〜 Life 〜
【 Now to hug passing every day. 】

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと、ダメだってば!!」
「はいはい、いいからジロー、大人しくしてて」
「滝ちゃんまで!!」
「よし、そこで押し倒せ!!」
「なんでそう楽しそうなんですか宍戸さん…」
「うっせぇ長太郎!てめぇだって覗いてるクセによ」
「う、そ、そりゃ、そうですけど…」
「なぁヒヨ、アイツら何やってんだ?」
「覗き集団です。
 向日さんは真似しないで下さいよ」
「ヒヨは行かねぇの?楽しそうなのになー」
「楽しいワケないでしょう」

 

 

 

 

ドアの向こうからひそひそ話。
丸聞こえなのを分かっていないのだろうか。
いや違う、これは絶対にわざとだ。
確信犯に違い無い。
「……どないしたん、景吾?」
「いや……ムードもへったくれもねぇなと思ってよ」
「ああ、アレ…なぁ」
再会の抱擁ぐらいゆっくりしたいものなのだが、残念ながらそれを
許してくれるような仲間達じゃ無かったようだ。
むしろこれが報いか。
げんなりしている跡部の傍で、忍足は必死に笑いを堪えている。
「あーくそ、やってらんねぇ」
「ぷっ……あ、あかん、もうあかん!!……あは、あはははは!!」
苛々した様子の跡部を余所に、我慢しきれないと吹き出した忍足は
そのまま腹を抱えて笑い転げた。
自分達だけじゃない、みんな、此処に居るんだ。
一人も欠ける事無く、取り戻せたのだ。
「…なんだよ侑士、そんな面白ぇのかよ」
「ちゃ、ちゃうて……そうやなくて、な」
笑い過ぎて時折咽ながら、忍足は呼吸を落ち着かせてにこりと微笑んだ。
「やっぱりな、写真は皆で撮ろうや」
「は?」
「3人だけやのうて、全員で撮ろ?」
跡部とジローだけじゃない。
長い時間の中で、大切なものは少しずつ少しずつ増えていったのだ。
その証明に、皆で撮るのも悪くない。
「な、そうしよ?」
「……まぁ、別に構わねぇけど、よ」
仕方無さそうに吐息を零して答えた跡部が、今だ続くドアの向こうからの声に
我慢ならないと立ち上がった。
ずかずかとドアの方へと向かうと、細く隙間のあるそれを思い切り蹴り開けて。

 

「うぜぇんだよ、てめぇらは!!」

「ぎゃあああ!!バレたーーーー!!!」

 

あれでバレていないとでも思っていたのだろうか。
わらわらと逃げ出すのは宍戸、鳳、滝、ジロー、更には樺地まで。
寄ってなかったのは日吉と岳人ぐらいだ。
今逃げたヤツら全員死刑決定!!と拳を震わせ固く誓うと、跡部は奥を
振り返って忍足を手招いた。
それに頷いて返して、忍足が台を降りる。
ゆっくりとした足取りで皆の居る場所へと、そのドアを潜った。
「あ、忍足さん!大丈夫ですか〜?」
「もう平気やで、心配かけたな長太郎。
 宍戸も、ありがとうな」
「いいってコトよ。
 それは後で跡部に恩返しして貰うからよ」
「お…ッ、恩返しだァ!?
 てめぇ……宍戸、あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ…アーン?」
「まあイイじゃんけーちゃん、落ち着こうよ、ね?」
「うるせぇジロー!俺はいつか宍戸とは決着つけなきゃならねぇと
 思ってたんだ!!」
「ええッ!?やめてくださいよ、宍戸さんに勝ち目あるわけ無いじゃ
 ありませんかぁ!!」
「長太郎……てめぇ……」
「え、あ、いや、す、すいません宍戸さん、そんなつもりじゃあ…!!」
一気に騒がしくなった室内にビックリしたような目を向けている岳人に
気がついて、忍足がゆっくりと歩み寄った。
ソファに座っている彼に目線を合わせるように、腰を落とす。
「……がっくん」
「あ、ええっと、忍足…だっけ」
「侑士でええよ、俺も岳人って呼ぶしな」
「おっけ、侑士な、侑士」
うんうんと頷く岳人を見て、顔を綻ばせた忍足が赤い髪を優しく撫でる。
もう、覚えていないのだろう、交わした言葉も、約束も。
「ごめんな……日吉」
「謝らないで下さい」
「うん……せやな」
岳人の隣に腰掛けたままで憮然とそう答える日吉に、忍足が苦笑を零した。
なんなんだろう、と岳人は思う。
この忍足が齎す独特な雰囲気に、覚えがある。
優しく見つめる黒い瞳を見ていると、何か大切なものを見落としているような気がする。
もう少しで掴めそうなのに、手が届かなくてもどかしい。
例えるならそんな気分だ。
向こうから滝が呼んでいるのに気がついて、忍足は「また後でな」と言いながら
立ち上がるとその方へと歩いていった。
跡部と宍戸の口論が、どうやら殴り合いの喧嘩に発展してしまったらしい。
離れていく後姿を眺めていた岳人が、ぎゅ、と日吉の服の裾を掴んだ。
「向日さん?どうしたんですか」
「鳩……」
「え?」
視線は忍足の背中へと向けられたままで、呆然としながら、少年は。

