TWILIGHT SYNDROME

〜 It's possible to challenge a lot of wonders!〜

 

 

 

#00 はじまりの噂








どこの学校にも「七不思議」の類や「怖い噂」の類は飛び交っているもので、
それはこの場所も然して変わりは無い。
以前通っていた中学でもそういった類の話は耳にしたし、だからといってそれを
確かめようという気は無かったが、この場合は相手が悪かったとしか言いようが無い。







「……ほんま、見つかったらシャレならんで…?」
「だぁいじょうぶッスよ!いちお、その辺りの下調べはバッチシ!してきたんスから!!
 さっき巡回の用務員のオッサンが行っちまったばっかですからね、当分は来ませんって!!」
「……だからって、なんで俺様がこんなコト……」
「またまたぁ!結構楽しんでるクセに〜!」
「殴るぞてめぇ…」
懐中電灯で周囲を淡く照らし出し、忍び込んだ校舎内を慎重に歩むのは、跡部。
その後ろをピョコピョコと軽い足取りでついてくるのが、話の発端である切原。
何故か一緒についてきたのが、「七不思議」系の話が大好きな日吉で、
気を張りながらしんがりを歩くのは忍足だ。
「しっかしアレやなぁ……日吉がこういうのんスキやったとはなぁ…」
「ヒトの好みに文句つけないで下さいよ」
「文句なんて言うてへんやないか。ヤな子やねぇ……」
「泣き真似したって無意味ですよ」
「うわっ、ひっど!!」
「うるせぇぞお前ら」
小声でわあわあと言い合う2人を一声で黙らせて、黙々と跡部は先に進む。
目的地は、旧校舎の3階にあるトイレだ。
そこに『出る』というのだ。
「花子さん、ねぇ……マジなのかよ」
「今更何言ってんスか、跡部さん。
 だからそれを確かめようってハナシでしょ?」
ぽつりと呟いた言葉を耳ざとく聞きつけた切原がそう突っ込む。




旧校舎の3階、女子トイレの4番目。
そこに『花子さん』が出るという。
呼び出すときは、扉の前で3回まわって3回ノックをしよう。
『花子さん』は呼び出した人の願いを叶えてくれるだろう。




「……願い云々はどうでも良いっつーか、そこが一番嘘くせぇんだがな」
「ま、ま、何事もチャレンジっす!」
階段を3階まで上がり、左へ曲がるとすぐにトイレがある。
その前で立ち止まって跡部が3人を振り返った。
「…で?この俺様に女子トイレへ入れってかよ」
「いよッ!大将!!期待してますよッ!!」
「うるせぇ黙れ切原」
「……跡部さんって、ツメタイ……」
「諦めや切原、跡部は大体いつもこんなんや」
「…まぁ、誰か居るってわけでも無いんですし、気にしたって無駄でしょう?」
「それもそうだな」
日吉の言葉に頷くと、跡部が一歩中に踏み込んだ。
中は相変わらずの暗闇で、懐中電灯の弱い明かりのみが頼りだ。
4つ数えて、辿り着いた扉の前。
「……めっちゃ封鎖されてんねんけど……」
扉は固く閉ざされ、おまけに板でガッチリ止められてある。
張り紙には「使用禁止」の文字。
故障か何かしているのだろう。
「ほんまに出るんやろか…」
「そりゃ、やってみるしかないでしょ?」
「確か…3回まわって、3回ノックでしたっけ」
「ったく……バカバカしい」
とはいえ、恥ずかしかろうが何だろうが、やってみなければ始まらない。
「そいじゃ、いきますよ〜!」
切原の呑気な号令で、その場に立った4人が3回まわって、3回ノック。
固唾を呑んで成り行きを見守るが、訪れるものは静寂のみ。



