〜 Life 〜
【 It wanted to hug truth. 】
「う〜ん……」
腕組みをして、モニターを見つめながらジローは小さく唸っていた。
「おかしい……なんで?」
傍の台に横たわっているのは忍足だ。
彼の傷の修繕を済ませ、一通りのチェックを済ませてさあ起動させようと
いう時に、エラーが起きたのだ。
とはいえモニターにエラーの文字は無い。
さっきからずっと確認しているが、データ等に損傷は見られず、起動には
何の問題も無い筈なのだ。
むぅ、と頬を膨らませて恨みがましくモニターを見つめながら、ジローが
頭を掻き毟った。
目の前の事に懸命で、だから傍に人が来た事にも気付かなかったのだと思う。
ジローが眺めるモニターを同じようにして眺めながら、あ、と隣から声が上がった。
「お前、ココ間違ってるぜ」
「え?ウソ、どこどこッ!?」
「新型はコレで問題無ぇけどよ、侑士はこう見えて結構旧型だからな、
その組み立て方じゃ受け付けられねぇんだよ」
「あ、そっかー……じゃ、頭部に直接信号を送るんじゃなくて、
滝ちゃんと同じように首からデータ回せば良いんだ」
「そういう事だ」
「やった、それじゃ早速!
誰だか知んないけどサンキュー!!って………あれ?」
ついと視線を横に向ければ、真剣な顔でモニターを覗き込んでいるのは跡部だ。
いつの間に起動が済んだのだろうか、全然気付かなかった。
「あ、跡部……?」
「おう」
一応一通りをチェックしてみたが、やはり問題の箇所以外におかしいところは
見当たらない。
呆然としているジローを置いて、ついでに傷の修復具合も見てみた。
修繕に関してはほぼ完璧だ。
そもそも仲間達もみんなジローが一人で直してしまったのだというのだから驚きだ。
幼い頃から頭は良かったが、まさかここまでできるようになるとは
正直思ってはいなかった。
「跡部、なんで侑ちゃんの構成知ってんの…?」
「……………。」
チェックを済ませて戻って来た跡部が、ジローの前に立って見下ろし僅かに目を細める。
最後に別れたあの時から、10年という月日は否応無く幼子を成長させていった。
あんなに小さかったのに。
「…………大きくなったな、ジロー」
驚きに目を瞠ったままで、ジローが跡部を見上げる。
もしかして、もしかして今此処に立っているのは、自分と共に作られた跡部景吾ではなく。
まさかとは思うが、それならば全部納得がいく。
「け……けーちゃん……?」
「ああ、そうだ」
「思い出したんだ……?」
「そうだな、粗方は。
だが今までの事も全部覚えている。
随分苦労させちまったみてぇだな……悪かった」
「ううん……ううん、そんなこと、無いよ…?」
時々悲しいと思う事はあったが、辛くは無かった、苦しくも無かった。
それは皆がいたからだ。
跡部が、忍足が、滝が、そして仲間が。
みんなで騒いで戦ってバカ言って笑い合って、そうやって歩いてこれたから。
ぶんぶんと首を左右に振りながら震える声でそう告げれば、優しく髪を撫でられた。
勝手に強くなりやがって、と、そう毒づいて。
限界、だった。
「けーちゃん!!」
飛びついてしがみ付くように抱きつけば、優しく背中を撫でられた。
そして同じだけの強さで、抱き締めてくれた。
ぼろぼろと涙は頬を伝って、もう止まらない。
「良かった、良かった!!けーちゃんが、戻って来てくれた…!!」
「んだよ、もしかしてずっと待っててくれたのか…?
ありがとよ、ジロー」
「本当は………っく、…半分、諦め、か、けてた……」
しゃくりあげながらもそう答えると、てめぇこの野郎、と呟いた跡部が軽く
その頭を小突く。
えへへ、と涙で濡れた頬を服の袖で擦りながら笑うと、ジローはそっと身体を離した。
淡い光を発し続けるモニターに向き直ると、カタカタと幾度かキーボードを叩いて。
「あとは侑ちゃんだけだから、早く起こしちゃおう」
「ああ……そうだな」
「あのさ、良かったね、けーちゃん」
「…?何がだよ」
「マザー、壊せたんでしょ、良かったね……良かったね」
「……ああ、」
「これからは、皆で一緒にいられるといいね」
戦いのない平和なこの場所で、自分を偽ること無く。
そうやって笑いあって生きていけたら、それが最高の幸せだ。
「心配すんな、ジロー」
「ん?」
「もう……俺も侑士も、勝手に居なくなったりしねぇから」
「うん……うん、ありがとね、けーちゃん」
袖で拭って止めた筈の双眸から、またほろりと涙が零れ落ちた。
今度こそ、みんなで幸せな未来を。
感謝の気持ちと願いを込めて、二人はエンターキーへと手を伸ばした。
< END >
原題:本当は抱きしめたかった
これからは、ずっと一緒にいよう。