<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >
Light In The Heart , Love In The Word.
フェンスの傍で、跡部はただ立ち尽くしていた。
真下を見る勇気は無い。見るのが、怖い。
フェンスに引っ掛けた右手の指に力が篭り、カシャン、と小さく悲鳴のような音が上がった。
この高さを彼は、飛んだ。
「クソッ………高ぇよ………」
ギリ、と歯を食い縛って、ただ耐えて其処に居る事しか自分にはできない。
此処で彼が戻ってるのを、待つしか。
彼はきっと戻ってくるのだと、信じて待つしか無いのだ。
3階建ての校舎の更に上。
屋上に向かい階段をゆっくり進みながら、忍足が忌々しそうに上を見上げる。
衝撃で痛んだ身体が重い。それが殊更屋上への道を長く感じさせる。
「くっそ……何処まで続くねん」
ぼやきながら3階を越え、幾分か狭まった階段へと差し掛かる。
踊り場を越え、閉められたドアと脇に除けた鎖とが目に入って、心なしか緊張した。
どんな顔で会えば良いだろうか。
どんな顔で、彼は居るのだろうか。
「跡部……怒ったら怖いもんなぁ……」
罵詈雑言のひとつやふたつは覚悟しなくてはいけない。
それもちょっと嫌やなぁ、と独りごちて、忍足はドアのノブに手をかけた。
「跡部、」
見慣れた背中がフェンスの前に立っている。
ゆっくりとした足取りでそこに向かい、彼と3歩分程の距離を開けて立ち止まる。
跡部は振り返らない。返事もしない。
ただ、初秋の涼しい風が彼と自分の髪を僅かに揺らしただけだった。
何と声をかけて良いか解らず、逡巡したまま忍足は俯く。
と、ふいに跡部が口を開いた。
「テメェは………」
「……?」
「テメェは、馬鹿だろ」
「酷い言われようやな」
「馬鹿だ。本当に本気で正真正銘の大馬鹿だ。
こんな……こんな方法しか無かったのかよ」
「やって、それしか思い浮かばへんかってん」
拗ねたように唇を尖らせてそう答えると、漸く跡部が振り返った。
そのままフェンスに背中を預けて腕組みをして、真っ直ぐ射抜くように忍足へと視線を向けた。
もっと激しく怒るかと思っていたのに、予想は外れて跡部は至って冷静のようだ。
「この俺様の目の前で、やってくれるじゃねぇのよ……アーン?」
「……悪かった、としか言い様があらへんなぁ」
「誠意が足んねぇ」
「如何致しましょうか?帝王サマ?」
「………こっちへ来いよ」
言われるままに忍足が3歩分を縮めるようにゆっくりと近付く。
1歩進む度に鈍い痛みが身体を駆けるが、それを何とか表情を崩さずやり過ごす。
跡部が手を伸ばしてきたので、素直に身体を預けた。
腕が背中に回されて、そこで初めて気がついた忍足が驚いたように目を見開いた。
「跡部………お前、」
「……んだよ」
自分を抱く腕が、小さく震えている。
「何でお前が……」
「あァ?…………うるせぇ」
力を込めて抱き締められ、困惑したままの忍足が彼の肩越しにフェンスの向こうを、見た。
此処を飛んだのだと思い知った瞬間に、背筋に嫌なものが走る。
ぶるり、と忍足の身が震えた。
「………怖ッ」
「今更何言ってやがんだ」
「うわ、何や知らんけど、ほんまに怖い」
「……ったく、」
ズルズルとフェンスを伝って滑るように座り込むと、跡部が心底呆れたような吐息を零した。
「俺の方が怖かったっつ−んだよ、バカ」
「跡部……」
「我慢する方の身にもなれってんだ」
「…………ごめんな」
項垂れて忍足がもう何度言ったか解らない謝罪を口にする。
でも、本当に彼に言わなければならないのは謝罪などではなくて。
「それと……おおきに、跡部」
「アーン?」
「最後まで見とってくれて……ほんまに、ありがとう」
「………あぁ、」
ふわりと笑んで言う忍足に、跡部の顔にも漸く笑みが戻った。
確かめるように忍足の肩に触れる。もう、何の気配も無い。
「居なくなってるな」
「岳人もそう言うてた。ちょお荒っぽい方法やったけど……結果的にはめでたしめでたし、やな」
「……そうかよ」
気分的には全く目出度くなんてねーんだがな、とブツブツ言う跡部に、忍足がクスリと笑みを零す。
やっぱり、彼の傍が一番落ち着く。
「跡部、」
「何だよ」
そっと身体を離して忍足が跡部を覗き込むように見る。
少し力は緩んだけれど、それでも自分を離そうとしない跡部の耳元に、そっと唇を寄せた。
ガラじゃないとは思うけれど、出来るだけ声音に甘さを乗せて。
「好きやで?」
唐突な告白は、よほど彼を驚かせてしまったらしい。
大きく目を見開いて跡部が忍足を凝視する。
「………お前、それ、反則……」
その顔に見る間に朱が差して、跡部が片手で口元を押さえた。
「言わんといてや、俺かて恥ずかしいねん」
あの跡部にそんな風にされるとこっちが照れてしまうではないかと、忍足も同じように
僅かに赤く染まった頬のままで視線をあさっての方向へ泳がせる。
でも、これだけはちゃんと言っておかねばならない。
「俺はお前が好きやし、これからもずっと傍に居りたいと思うとるんよ?」
「あぁ…」
「……あーくっそ!めっちゃ照れるっちゅーねん。
誰や2回言うなんて言いよったんは!」
「テメェだよ」
ガシガシと頭を掻きながら真っ赤な顔で言う忍足にツッコミを入れて、跡部が唇の端を持ち上げた。
約束は果たされた。だから。
「もう、絶対に離してなんてやらねぇからな?」
「………お手やわらかに頼むわ」
「ずっと傍に居ろよ、良いな?」
子供が強請るように言い募られて、仕方無さそうに忍足が笑う。
「Yes,Sir.」
目を細めてそう応えれば、優しい口付けが降ってきた。
これからも幸せな日々は続く。
それがかけがえのない物であればある程、失った時の事をを思う不安は募るだろう。
けれど、もう、手離しはしない。
掴んだこの手だけは、決して離さないと誓ったのだ。
I give you whom I fight and let 1 week, and got victory a blessing of eternity...
<掌>
<NOT FOUND>
<Hallelujah>
<ニシエヒガシエ>
...and lots of music.
by Mr. children
Special Thanks music by Keigo,A.
very very Thanks!!!
<< The end. >>
随分長い話になってしまいましたが、これにて終幕でございます。
随分難産な部分もありましたが、一番書きたい話を完結させる事ができて
自分としては非常に満足であります。(内容がというより、無事エンドマークをつけられた事が)
皆のチカラがあって、忍足侑士という人間は 『生かされて』 います。
だけどそれは何も忍足だけではなくて、跡部も岳人も千石も、他の皆だって、そうなんだと思います。
最終的にその結論まで漕ぎ着けられた自分に、ちょっとだけ拍手です。
……実は当初立ってたプロットより、ずいぶんと話変わってるんですけどね。(苦笑)
やっぱり書いてる最中に話って変わりますね〜…。
とにかくこんな長ったらしい話を完読して下さった皆様には、感謝してもしきれない思いで一杯です。
たくさん激励を下さった方もいらして、それで此処まで辿り着けたのだと思います。
本当に有り難うございました(^^)