STARS

 

 

 

 

全国大会が終わって始めての休日、岳人は一人で駅前に来ていた。
高校入学時、駅前探索で見つけたSPORTS BAR「A−CROSS」(アクロス)
“スポーツやる人間がかっこよくったって良いじゃないか”とのオーナーの考えの下、
機能性とデザイン性を兼ね備えたおしゃれな洋服がたくさんあって、高校生になって
ちょっとばかしおしゃれに目覚めた岳人がなじみにしている店だ。
もちろん、隣接しているBARコーナーでは色々なドリンクもあり、又、オーナーをはじめ、
店員もスポーツをこよなく愛している人たちだから、岳人には寮とは違う心地よさを
感じていた。

 

 

仲良くなった店員やオーナーには今度全国大会に出場する事、それにレギュラーでD1で
試合に出ることを伝えていたので、一応、報告にやってきたのだ。
「こんちわぁーーー」
岳人が「A−CROSS」のドアを開けた。
すると、
「がくちゃーーーーーん!!優勝おめでとう!!!俺はうれしいよぉーーーー!!」
「オーナー?・・・あ、ありがとうございます。」
岳人の姿を認識した瞬間、オーナーの斉藤が奥から飛び出してきて抱きついたが、
あまりにも身長差があり、岳人は押しつぶされそうになっていた。
「よかったよぉー、一時はどうなることかと思って、はらはらしたんだけど、でも優勝できて
 良かった!!」
オーナーは泣きながら喜んでくれていた。
「・・・観に来てくれていたんですか?全然気がつかなかった。」
「あったりまえだよぉー、店を閉めて全員で応援に行ったんだよ。
 岳ちゃん試合に集中していてこっちの方チラッとしか見てくれなかったじゃない。」
「すんません・・・」
「でも、うれしいんだよ。こーやって顔見知りの子が試合や練習で結果を出してくれるの。
 がんばった結果が出てよかったなーって。
 怪我もなく試合に出られて良かったなーって」
「・・・」
「でさ、優勝したお祝いって訳じゃないけど、俺が岳ちゃんはじめ、みんなの分勝手に
 作っちゃたんだけど、気に入ってくれるかな?」
そういってオーナーは事務所に戻り小さな紙袋を持ってきた。
「気に入るかどうかわかんないけど、あけてみそ?」
オーナーは岳人の口癖を、いたずらっ子のように笑って言った。
そのうちのひとつを岳人は開けてみた。
「すげーかっこいー」
「俺手作りのシルバーアクセ。超レアもんだぜ?」
シルバーで作られたIDプレートで表面はテニスラケットとボールがデザインされ、メンバーの
頭文字が掘り込まれていた。
裏面は優勝した日付と、もちろん各々のパーソナルデータも。
「表面は店にいるデザイナー志望の子にデザインしてもらったんだけどさ。
 なかなかいい出来じゃない?」
「あ、ありがとうございます。」
「で、これほかのメンバー分。
 みんなによろしく言っておいて。いい試合だったよって。
 今度一度遊びにおいでって」
「はい!!ありがとうございます!!」

 

 

 

 

急いで寮に帰った岳人は全員を自室に呼んだ。
渡したいものがあるからといって玄関から直接各部屋に回り、伝言して、自室に戻ったときは
バテバテの状態だったが、それでも少しでも早くみんなに渡したかった。
「どないしたんや、岳人。」
全員が集まったとき、侑士が声をかけた。
残りの面々はせっかくの休日に呼び出されてちょっと不機嫌な顔をしていたが、
岳人が全員に目の前に袋を置いた。
「みんなに優勝のプレゼント・・・“A−CROSS”オーナーから。」
「どれどれ・・・わぁーかっこいいなー」
千石が、一番先に袋から取り出して、中身を空けた。
「・・・IDプレート?」
手塚が手にとって岳人に聞いた。
「うん、1個1個手作りだって。
 ネックレスにもなるし、キーホルダーにもなるし。
 ・・・各々の好きにしていいって。」
「かっこええなー・・・」
侑士がつぶやいた。
「ああ、そうだな・・・。この“AOITSMSY”って?なんだ?どこの国の言葉だ?」
真田が、眉間に皺を寄せて聞いた。
「あーそれは、うちらの頭文字をオーナーが順不同で並べたんだって。
 でもなんかの言葉っぽいよね。」
「・・・ありがたいな。」
柳がつぶやいた。
「俺は出場してないが・・・俺の分まである。」
乾が目を潤ませていた。よっぽどうれしかったのだろう。
「オーナーね、学生時代サッカー選手だったんだって。
 でもね、試合中に怪我してそれでフィールドに立てなくなったんだって。
 でも、スポーツは好きで、選手が好きで、がんばっている人たちを応援したいんだって。
 特に怪我して、スポーツをやめざる負えなくなった人たちの気持ちがすごく分かるから。
 それでもテニスに携わっている乾にも、選手以上にがんばったって言うことで。
 っていうかみんな一緒の仲間じゃん?」
乾が肩を震わせていた。涙をこらえていたのだろう。隣に座っていた手塚が肩を抱いていた。
「岳人、お前はいい人と知り合ったな。感謝しろよ」
跡部がその場の雰囲気を組んでそう締めくくった。
「うん。そうだね。!!俺もそう思う。」
岳人が言った。
プレセントを持ちながら各々自室に戻っていった。
跡部・忍足・手塚・千石・日向はネックレスにして身につけ、真田・柳・乾はキーホルダーとして
常に持ち歩いていた。

それは高校を卒業しても、彼等の身から離れることがなかった。

 

 

それは、あの日も。

そしてあの日にも。――――――

 

 

忍足を失ったあの日から、7年たったある日、手塚が試合の為、日本に戻ってきた。
ようやく日本での試合。マスコミはこぞって、王者の凱旋帰国を取り上げた。
スポーツ紙の1面に精悍な顔付きの手塚が載っていた。
日に焼けた胸元から見えるシルバーのネックレスと少しくすんだようなIDプレート。
そのIDプレートは王者の必須アイテムとしても有名であるが、どういう経緯で身に着けたかは、
手塚は一言も口にしなかった。
ただ、
「これは自分の原点の証ですから。」
と答えるだけだった。

 

 

 

FIN
2005/09/07
cyみかん

 

 

 

cyみかん様から、素敵な頂きものです。
高校生パラレル世界での頂きものは初めてなのでドキドキです。
こうやって人様から頂いて、「ああ、これだけこの世界を
愛されてんだなー」と、しみじみ痛感させられます。
こういう時に、この世界に居て良かったなぁ、書いて良かったなぁと
心底思うのです。もっと精進します。

オーナーさんの心遣いが嬉しいですね。
乾もちゃんとメンバーに入れてくれてあるのが、乾と同じように
私も嬉しかったです。
きっとこれから先も、みんなの大事な宝物になってるんだろうなぁって
感じ入ってしまいました。

ステキなお話、本当に有り難うございました!!