〜 Life 〜
【 It is for the innocently becoming feelings that it is looking. 】

 

 

 

 

ある日の事だった。
出張だと言って3日間家を留守にしていた主人が、帰ってくるなり
唐突に自分を呼んだ。
「侑士!ちょっと来い!!」
書斎で本を読んでいた時の事で、だが仕方が無いなと吐息を零しつつ本を
傍らに放ると、忍足は椅子から立ち上がった。
呼ばれるままに玄関へ向かう。
「何?どないしたんや」
「拾ってきた。あとは頼む」
「はぁ…?わ、うわッ!?」
拾ったというからには、それは犬なのか猫なのかと思い巡らせたが、
その予想を大きく外す結果をこの主人は突きつけてきた。
蒲公英色の柔らかそうな髪が、明るい照明に眩しく照らされる。

 

それは、まだ小さな小さな、子供。

 

「お、おまッ、いつのまに子供なんか…!!」
「アーン?んなワケねぇだろうが。
 だから拾って来たっつってんだろ?」
「いや拾うったって、こんな子何処で……」
まさか攫って来たわけではないだろうな、と嫌な想像が脳裏を過ぎりはしたが、
一応これでも主人の事はそれなりに信用しているので、それは無いだろうと
即座に否定する。
「俺、子供の世話って知らねぇから、あとは頼んだぜ」
「簡単に頼むなや!!俺かて育児目的とちゃうねんから、子育てなんて
 した事あらへんし、そんな知識も無いっちゅーねん」
「じゃあ調べろ」
「………アッサリ言いよってからに…」
主人から眠る子供を受け取りながら、重苦しい吐息が自然と漏れる。
それに相手の口元が笑みの形に歪んだ。

 

 

「……拾ってくるまでも無かったかもしれねぇな」

 

 

とりあえず空いてる部屋で寝かせようかと動いた矢先にそんな言葉が聞こえて
思わずピタリと足が止まる。
「どういう意味や?」
「何か聞こえたか?」
「…聞こえたか、とちゃうやろ?とりあえずもっぺん聞いとこか。
 なんで、子供なんて連れ帰って来たんや」
「………チッ」
じと、と睨めば小さく舌打ちを漏らして鬱陶しそうに視線を逸らす。
いい歳をして、こういうところがまだ子供じみていると忍足は思うのだが。
「…ええわ。とりあえずこの子を寝かせてくるし」
「ああ、行け行け」
「その後でゆっくりじっくり事情を話して貰うからな。逃げんなや?」
「………てめ、」

 

主人に対してその言い草ってねーんじゃねぇ?とか何とか聞こえたが、
とりあえずその辺は無視する事にしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……跡部、何しとるん?」
「あ?」
ふいに後ろから声をかけられて、一応目を向けて姿を確認するが
元よりこんな独特のアクセントで話す仲間は一人しか居ないので
その答えも解りきっていた。
「忍足か」
「寝ろとは言わへんけど、エネルギーの無駄遣いは感心せぇへんな」
「放っとけよ。つーかてめぇが寝ろよ」
愛想の欠片も無い返事に、忍足が苦笑を浮かべる。
新しく入った跡部景吾という仲間は、確かに自分達を上手く統率して
くれてはいるのだが、どうも輪の中には馴染めないようで大概が一人で居た。
今だってそうで、ジローと宍戸と忍足、そして跡部はエネルギーの充填も兼ねて
夜には人間でいう【眠り】を必要としている。
自分達以外の仲間のように眠らずとも常に動ける者も居るし、拠点にしている室内では
皆で過ごす温かい空気があるのに、彼だけが何故か外に居て。
「眠れへんの?どっか調子悪いんか?」
「いや……別に、どこも何ともねぇ」
「そっか、それならええんや」
言って忍足がにこりと笑みを見せ、ふいにそれが怪訝そうな色に変わった。
「…何やの、人の顔ジロジロ見よってからに……」
「いや、やっぱり似てるな、と、思ってよ…」
「何が?」
「………コレ、」
忍足が訊ねるのに、跡部が自分の服のポケットを探ってひとつのチェーンネックレスを取り出す。
その先にはロケットが付いていて、跡部はその蓋を開くと忍足の方へ向けた。
入っていたのは1枚の小さな写真。
そう年期が入っているわけでは無いのだが、最近のものでは無いのだろうその写真は
少しだけ古ぼけているように感じる。
そこには3人の人間の姿が見て取れた。
一人は恐らく20代後半と思われる青年。
もう一人はまだ幼い…3歳になったのかどうかと思わせるぐらいの子供。
そしてもう一人は。

 

「うわぁ。ソックリさんやな…ほんま」

 

その幼い子供を抱いて、青年に肩を抱かれるようにして微笑む、それはまさしく
自分なのかもと思わせるような容貌の男。
髪型も、眼鏡をかけた姿も、生き写しのようにそっくりなのだ。
「こんなん、いつ撮ったんやろ。覚えないわー…似とるけど人違いちゃう?」
「そうかよ」
「なんでお前が持ってるねん?」
「知らねぇよ。気がついたらポケットに入ってた」
「てことは…跡部の持ち物じゃないってコトやな?」
「ああ」
いつか機会があったら忍足に訊いてみて、忍足のものでなければ捨ててしまおうと思っていた。
そう跡部が告げると、暫く考えるようにしていた忍足が、うんとひとつ頷いて。
「ほな跡部、これ俺が貰てもええ?」
その言葉が意外だったのか、跡部が僅かに目を見開くようにして忍足を見遣る。
「別に…欲しいなら好きにしろよ」
「やった、おおきにな」
「どうすんだよ、そんなモン」
「え〜、なんかアレやん?未来写真みたいやん?」
「………は?」
どこか嬉しそうに話す忍足を見て、あからさまに眉を寄せて跡部が怪訝そうな声を出した。
「……お前、もしかして結婚してぇのか?」
「アホか!!なんでそんな話になんねん!!」
「いや、今の会話じゃそういう展開にしかならねぇだろ」
「そんなんやのうて……なんていうか、自分で見てもこの写真の俺…って俺ちゃうねんけどな、
 なんや…凄い幸せそうに笑とるなぁと思ってな」
「馬鹿面ってコトか」
「しばいたろかお前。……まぁ、せやから、要はゲン担ぎや、ゲン担ぎ!」

 

 

こんな風に幸せに笑う未来が、ありますように。

 

 

「……お目出度いヤツだな」
「お前、ほんまに俺に喧嘩売っとんのと違うか?」
「そんなコト無ぇよ。
 割とお前らのコトは気に入ってんだ」
決して希望を捨てない忍足が、皆が、本当はちゃんと大事にしたい仲間だ。
刻一刻と世界中で訪れている破壊と殺戮を止められない歯がゆさを感じては
いるが、それでも決して絶望だけはしない。
そんな姿勢が気に入っている。
「そらどうも」
「…風が出てきたな」
「せや、入り口の鍵閉めたいから、ぼちぼち中に戻ってくれへん?」
「チッ…しょうがねぇな、戻ってやるか」
「はいはい、おおきにな」
やっぱり俺様な言い草に苦笑を見せつつ忍足が答える。
跡部からネックレスを受け取ると、それを自分のポケットに仕舞い込んだ。

 

 

 

< END >

原題:求めているのは無垢なる感情

 

 

 

さて、この2人はどうなることやら。(ため息)
やっぱり思い出した方が幸せなの…かな??
忍足はともかく跡部がなー……はう。(泣)