「だから、ここのxには2が入って……」
「……なるほど……」
乾に言われた通りにノートに書き込みながら、しかしながら自分の頭では
どの程度理解できたものやらと正直首を捻るほかは無い。
あまり目立って点数が悪いわけではないから知られていないかもしれないが、
実は俺は数学というものが苦手だ。
そもそも答えがひとつしかないというのが納得いかない。
そうぽつりと呟けば、乾が「そこが数学の美点なんだよ、手塚」と笑った。
ふむ…そういうものなのだろうか。
どちらかといえば文系のこの頭では、到底理解し難い事だな。

 

答えがひとつしかないという事は、
ひとつどこかで間違いが生じれば修正は不可能なのだという事。

 

まぁ、稀に途中式が激しく間違っているのに出した答えは合っていたという
千石みたいは不思議な者もいるようだが。
乾が美点と言う部分の欠点を述べれば、アイツはとても不思議そうな目を向けてきた。
「間違わなければ良いんだろ」
難しい事をさらりと言ってのける乾に、正直目眩がしたのは否めない。
誰でも彼でも乾のようにいくわけではないという事を、どうにかしてこの男に
教えてやらないといけないかもしれない。
だから乾は現国の読解問題でいつも躓くんだ。
そういえばいつだったか、跡部が言っていた。

 

「そういうヤツも、一人ぐらい必要なんじゃねぇの?
 少なくとも、お前みてぇなヤツの傍にはな」

 

妙に引っ掛かったからどういう意味なのかずっと考えているのだが、
生憎その言葉の示す意味までは解らない。
けれど少し、ほんの少し。
「あ、手塚。そこ間違ってるぞ」
ノートに書かれた数式の一部分を指で示されたが、残念ながらどこが間違っているのか
俺にはさっぱり分からなかった。でも。
違うと彼が言うのなら、俺はやっぱり「乾が言うのだからそうなのだろう」と
思ってしまうのだ。

 

結局、そういう事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

手塚一人称。色々ムリあり。(笑)
日記からの再録です。