〜 Life 〜
【For example, it is a reason for being here.】

 

 

 

 

 

忍足侑士は氷帝製では『初』の愛玩用アンドロイドである。
それまでにも同様の目的で作られたロボットはあったが、精神的構造がまだ
不安定であり、あくまでも主人に従順に従う存在でしかなかった。
人間で言えば【心が無い】とでも言えば良いだろうか。
それを超越する存在として世に生み出されたのが忍足である。
彼には【心】があった。
人間しか持ち得ないと言われていた【心】を、膨大なデータから適した感情を
表現するだけロボットではなく、己が感情を己で見出し、表すのである。
ここからアンドロイドは更なる進化を遂げ、以降に作り出されたロボット達は皆
忍足の持つような【心】という精神構造を与えられて生み出されるようになった。

 

 

 

 

 

 

忍足を買ったのは、ある大手ロボットメーカーに勤める青年だった。
無論、完成された忍足の使用目的を決めたのは、彼である。

 

「お初にお目にかかります……と、言えば宜しいでしょうか、マスター?」
「堅苦しいのは好きじゃねぇ。もう少しくだけて良いぜ?」
「そうですか?それは助かります」
「お前……」
「はい?」
「名前、何だ?」
「………忍足侑士と名付けられました。
 宜しくお願いします、マスター」
「そんな呼び方するんじゃねーよ。俺にだって名前がある」
「お伺いしても?」
「ああ。俺は………」

 

愛玩用……と一口に言っても、用途はさらに細かく区分けされる。
鑑賞目的もあれば、子供の玩具代わりのような目的もあれば、
いわゆる、性的な目的まで様々だ。

 

 

 

 

 

 

「これはまた、大きな……」
「大きいと思うか?」
「そりゃあ……ここがお住まいですか?」
「そうなるな。まぁ、使ってねぇ部屋も多いけどな」
「勿体無い…」
「貧乏臭ぇ事言うんじゃねーよ」
「で、私は何をすれば?」
「あ?別に……何も」
「何も?」
「そうだな……此処に居て、好きに生活してくれれば良い」
「はぁ……」

 

用途目的はしっかりインプットしているくせに、主人は忍足に対して
何も求めはしなかった。
ただ自由に、ただ気ままに。
好きに動けるだけの空間が、そこには用意されていた。

 

 

 

 

 

 

「……あ?どうしたよ侑士、その言葉は」
「ん?ああ、こないだウチに来た人に教えてもろたんよ。
 関西弁て言うんやて……どない?」
「いや、どない?って言われても……」
「……アカンか。そぉか…」
「んなコト一言も言ってねぇだろうがよ」
「ほな、どうなん?」
「………イイんじゃねーの?」
「おおきに」

 

主人が仕事に出ている間は、書斎にある膨大な量の本の中から
適当に選んで読んで過ごす。
帰った時には出迎え、あとは共に過ごす。
彼の為にする事など何もなかった。
家事等の細々した事は、別に担当する専用のロボットが既に
存在していたからだ。

 

 

 

 

 

 

「……家族、居らんの?」
「ああ。俺がガキの頃に死んじまった」
「そうなんや…でも、此処には俺みたいなロボットが仰山居るやん?」
「あァ?んなの……言われた事をそのままこなす、ただの機械じゃねぇか」
「そんな言い方せんかて…!!」
「俺が欲しいのは、そんなモンじゃねぇ」
「……そうなん?」
「俺が欲しかったのは、テメェでモノを考える事のできるアンドロイドだ」
「自分で……?」

 

 

彼が自分を此処に置く意味を、忍足は理解できなかった。

理由を問うてはみたが、主人はただ笑みを浮かべるだけで答えてはくれなかったから。

 

 

 

 

< END >

原題:たとえば、ここにいる理由

 

 

 

忍足にはちょっとした波乱万丈の人生ってヤツがあります。

その辺りは小出しにしていくことにしようそうしよう。