それは、ある意味でありきたりな光景だったのかもしれなかった。
車に跳ねられたのだろう、猫が一匹。
道の真ん中に、それはいた。
誰もがその猫を避けるように通り過ぎて、見なかった事にしている姿は
なんとも不思議な感じがする。
でも、それが普通。
あとは誰かが役所に連絡を入れて、片付けられるのを待つだけだ。
なんだか可愛そうな気もするけどそういうものなんだ。
そうやって、世界は回っていくんだ。
だから俺が此処でこうやって感じている後ろめたさなんて、この道を
渡りきってしまえば簡単に消えて無くなるものなんだ。
「裕太」
「あ………樺地」
ぼんやり突っ立ってしまっていたみたいで、後ろから声かけられて
慌てて振り返ったら俺よりも頭ひとつぶん高い姿。
いつも穏やかにいるコイツは、この学校で知り合った同級生。
たぶん今まで会ってきた中で一番優しい人間だと思う。
「あれ、見ろよ」
「………猫、ですか」
「ああ。かろうじて分かる程度には猫だよな」
既に何度か轢かれたようなその骸は、もうズタボロで投げ出された雑巾のようだ。
それで、どこか興味が湧いた。

 

この男はあれを見てどうするのか。

手を伸ばして、それでどうするのか。

 

「轢かれたみたいだな」
「そう…」
ぽつりと呟いて、樺地はそのままてくてくと道を歩いていく。
慌てて俺も後を追いかけて…猫のすぐ脇を素通りして。
「……あれ、」
「何か…?」
思わず声を上げたら、樺地が不思議そうに振り返った。
「い、いや、ノーコメントだったからつい、」
「……猫ですか」
「そう」
「後で役所の人が、引き上げます」
「そりゃ、そうだけどさ、何も感じる事はねーのかよ?」
「もう……済んだ事ですから」

 

ああ、そうか。

俺はなんて勘違いしちまってたんだ。

 

もう死んじまったヤツに情をかけてやってもしょうがない。
なんていうかな、コイツは誰にでも何にでも優しいんでなくて、
ちゃんと自分にできることとできないことを知っていて、
それで、できることを精一杯やるヤツなんだって、俺は今になって知ったんだ。

 

それが、俺の知ってる樺地崇弘ってヤツだ。

 

 

 

 

 

 

裕太一人称。慣れてない分書き辛かった…。(汗)
一応、私の中の樺地観みたいなカンジ。
色々とわきまえている人だと思うんだ。