それは、ある休日に久々に山吹の連中と遊んだ日の事だった。
南が何気なく、俺にこんな事を訊いてきたんだ。
「どうして、あの高校に行こうって思ったんだ?」
そういえば、伴爺から推薦の話を貰った時に、1も2もなく飛びついたっけ。
あの時の思いはあんまりもう思い出せない。
「うーん……なんでだろうね?」
「お前が言うのかよ」
ビシっと忍足顔負けのツッコミが入って、俺はもう苦笑いを浮かべるしかなかった。
確か、伴爺に「もっと上を目指してみませんか?」って言われたのは、覚えてる。
だからなのかな。……だからだったのかな。
「もっと強くなりたかったから?」
「どうして疑問形なんだよ」
「うーん……正直さぁ、よくわかんないんだよね」
楽しめればさ、それでイイじゃない。
今の場所に居る事に、いちいち理由なんているんだろうか。
どうして今の高校に行きたかったのかなんて、もうどうだってイイんじゃない?
それじゃ、ダメなんだろうか。
「じゃあさ、それでお前、強くなれたのかよ?」
なんでだろうね、いっつもこの南健太郎って男は俺の心配ばっかりしてくるんだよ。
まぁ、怒ってばっかりなんだけど…それだけ愛されてるってコト?
けどいつも、南の言う事は何故かぐっさり胸に刺さってくる。
どうなんだろう、俺は……強くなれてるんだろうか。
「それもよく分からないなぁ……だって、手塚に真田に跡部っしょ?
俺もうずっと負けっぱなしだしね、あはははは」
悔しい事にテニスだけじゃなくてお勉強も負けっぱなしなのです。
だから負け犬は負け犬同士結託して、ささやかにそれ以外のトコロでリベンジしてるんです。
手塚にも、真田にも、跡部にも、他の仲間達にも、テニスで試合するだけじゃ
絶対知ることができなかっただろう、そんな一面を知ることができた。
手塚は天然だし、真田は柳と向日に振り回されてばっかだし、跡部も意外と庶民派だし。
皆で大騒ぎして笑い合って走り回ってそうやって。
「強くなれたかは分からないけど……、入ってよかったなって思ってるよ。
楽しすぎてホント、一日があっという間に過ぎちゃうから」
だからもう、そんなことどうだってイイじゃない?
そんなわけで、俺があの高校に行こうって思った理由なんて誰も知らない、
だって俺も知らないんだから、ね?
千石一人称。
書くだけならかなり昔に書き上がっていたのですが、
何故かアップすることをいつまでも躊躇っておりました。(汗)
どこが、とは言えないんだけど、なんだか妙に消化不良で…。
千石一人称は、ぶっちゃけ難しいのです。(滝汗)