〜 Life 〜
【 It needs only to be now. Anyhow, don't leave nearby. 】

 

 

 

 

指令はそう頻繁にあるわけではない。
どうやらオーナーへの報告をジローが定期的に行っていて、
必要だと思われれば指示を出す、その程度のものだ。
今、自分達が拠点としているのは、街の中心部から少し離れた
ところにある小ぶりの建物である。
中立区と言えば聞こえは良いが、要するにまだ暴走するロボット達の
監視が届いていないところと言えば良いだろうか。
そこに隠れるように潜んでいた人間達を救助して、ほどなく。
新たにオーナーから届いた指令書には、この場所で暫くの間
休養を取るようにとの事が書かれていた。
確かに、予定していたよりもかなり早く人民の救助も終わったし、
まだ今のところ、この場所は「安全」だと言える場所だ。
それに周囲には緑も多く、休息するにはもってこいの所と言って良い。

「………ありゃー、」

届いた指令書をマジマジと眺めて、ジローが小さく声を上げた。
これはまた、小粋な事をしてくれるオッサンではないか、と。

 

 

 

 

「……だそうでーす」

指令書を読み上げて、ジローは集まったメンバーに視線を向ける。
今までただ突き進む事だけを考えてきた連中に、急に時間を与えられたのだ。
どちらかといえば困惑の方が大きいのだろう。
声を発する事のない仲間達を見遣って、ジローは心中で小さくほくそ笑んだ。
これはオーナーに報告しておかなければ。
「で?リーダーのご意見は〜?」
「……アーン?」
椅子に深く腰掛け足を組みテーブルに肘をついた状態で跡部がジローに視線を向ける。
意見と言われても、オーナー命令は絶対なので拒否権は無い。
休めと言われてしまったら休む以外にないのだ。
「いいんじゃねぇの?そう言ってきてんだろうが」
「やっぱC〜!跡部ならそう言うと思った。わかりやすいー」
「喧嘩売ってんのか、もしかして…」
「そぉんなコトないってば!
 それじゃあ今から3日間、此処でお休みって事で。
 禁止事項は3つ、街の中心部へ行かない、夜はこの建物の中に入る、
 外出時は単独行動を取らない。以上よろしく!」
灰皿の上で指令書を燃しながら、ジローがにこにこと笑みを零しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、自由な時間を与えられても困る。
そう思いながら、ソファに寝そべって宍戸は何をするでもなくゴロゴロとしていた。
エネルギー不足でもないのに、こんな真昼間から眠れるわけがない。
ぼんやりと何するかなーなどと考えていたら、ソファの背凭れに手をかけるようにして
鳳がひょこりと顔を覗かせた。
「宍戸さん、もしかしてヒマなんですか?」
「おー、ヒマもヒマヒマ。ヒマすぎて死にそうだぜ」
「あはは、そんなにヒマなんですか」
「休みなんか貰ってもするコトなんかねーもんな」
「あ、じゃあ、」
にこりと人好きのする笑みを見せて、鳳が言った。
「少し、外でも散歩しに行きませんか?」
「外ぉ?」
「はい、まだ此処は緑も多くて綺麗ですから。
 少し行ったところに公園があったって、向日さんが若連れて
 出て行きましたよ」
「跳ねてたか?」
「跳ねてました」
「冗談で言ったのにマジなのかよ、激ダサだな。
 ……じゃあ、ちょっとぐれぇ付き合ってやっかなー」
「ありがとうございます」

よっこらせ、と声を出しながら身体を起こすと鳳に「お年寄りみたいですよ」と言われ、
うるせーと言いながら宍戸は鳳の頭を一発殴っておいた。

 

 

 

 

 

 