「……チッ、所詮ウワサはウワサって事だろうよ」


真っ先に声を上げたのは跡部だった。
やはり付き合うんじゃなかったと、顎で出入口を指して出ようと促す。
「ちぇ〜、会って見たかったのになぁ」
「ほんまに会うてみたかったんや?
 俺、半分ノリとか冗談やと思うててんけどな」
「そりゃモチロンでしょ!」
「ほんなら、やり方間違うとるで」
「………忍足さん?」
ぞろぞろと歩き出していた3人がピタリと足を止め、しんがりに居る筈の忍足を振り返る。
彼はただ笑みを浮かべて、そこに佇んでいた。
僅かに眉根を寄せた跡部が、切原と日吉を押し退けるようにして戻って来る。
「…忍足、お前、」
「違うねん。ほんまの呼び出し方はそうやないんよ。
 あの子は願いを叶えてくれるとかやなくて、単に遊び相手を捜しとるだけや。
 遊んでくれる人を待っとる子供は、誘い出してやらな」
「忍足はこの噂知ってるのか?」
「噂っていうか……ほんまに、居るんやけど。
 3回まわるところは一緒、そんで、その後にこう唱えるんや」






キックキックトントン、キックトントン。






「……何ですか、それ?」
「昔のスキップの言い方らしいんやけどな、こう唱えてやると、
 遊んでると勘違いした子供が仲間に入れて欲しいて出てくるんやて」
口元に笑みを乗せたままで言う忍足に、一瞬だけ日吉の背筋を冷たいものが走る。
あまり、良い予感では無い。
「それ…、」
「面白そうッスね!!やってみましょうよッ!!」
止めようかと口を開いた日吉の隣で、意気揚揚と声を上げたのは切原だった。
辟易した表情を隠さない跡部が、ちらりと忍足を見遣る。
「お前、」
「大丈夫や」
懸念の声音で訊ねる跡部に、忍足はそう答えて笑ってみせた。






3回まわって、唱える呪文。

キックキックトントン、キックトントン。


さぁ、一緒に遊ぼうか。






しんと静まり返った空間に暫しの沈黙が流れ、口を開いたのは切原だ。
「……出ませんねぇ」
「出ねぇな」
「本当に、出るんですか?」
「………さぁ?」
無責任な忍足の答えに3人がガクリと肩を落とした。
気を持たせるだけ持たせておいて、そのオチは余りにもあんまりだろう。
「チッ、やっぱり居ねぇんだよ、そんなモンは。
 おらいい加減に帰るぞお前ら」
「へーい…」
「やっぱり噂なんですね」
「………。」
ぞろぞろとトイレから廊下へと戻り、最後に忍足が続こうとして、足を止めた。



てん…   てん…



ボールをつく音に、ああそうか、と忍足が笑う。
「出よったか…」
振り返ってはいけない。気付いてはいけないモノが、そこに居るから。
解っているから、忍足は後ろを見なかった。
「………ッ!?」
見てしまったのは、知らなかった3人の方だ。
忍足の更に後ろに視線を向けたまま、固まって動かない。
呼び出そうとしたのは彼らの方なのに。
真っ青な顔色のままで口をパクパクと開け閉めする切原と日吉の傍で、跡部が声を上げた。
「に………逃げろッ!!」
一斉に彼らは駆け出す。
すぐ傍の階段を飛ぶように下り、2階の廊下を全速力で走る。
ある程度行ったところで足を止め、ぜえぜえと荒れる息を整えながら跡部が声を絞り出した。
「今のはマジでビビった……」
「本当に出るなんて……」
「あ……、」
ピクリと肩を揺らして忍足が顔を上げた。
5人目の気配がする。
向日がこの場に居たのなら、もしかしたら何か聞こえていたのかもしれないが。
ふいに忍足が気配を感じた方へと視線を向ける。
ボールを手に持った少女が一人。
暗い廊下の奥から自分達の様子を窺っている。
「あかん……来とるで」
「やべぇな……逃げろ!」
「あ、ちょ、待って下さいッスよ2人とも!!」
走り出した跡部と忍足を追うようにして、切原と日吉も駆け出していく。
廊下を端から端まで全速で駆け、見えた階段を更に下へ。
1階の廊下に出て、忍足が軽く目を瞠った。
「………なんで………」
視線の先には更に下へと続く階段がある。
もちろん来た時にはそんなものは見当たらなかった。
「ちょっと待って下さいよ、俺達、2階から下りて来たんでした…よね?」
「どうなっちまってんだ……忍足」
「わからへん、けど……逃がしてくれる気は、無いみたいやな。
 悪気は無いんやろうけど…遊んで欲しいだけなんやし……。
 ……ッ!?来よった!!」
「チッ……何でもイイ、下りろ!!」
今度は全員の耳にはっきりと聞こえた声。
幼い少女の、楽しそうに笑う、声。
青褪めた忍足が跡部の言葉に迷う事無く階段を駆け下りる。
慌てて3人が後に続くが、やはり結果は同じ。
「やっぱり階段や……」




