え友達でも、何か背負ってるのに気付いて憑かれてるなんて教えたところで、
「お前アタマ大丈夫?」って言われるのがオチだ。
むしろ「気味悪ィ」とか言われてしまいそうだ。こんな能力、皆持ってるわけじゃないから。
だから、これは、誰にも言えない。
誰にも言えないんだ。
例え……友達でも、な。
この力について煩わしいと思いこそすれ、有り難いなんて思った事なんか無い。
いわゆる心霊スポットになんて踏み込んじまったら、そこら中音まみれで
うるせーなんてモンじゃねーしさ。
夜中に聞こえでもすれば、それだけでもう安眠妨害なんだから。
ところが、まぁ、コレが思いも寄らぬ展開になっちゃったりしたんだな。
あれは…そうだ、中1の終わり頃。
桜が咲く時期だったな。
ちょうど、俺や侑士が『跡部景吾』に出逢った、そのきっかけ。
確かに同じテニス部でもあったから、名前や顔だけなら最初から知っていた。
テニス以外でも、アイツはちょっとトクベツな奴だったからさ。
目立つんだよ、要するに。
だけど…何もかもが俺達と違ってて…実力主義なテニス部の中だけで考えても、
アイツはどこか違う世界の人間だった。
あ、いけね、予鈴が鳴っちまった!!
まぁ、そのハナシはまた今度してやるよ。それじゃっ。
<続>
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