緑に囲まれた公園は誰の姿も無く、ただ風が梢を揺らす音、小鳥の囀り、
蝉の鳴き声など、自然のものしか存在していなかった。
そんな中をゆっくりと歩く2つの足音。
その内の1つは歩幅が小さいのか、もう片方と比べて若干テンポが速い。
「見事に誰もいねーんだな」
「そうですね。
 ま、全員避難させたんですから、残られてても困りますけど」
「そりゃ言えてるけどよ」
だが誰も居ない空間を歩くのは、思いの外自由な感じがして悪くない。
ふとそんな風に考えていると、前方から岳人の声が聞こえた。
「鳩だ!」
「え?」
「俺、実物見たのって初めてだぜー!!」
わはははと声を上げて笑いながら、岳人は公園の片隅に屯している鳩の群れに
突撃をかけていった。
彼は今、何と言った?
「初めて見た…んですか?」
「おーよ!だって、今までこんな動物とかって居なかったじゃんか。
 ガリガリに痩せた犬とか猫とかは居たけどよー」
「……そう、ですか」
岳人が一歩踏み出すと鳩は驚いたように顔を上げ、一羽が飛び立つと
皆一斉にそれに続く。
群れる故の行動だ。
「あー、飛んでった…」
「向日さんが驚かせるからですよ」
「俺のせいか!?」
「その通りです」
「……ヒヨって、ヤな奴〜」
「何とでも言って下さい」
彼は、こんな世界に生まれた事をどう思っているのだろうか。
朝になっても小鳥の囀りひとつ聞く事のできない、硝煙の立ち込める
混沌と化した街の中で。
この場所に来なければ、彼はきっと確実にどこかで息づいている
小動物の命など知る由も無かった筈だ。

こんな世界に目覚めさせてしまったのは、自分。

「……向日さん」
「んー?」
「俺を……」
「どした?」
くるりと振り返った岳人の表情は明るい。
それに対して、自分は今どんな顔をしているのだろうか。
これは彼に対する負い目なのだろうか?
「俺を、恨んでますか?」
「………は?」
きょとんとした目で見る岳人は、日吉の言葉の意味を図りかねて
こくりと首を傾げた。
「…なんで、俺が、お前を恨まないといけないんだ?」
「だって……俺が向日さんを、」
「俺、ヒヨには感謝感謝で一杯なんだけど?」
「……え、」
「だってさぁ、」
へらっと笑みを見せて、彼は思いも寄らない事を。

 

「起こしてくんなかったら、俺、誰とも会えなかったんだぜ?
 お前が俺を動かしてくれたから、俺は今此処でこうやって
 ヒヨや皆と一緒に居られんだからな!」

 

だからそこに後悔なんてある筈も無い。
願わくば、日吉自身にもそれに対する負い目なんか持たないで欲しいと
ずっとずっと思っていた。
時折自分を見る目が少し悲しそうだったから、それが気になって仕方無かった。
まさか彼が自分に対してそんな風に思っていたなんて、それこそ思いも
していなかったから驚いたけれど。
「前になぁ、侑士が教えてくれたんだけどさ、」
「はい」
「鳩ってさぁ、平和の象徴なんだってな、この国では」
「……ええ」
「だから、今は平和じゃないから、見ないんだなーって思ったんだ」
「……。」
「それをさ、俺らの力で呼び戻してやれるんなら、コレってちょっと
 凄いコトだと思わねぇ?」
「向日さん……」
「此処だけじゃなくて、もっと色んな場所を飛ばしてやりてぇじゃん?」
屈託無く笑う彼は、誰にそう義務付けられたわけでもないのに、
とても強い意志を持っている。
この強さはどこから来るというのだろう。
けれど、そんな彼だからこそ。
「……向日さん、」
「んー?」
打てば鳴る鐘のように、呼べばすぐに自分へと降る声と、視線。
失いたくない、と思ってしまった。
だから、真っ直ぐ彼に向けて手を伸ばして。
「ぅわッ!?
 ちょ、なに、どしたんだよ、ヒヨっ!?
 どっか痛ぇのか!?」
唐突に抱き締められたからか、慌てた風な岳人の声音が少し可笑しくて笑えた。
くつくつと声を潜めて笑いを零せば、些か憮然とした視線が自分を捉えてくる。
捕らえて、離さない。
この感情は……何だ?
「……俺が、アンタを守ります」
「え…?」
「命に代えても向日さんを守り抜きますから、
 向日さんは何が何でも生き抜いて、この世界を見て下さい」
「ヒヨ……」
「この世界が平和になって、その象徴が戻ってくるのを、見届けて下さい」
それが、精一杯のキモチ。
伝わってくれるだろうか?
この……機械故の未熟な想いを。
「嫌だね」
「…は?」
「お前も、みんなも、全員で生き残るんだよ。だろ?
 俺一人で見たってツマんねーじゃんよ」
「………。」
そう自分に言って屈託無く笑う彼が。
「な、だからさ、一緒に見ようぜ?
 あの鳩が自由に飛んでるところをさ」
「………はい」