クスクス…  クスクス…




「…ッ、か、勘弁してくれよー!!俺らが悪かったからさーー!!」
堪らず叫ぶ切原の肩を、励ますように忍足が叩いた。
「言うだけ無駄や。とにかく逃げるで切原!」
「教室に入れ!隠れてやり過ごすぞ!!」
少しずつ確実に近寄ってくる気配に、跡部が再び走り出す。
手近な教室を選ぶと、並ぶ机や椅子に身を潜ませるようにして、息を凝らす。
忍足の持つ霊感を知っている跡部が、気遣わしげに視線を向けた。
「忍足、大丈夫か?」
「ああ……大丈夫やけど……アカンわ、なんて言うか……
 学校が全然違う場所になってしもうてるわ……」
「どういう意味だ?」
「もう、アイツだけとちゃうねん。
 アイツだけやのうて、もっと色んな、たくさんの思いが渦巻いてる……」
線引きはできているので問題は無い。
ただ…恐らくこの場所は『生きている』自分達が居て良い場所では無くなってしまっていた。
そうしてしまったのは、恐らくは自分達だ。
「どうにかして逃げ出さな…」
「シッ、静かに」
困惑した表情で言う忍足の口元に片手を当てて黙らせ、もう片方は人差し指を立て
己の口元に持っていく。
ヒタ、ヒタ、と歩く足音が静かに廊下を通り過ぎ、小さくなって消えていく。
ホッと胸を撫で下ろして切原が小さく零した。
「い、行った…?」
「みてぇだな……」
首を横に振ったのは、日吉と忍足だ。




「………ちゃう、そこに………居る」

「もう、俺達にも視えますよ……」




おかっぱの少女がピンクのボールを手に、こちらをずっと窺う姿。
こくりと首を傾げて、遊んでくれないの?と訊ねてくるかのよう。






「逃げるで!!」
立ち上がって叫んだ忍足に、全員が従い教室を飛び出した。
「もう勘弁してくれよー!!」
「言ったってしょうがねぇだろ!おら、走れ!!」
喚く切原をせっつきながら跡部が階段を目指して走る。
また下りてもきっと同じ事の繰り返しだろう。
「クソ……下りるのはダメか……こうなったら上だ!」
「上って……」
考えている暇は無い。
一気に階段を上まで駆け上がって、屋上へ続く扉を蹴り開ける。
扉から一番遠い端のフェンス傍まで走って、そこで一度足を止めた。
「うえー…、俺、もう、走れねー……」
「バカか、もう、これ以上行くトコなんて……」
「………ッ、」
近づいてくる気配に、ざわり、と忍足の肌が総毛立つ。
もう既に世に無きものを呼び出してしまった自分達に、できる事は何だ?



てん…  てん…



ボールのつく音と、楽しそうに笑う声。
その音が止んだと思ったら、刹那に視界が大きくぶれた。
「……うわッ」
「何だッ?」
「とうとう、こんなトコまで追ってきたんか……」
「どどどどどうするんスか……!!」
「どうするって…」
真っ暗な扉の向こうから、ヒタ、ヒタ、と小さな足音が聞こえる。
それは月明かりに、蒼白く照らされた。


もう既に、この世に居ないものを。






3回まわって、唱える呪文。

キックキックトントン、キックトントン。






さぁ、一緒に遊ぼうか。









<END>






むっず…!!
マジで難しいよこのパロ!!(滝汗)
書ききれてない感がヒシヒシとしてくるんですが、
少しでもヒヤっとしてドキっとして楽しんでくれればなぁ、なんて
思うんですが。


パロっていっても、やっぱりハナシはだいぶ変わっちゃいそうですねー。
まぁ、コイツらならどう動くか、っていうのを想像するのも結構楽しいのですけれど。


次は跡忍岳千でいってみる予定。