< The equal relation >
時々、考える事がある。
この自分と跡部との関係は、一言で言うと何と呼ぶのだろう。
好きかと問われたならば、迷わず好きだと答えるだろう。
ではそれは何からくるものかと問われたら、単純な好意というものもあれば、
信頼と呼べるものもあるし、自分の、彼に依存している部分からきているのだろうと
言われればまず否定はできない。
では、想っているかと問われれば、それなりに、と答えられる。
四六時中考えてなんていられないし、そこまで恋うているわけでもない。
なのに、唐突にどうしようもなく焦がれてしまう瞬間も、ある。
200人を束ねての毅然たる振る舞いを見た時、強者と戦った時に見せる好戦的な態度を
垣間見た瞬間、そして何気ない日常で彼がふわりと鮮やかな微笑みを見せる、その時。
恋人なのかと問われれば、それに関してはどうとも言えない。
もちろん好きだと告げたこともあれば言われたこともある。
なのにそれを両思いだと言い切れないのは、その間に若干のすれ違いを感じてしまうから
なのか、それとも己の自信のなさゆえなのか。
好き、の一言を友情か恋情で区別するには余りにも曖昧だ。
別に手を繋ぎたいわけじゃない。
抱き合いたいわけでもない。
でも、一緒に居たいと思う。
思うというより、それは願いに近い。
同じ部活で同じ時間を共有していて、彼が高みに昇っていく度に、置いていかないで
くれと希う。
そう考えるとやはり足りないのは自分に対する自信な気もするが、彼に対して劣等感を
抱くなという方がムリだろう。
それも仕方の無いことだ。
彼はといえば常に強者でありたいがため常日頃からの鍛錬を怠らず、そしてそれを周囲に
要求してくる。
脱落でもしようものなら途端に浴びせられる罵倒の言葉と冷徹な視線。
しかもそれは全員に分け隔てなく向けられる。
その相手に対する特別な感情の有無など、その世界では全く関係がないのだ。
無論自分だって贔屓されるのだけは御免だから、文句を言うつもりなど毛頭ない。
ただただ、痛感するのだ。己に足りないもののなんと多いことか、と。
そして負けたくないと思うのは、敵対心からだ。
追いつきたい、隣に並びたい、できれば追い越したい。
自分と彼の中にある『テニス』というものの大きさを考えると、当然の思いだ。
もしかしたら向こうはこっちを歯牙にもかけていないような気もするのだが、
それでもちっぽけなプライドは叫ぶのだ。
一度でも彼を負かすことがあれば、このプライドは小さくとも確固たるものに
変貌してくれるだろう。
だけど、彼はそれを決して許さない。
そして自分を含め周囲はそれに跪く。
敵わないのだと、心身に深く刻まれそれは、いっそ憧憬とも取れる形で、
そうして彼の世界は確立されるのだ。
わからない。
友情、恋情、敵対心や劣等感、果ては憧れまで。
一人の人間に向かって、全部全部向けられて。
ならばこの感情を一括りにすることは可能なのだろうか。
そしてそれを、人は何と呼ぶのだろうか。
色んな感情が自分の中で混ざり合って燻って、じれったくて、焦がれる。
そうだ、だから『焦がれる』のだ。
「……嗚呼、この愛のなんと狂おしいことよ…、ってか」
「おい、ロマンチスト」
すぐ間近で聞こえた声に、我に返って目の前を見る。
空の蒼と同じ色をしたきつい双眸が、俺の顔を真っ直ぐに捉えている。
いつもそうだ、思考の渦から俺を無理矢理引き摺り出すのは、この男。
そこには他人の、そして当事者の自分の意思すら無関係なところが本当に恐ろしい。
「なんや、跡部か」
「それがわざわざ屋上まで迎えに来てやった奴に対する態度なのかよ、アーン?」
「うっさいなぁ」
「で、今のはなんだよ」
「今のって?」
「何だ違うのか?
てっきりロマンチストの吐くクサいポエムかと思っちまったんだがな」
意地悪な視線で口元を持ち上げ笑う仕草は、完全にからかっているソレだ。
馬鹿にしているという方が近いかもしれない。
ならば、と同じように笑い返す自分も大概なのかもしれないが。
「愛しすぎて狂ってまいそうやってハナシな」
「お前が?」
「うん」
「誰をだよ」
「………、跡部?」
「はははははっ」
肩を竦めて投げやりに告げれば、跡部は声を上げて肩を震わせて笑い出した。
ちょっと笑いすぎだ。
やっぱり言うんじゃなかったかな、と少し後悔し始めてきた頃に、漸く落ち着いた
跡部が俺に手を差し出してきたので、掴んで凭れていたフェンスから背を離すと同時に
強い力で引き上げられた。
立ち上がって手を離し、ズボンの砂埃を手で払う。
「おい忍足」
「……ん、?」
掠めるように口づけられて、何事かと視線を上げれば珍しく上機嫌な顔で。
「愛しすぎて、狂っちまえ」
それができりゃ苦労はしない。
曖昧に笑う俺へと、今度は噛み付くようなキスを仕掛けてきた。
手を繋ぎたいわけでも、抱き合いたいわけでも無いのだけれど。
でも、こうやって口付けられるのは悪くないな、だなんて。
もしかしたら俺は、とっくに狂っているのかもしれない。
<END>
あれだ。
ちょっと自分の中の跡忍魂に火が付いたぐらいで。(笑)
跡部×忍足のようでいて、跡部←忍足のような。
こういうのってつきつめ出したらキリがないんだけど、
私の中の同性愛というものに対するイメージを全部突っ込んだつもり。
イメージだけでも受け取ってもらえたなら嬉しいかもです。