好きなのだ、と。

 

 

 

 

 

 

街には近付くなと言われたが、ジローは人間だ。
アンドロイド達と違い色々と入り用になるし、手に入れなくてはならない
ものだってある。
衣服は仲間達だって必要なので、時折纏めてオーナーが送ってくれたりも
するのだが、例えば食料などは必要なのは自分だけだ。
今までは周囲の目を盗んでこっそりと手に入れに行ったりしていたのだが、
今回は少しばかり勝手が違う。

「街は危ないですから……自分も、行きます」

そう言って樺地がついて来てくれたのだ。
何かあった時というのを余り想像したくもないが、確かに来てもらえると
有り難いと思った。
だから樺地を伴ってこっそりとまた街へ出て、必要なものを適当に手に入れ
肩に背負ったザックに放り込むと、何事も無かった事に安堵しつつも
足早で拠点まで戻ることにしたのだ。

 

思いのほか自分をアンドロイドに見せかける作戦は上手くいっていたが、
あまりに不安定な自身の在り方に、不安があったのもまた事実。
戦う術を持たない自分は、バレて攻撃対象にされればそれで終わりだ。
いつバレてしまうかもわからない。
だから一人で行動する時はいつも周囲に気を張り巡らせていた。
事情を知ってくれている人がいるのは正直ホッとする。
そう告げれば、それならこれからも一緒に行きます、との有り難い言葉を
樺地はくれた。
本当に、イイ奴だと思う。

 

 

 

 

「あれ、お帰り樺地。
 ……ああ、またジロー寝ちゃったの?」
「ウス」
すっかり寝入ったジローを背負って拠点となっている建物へ戻れば、
一人静かに本を読んでいた滝が迎えてくれた。
ソファにジローを寝かせ、その近くにザックを下ろす。
すると滝が仕方なさそうに苦笑を浮かべながらブランケットを持ってきて
その上にふわりとかけてくれた。
「…すみません」
「いえいえ、どういたしまして」
クスクスと笑みながら、滝がまた近くのソファに腰を落ち着ける。
「ジローと出かけてたんだ、珍しい」
「散歩……してました」
「そうなんだ」
「ウス」
滝の言葉に頷いて答えながら、樺地も滝の向かいに座る。
何処かへ行こうという気にもならないから、これで良い。
「……何だろね、普段頭ばかり使ってるから休めるのに寝るのかな」
「そうかも…しれません」
「うん?」
「ジローさんは……、たくさん、頑張ってます」
「そうだね、あの跡部が一目置いてるぐらいだし?」
「ウス」
一人で寝てるか、岳人達と騒いでいるかぐらいしか思い浮かばないくせに、
何故か立てられた作戦の中枢にはいつもジローがいた。
パソコンと向き合っている事自体、実はあんまり目にした事が無い。
では今までの情報等はどこに蓄積されているのかと言えば、
それは全てジローの頭の中だ。
しかもそれが完璧であるのだから、あの跡部も口にこそ出しはしないが
ジローの事を認めているし、頼りにもしているのだ。
それは自分達だって同じだけれど。
「自分は……」
「うん?」
ぽつり、と樺地が呟くのに、滝が視線を向け首を傾げた。
「自分は、頑張っているジローさんを見てるのが、好きです」
「……うん。俺もだよ」
「ウス」
「あと、いつも笑ってるジローが、好きかな」
「ウス」
言って照れたように微笑む滝に、樺地も頷く。
眠るジローに向けられた2人分の視線は、とても優しげなものだった。

