〜 Life 〜
【 The touching temperature, the happy time. 】

 

 

 

 

ぼんやりと屋上で、仰向けに寝転がって空を見上げる。
眠たげな瞳はそれでも蒼い空に吸い寄せられるように上へと向けられていて。
ぽかりと浮かぶ白い雲を美味しそうだなぁなんて思ってみたりして。
遠くから聞こえてくる爆音なども、もう耳を素通りしてしまう。
それが、日常になってしまったのだから。

 

「E〜天気ィ〜〜」

 

ふわぁ、と大きく欠伸をして、ごしごしと瞼を擦っていると、
ひょこりと見慣れた姿が現われた。
「なにしてるのさ、ジロー?」
「あっれぇ、滝ちゃんどうしたの?珍C〜」
「あははジロー、声が寝てるよ」
「うん、眠いィ〜〜」
ゴロゴロとコンクリートの上を転がりながら、ジローが必死に眠気と戦っている。
その近くに座り込んで、滝も空を見上げた。
「本当に、いい天気だよねぇ。
 そこらで戦闘が起こってるなんて嘘みたいだ」
「跡部とかは帰ってきた?」
「ううん、まだだよ。
 ほら、新しく忍足が戦闘用の装備つけてきたじゃないか。
 それの動作テストも兼ねてるみたいだし、時間かかるんじゃないかな」
「つまんない〜〜。樺ちゃんも居ないC〜〜〜」
「おや、俺じゃ不満かい?」
「………そんな事ないよ」
冗談交じりで言った滝の言葉に、意外にも真摯にジローはそう答えた。
むくりと身体を起こして、滝の横に座り込む。
「あのさぁ、滝ちゃん」
「うん?」
「マザーまで、もうすぐだよね」
「……そうだね」
「俺ね、ホントはね………恐いんだ」
「ジロー…?」
膝を立ててそこに顔を埋めてしまうように蹲ると、ジローはそんな事を
口にする。
初めて聞いた、ジローの弱音。
いつも明るい表情で、ヘラヘラと笑っている彼とは違う顔。
驚いた表情を見せて滝が隣に座るジローへと目を向けた。
「俺は、マザーが憎いんだ。
 俺の世界全部をめちゃめちゃにしたマザーが、憎い。
 でもそれと同じぐらい、恐いんだ」
近付けば近付くほど、その強大さをまざまざと見せつけられた。
勝てるだろうか?本当に自分達だけで。
「もしかしたら、みんな無事じゃ済まないかもしれないじゃん?
 そう考えたら………本当に恐いんだ」
跡部も、忍足も、滝も樺地も、仲間達も。
みんな無事でいられる保証なんてひとつも無いのだ。
「誰かが居なくなるのは……もう、イヤなんだ」

 

目の前で倒れた、跡部のように。

繋いでいた手を引き離された、忍足のように。

 

ポン、と蒲公英色の髪に優しく手が添えられる。
それは優しく、自分の頭を慰めるように撫でてくれた。
「滝ちゃん…?」
「ジローは優しいよね」
「……違うよ。臆病なだけだよ」
「ううん、優しい」
そういう滝に視線を向けると、彼は微笑みながら自分の方を見ている。
そういえば、とジローはふと思い出した。
この仲間達の中で滝だけは、かなり昔に跡部に作られた初期型だ。
今の氷帝製品のように『心』を求めたものでは無かっただろう。
なのにどうして、こんなにも繊細な表情をしてみせるのだ。
これがあの、跡部景吾が作ったものなのか。
「………やっぱり、けーちゃんは凄いや」
「?…けーちゃん…?」
「ううん、こっちの話だから。気にしないで。
 話聞いてくれてありがとね滝ちゃん。なんかスッキリした」
「そう?俺なんか何もしてない気するけど」
「そんな事ないよ」
いつもいつも、滝は自分の傍に居てくれた。
多分、一番自分の助けになってくれたのは、彼だ。
幼い頃に初めて出会ったあの時から、自分は滝というアンドロイドに助けられてばかりだ。
「あのさ、ジロー」
「なぁに〜?」
滝が自分を呼んだので、ちらりと視線と返事を返す。
どう言おうか迷った末に自分にかけられた言葉は、遠回しでいて、でも的を得ていた。

 

「俺が、ジローを助けてあげるよ」
「………へ?」
「俺だけじゃなくて、樺地も、跡部も忍足も、宍戸や皆だって。
 みんな、ジローが危なくなったら必ず助けるよ」
「………ん、」
「だから、ジローは俺が危なくなったら助けてよね。
 俺だけじゃなくて、樺地も跡部も忍足も、皆も。
 危なくなった時には助けてあげてよね?」
「滝ちゃん……」
「そうやっていけば、きっとジローの望む結果が得られる筈だと思う」
「うん」

 

それは簡単なようでいて、きっと難しい。
けれども、皆でそうやって助け合っていけば、大丈夫。
にこりと笑みながら「ね?」と諭すように言う滝の腰元に、縋りつくように
ジローは抱きついた。
驚いたのは滝の方だ。
「わ、ちょ、どうしたのジロー??」
「滝ちゃんこそ、やさC〜」
「ジロー…?」
「ありがと滝ちゃん、大好き」
ぎゅうと抱きつきながら言うジローに、苦笑を見せて滝はまた指先をふわりとした
蒲公英色の髪にそっと伸ばした。
「俺も、ジローが好きだよ」
「やったぁ〜、じゃあ俺ら両想いじゃん」
「あははは、そうだね」
また眠気の波が襲ってきたのだろう半分寝ぼけた声で言うジローに、滝がくすりと
笑みを零した。

 

 

 

 

 

< END >

原題:触れ合う体温、幸せの時間

 

 

 

彼が傍に居てくれたから、今までもこれからも頑張れる。