 

 

「鳩、探しに行こうぜ、ヒヨ」

 

 

夢でも見ているのだろうか。
彼があの約束を覚えている筈が、無いんだ。
「向日……さん…?」
「きっと、帰って来るんだろ?
 見てみたいんだ、俺。
 だから探しに行こうな、ヒヨ」
なのに、どうしてこの人は。
なのに、どうして自分は。

 

 

「…………はい。」

 

 

屈託の無い笑顔を見ていると、何故だか涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

 

 

マザーコンピューターの崩壊と同時に、各地で暴走をしていた
ロボット達は一斉にその動きを止めた。

 

「はいじゃあ、一人ずつ希望取るんで、順番に言ってねー。
 あ、ちなみに俺、イタリアが良いでーす!!」
「はいはい!!俺アメリカ!!ヒヨは?」
「何処でも構いませんよ。
 ああでも……シベリアには行ってみたいですね」
「鉄道狙いなん?もしかして」
「勿論です」
「あー、俺は、オーストラリアとか良いなぁって思うんですけど、宍戸さん」
「うるせ、俺は絶対ぇベトナムだ!!」
「うわ亮ちゃん漢だねー。滝ちゃんは?」
「俺?そうだなぁ……中国とか気になるんだけど、跡部はどう?」
「ドイツだ」
「……キッパリ言い切りよったな」
「そう言う侑士はどうなんだよ」
「俺かー……俺は、どこでもええよ。
 皆で行けるんやったら、何処だって楽しいやろ」

 

昔、マザーの暴走は世界を恐慌状態に陥れた。
人々は絶望し、闇に逃れ、多くはロボット達に殺され、
だがそんな中でも、諦めない者達が居た。

 

「そう思わん?樺ちゃん」
「……ウス」

 

戦う事を決めたロボット達がいた。
戦う事を決めた人間達もいた。

 

「うわ、皆バラバラじゃん!
 コレじゃ纏まんないCー!!」
「全部行けば良いだろ、ジロー」
「……え?
 けーちゃん今なんかスゴイことサラっと…」

 

諦めなかった彼らは、それぞれの思いを胸に、
マザーを止める事に尽力し、その脅威に立ち向かった。
そして、

 

 

「時間は沢山あるんだ、全部行こうぜ、ジロー」

 

 

平和を取り戻した世界は、痛みを堪えて今、その色を取り戻す。
焼け野原だった大地にも少しずつ、緑が戻ってくる。
求めた姿を取り戻しつつある世界を、見届けに行こう。

 

 

 

 

 

「それじゃ、鳩探しツアー出発しまーす!!」

 

さあ、幸せな未来を、みんなで探しに行こう。

 

 

 

 

 

 

< END >

原題:過ぎ去った日々を抱きしめるための今

 

 

 

 

これにて【Life】は終了でございます。
最後までお付き合い下さいまして、ありがとうございました。

お礼の意味も込めまして、最後に小噺をもうひとつ加えさせて頂きました。
彼らなりの結論を、その目にして下さると嬉しいです。

 

 

………もしかしてこのシリーズの影の主役はジローだったのかもしれないと、
今更ながらにそんなコト感じてるんですが……あれ??(笑)