 

 

2時間ほどの睡眠の後、ジローが漸く目を開いた。
「ふあぁ……よっく寝たぁ〜………ん?アレ??
 いつの間に俺帰って来てんの…?」
「ジロー、ちゃんと樺地にお礼を言わなきゃダメだよ。
 背負って帰って来てくれたんだからね?」
「うっそ、マジで!?ウレC〜!!
 樺ちゃんサンキュー!!」
「……ウス」
起きた途端にテンション高く喋り出すジローに、滝がやや呆れた顔を向け、
樺地は普段どおりの表情で、そう首をこくりと縦に振った。

彼らの間はいつもとても穏やかな空気が流れている。

 

 

 

 

 

 

「………何してんだ?お前」
そんな言葉をかけられ、忍足はゆるりと自分の後ろを振り返った。
「あれ、跡部やん、どないしたん?」
「別に…退屈だったから散歩してただけだ。
 そういうお前は何してんだよ」
「ん〜………やっぱり、似とる」
「アーン?」
公園の片隅にあるベンチに座って何をするでもなくぼんやりしていた忍足は、
そうやって声をかけてきた跡部にまじまじと視線を送ると、不思議そうに
首を傾げた。
「何がだよ」
「まぁ、座りぃや」
ポンポンと自分の隣を手で叩けば、特に拒む事無く跡部も従う。
忍足が手に持っていたものは、いつだったかに跡部が彼に渡した
ロケットだった。
「…何だよ、まだ持ってやがったのか」
「まだって何やねんな。
 誰も処分するなんて言うてへんやんか」
「ま、そりゃそうだけどよ」
古ぼけた写真は、忍足にとってそれほど価値のあるものなのだろうか。
その辺りの感覚は、まだ作られたての自分では理解できない。
「これな、ほら、こっちの人」
「あン?」
中の写真を指差す。
忍足に似た人の方でなくて、その隣に居る青年の方だ。
「何となく、跡部に似とるなって、」
「はぁ?似てねぇだろ」
「そうか?」
「俺様の方がもっと男前だ」
「……お前、どういう性格にプログラミングされてきてん」
己の顎に手を添えてそうしれっと言ってのける跡部に、忍足がややげんなりした
視線を投げる。
何となく、気のせいだろうなという気はしていた。
そもそも跡部が作られたのはごく最近の話なのだから。
けれど、この意志の強そうな視線と。
「同じトコロに、泣き黒子。
 コレのせいやな……似とるて思うんは」
「あるヤツにはあるんじゃねぇのか?
 そう珍しいモンでもねぇと思うが……」
「ロボットにつける必要まであらへんやろ。
 お前…オモロイ作られ方したんやなぁ……」
「どういう意味だ」
「そういう意味や」
じとっと睨んでくる跡部に、あははと笑いながら忍足がそう答えると頭に拳骨が
一発飛んできた。

 

 

気がつけばよく近くに跡部が居て、以前から少なからず忍足は不思議に思っていた。
どうしてなのか、とは訊ね難いので何も言いはしないのだが。
今もこうやって一緒に居るのが不思議でしょうがない。
「せやけど、お前がこういうトコロに来るのは珍しいなぁ」
「…そうか?」
「なんや、あんまり好きやないような気がしてたわ」
「偏見だろ?」
「そうやで」
そう素直に認められるとどう繋げて良いものか解らず、跡部が暫し押し黙った。
くすりと小さな笑みを乗せて、忍足がベンチの背凭れに背中を預ける。
「ほんまは此処にこうやって足止めされてんのも、もどかしいって顔しとるわ」
「……それは、」
「ほら、皺寄ってんで?」
愉快そうに目を細めて跡部の眉間を指で突付いてやれば、それはもう認めるしか
無いらしく、跡部が深い吐息を零した。
「もどかしいってワケじゃねぇが……早いこと終わらせてぇと思ってる」
「……そうなん?」
「時々……自分でもどうしようもなく何もかもをブチ壊したい衝動に駆られる。
 焦ってるわけじゃねぇと思うんだが……よく、解らない」
「そう……」
リーダーはリーダーなりの気苦労がある、という事なのだろうか?
それともまた別に、何か理由があるというのか?
「だが…不思議なもので、お前の近くに居ると何故かそれが落ち着くんだ」
「………は?」
「お前という人格がそうさせてんじゃねぇかって思うが……」
「何やそれ、癒し効果?」
「そうとも言う」
「意味わからんわ」
ため息と共にそう答えれば、ふと跡部の口元が笑みの形に緩む。
余りこんな風に無防備な笑みを零す事が無いので、少しばかり驚きに
目を瞠っていると、跡部がゆっくりとベンチから立ち上がった。
「確かに、俺は今のメンバーを統率する役割を担っている。
 だが…関係を平滑に保っていられるのは、恐らくお前のお陰だろうな。
 大した揉め事も無く、よく此処まで来られたと思ってるぜ?」
きょとんとした表情で、瞬きを数度。
どうやら自分は、この跡部に褒められているらしい。
そう理解すれば悪い気もせず、忍足がにこりと笑みを浮かべた。
「そんな事はあらへんと思うねんけどな、とりあえず褒め言葉は
 素直に受け取っとくわ。おおきにな」
「ああ」
「なぁ……俺らで、大丈夫やんな?」
「……アーン?」
「俺らで、世界は救えるやんな?」
「当然だろ?」
ここまでただがむしゃらに走ってきたけれど、マザーの足元まで来て
唐突にそう思う。
自分たちだけで勝てるのだろうかと。
不安はそのまま表情に出ていたらしく、跡部は力づけるように答えると
くしゃりと忍足の髪を掻き回すように撫でつけた。
「マザーは止めてみせる。その為に俺は来たんだ」
「……頼りにしてんで?」
「任せろよ」
「ほな、俺ももっと頑張らんとなぁ」
ゆっくりとベンチから立ち上がりながら、のんびりした口調で忍足が
そう口に出した。
いい機会だから、オーナーに相談してみようかと思う。
自分のこの身体を、戦闘用に新しく設定し直したいのだ。
どちらかといえば戦うのはあまり得意で無かったから、ずっと周囲の
サポートに回っていたけれど、それでは自分にできる事は限りがある。

 

もう少し、傍で。

もう少し、力になりたい。

 

拠点となっている建物に戻りながら、忍足がぽつりとそう考えていたことを
跡部に告げれば、イイんじゃねぇの?とのお言葉を頂いた。
どうやら賛成の傾向でいてくれているらしい。
「ジローに言えば良い。
 きっとアイツは力になってくれる」
「せやね…ジロちゃん、起きててくれとるやろか」
「それが一番問題だな」
くすくすと笑い合いながら、そうやって隣り合って歩く相手が
どうにも懐かしい感覚を齎してくれるのに、忍足が僅か首を傾げる。
「こうも簡単に賛成してもらえるとは思わなんだな」
「そうか?……そうかもしれねぇな、忍足がそう言い出した事に関しては
 俺も意外でしょうがねぇ。
 ただ…これは俺の持論なんだけどよ、より強さを得るために必要なモノはな、」
「うん?」

 

「テメェでモノを考えられる事ができることだ」

 

ぱしん、と頭脳回路のどこかが弾けたような気がした。
どこかで聞いた事が、あったような。
「……おい、何ボーっとしてんだよ、置いてくぜ?」
「あ、ちょお待ってぇや!」
それが何だったのか記憶ベースを確認しようとする前に跡部から声がかかって、
忍足は慌ててその後を追いかけた。
けれど、頭の片隅でどこか気に掛かっている。

遠い昔に、どこかで聞いたような。

 

 

 

 

< END >

原題:その時だけでいい。この時だけでいい。どうか傍を離れないで。

 

 

 

ほんのひとときの休息の中で、
何か大事なものを見つけ出せたのなら。