<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         Sunday when all ends. T

 

 

 

 

 

 

 

212号室。

 

カーテンの隙間から零れる日差しに、朝が訪れた事を知る。
身体を起こして大きく背伸びをしていると、寝室の扉が開いた。
「なんだ、起きたのか。今起こそうかと思ったのだが」
「ああ……おはようさん、真田」
既に起きていた真田が顔を覗かせたので、忍足が朝の挨拶をしてベッドから出る。
カーテンを開けて室内に日差しを取り込むと、着替えようとシャツを脱ぎ捨てた。
その下から現れたのが引き攣れた傷の残る白い肌だった事に、真田の口から思わず驚きの声が上がる。
「珍しいな、お前が下に何も着てないとは」
「うわ、やめてぇな真田、人の着替え覗くんが趣味なんか?」
「フン、貴様の裸になぞ興味は無い」
「そないハッキリ言われるのも何かなぁ…」
「そうではなくて、お前、今までは下にインナーを着ていただろう」
「ああ、それな。別にもう要らんかなぁ思って、やめてん」
「……そうか」
もう、自分達には何も隠す必要は無くなったという事なのだろう。
それはそれで、信用されたという事なのだから素直に嬉しく思う。
「朝食は?」
「食べるに決まっとるやんか。ちょお置いてかんとってや、すぐに顔洗ってくるし」
簡単に身支度を終えると、バタバタと急ぎ足で忍足は洗面台へと向かった。
いつも学校へ行く時と何も変わらないやり取りに、思わず真田の口元が綻んだ。

 

 

 

 

205号室。

 

「ふあ〜ぁ、おっはよう手塚ー」
「ああ、おはよう千石」
「…って、いっつも思うんだけどさぁ、そうやってソファで新聞読みながら居られると、
 父親と息子の会話みたいだよね〜」
「……こんな大きな息子を持った覚えは無いな」
「は〜いはいはい」
肩を竦めて千石はタオルを掴むと洗面台へと向かう。
途中で足を止めて、手塚に声をかけた。
「あ、ねぇ手塚、何時頃に出るんだい?」
「朝食も食べないといけないからな。7時半前には此処を出ようと思うが」
「了解〜」
手塚の返事に時計を眺める。
まだ7時をほんの少し回ったところで、時間は充分にある。
今日は念入りに髪型を整えてみるかと、千石は鼻歌混じりに洗面所へと入っていった。

 

 

 

 

305号室。

 

「ん?貞治、今日はノートは要らないのか?」
「うん、今日は必要ないよ」
玄関先で靴を履きながら、乾が柳の言葉に頷いた。
必要なのは、この身体ひとつで良い。
「蓮二、」
「ああ……油断するなよ、貞治」
「解ってるよ」
頷くと、玄関を出た。
今日は少し早い目に食堂へ行こう。
そして先に食事を済ませて、後からくる仲間達をゆっくり眺めていよう。
それが、自分達の【幸せ】だ。

 

 

 

 

607号室。

 

「おら岳人!!テメェいつまで寝てやがんだ!アーン!?」
「う〜…あと5分……」
「あと5分どころか3分も待ってやらねーぞ。
 今すぐ起きねーと放って行くからな!!」
「うーー…それはやだ〜……」
跡部が無理矢理布団を剥ぎ取ると、岳人が小さく身じろぎして答える。
無視してそこを離れようとしたら、シャツを掴まれて跡部が眉を顰めた。
「……伸びるだろうが。離せ」
「放って行くなよ〜?」
「10分で準備できたらな」
そう言ってやると、漸く向日が重い身体を起こして欠伸を漏らした。
この分だと、あと20分はかかるだろう。
吐息を零すと跡部は隣の部屋へ行って、テレビの電源を入れてソファーに腰掛けた。
世話の焼ける奴だ、と肩を竦めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようー…って、うわ柳も乾も早いって!もう食べちゃったのか!!」
「早いものか。ちゃんと食堂の開く時間が過ぎてから来たのだからな」
「おはよう、手塚」
「ああ、おはよう乾」
「今日の御飯は何かなぁ〜」
「ああ、今朝は…」
「うわストップ乾やめて言わないで!!」
「…?」
「楽しみが減るだろー?もう!」
「そういうものなのか?」
「そういうモンなんですー!!ほら、手塚行こうよ」
「ああ、」
「あ、おはようさん、2人とも」
「忍足、早いな」
「いやぁ。そうでも無いで?起きんの大変やったわ。
 誰やねん、9時に集合とか言いよった奴は」
「俺だが何か文句あるのか」
「う…ッ、真田……そない睨まんとってぇや」
「お前は朝に弱すぎる」
「……お前みたいに11時就寝6時起床なんて生活、俺には無理やわ。
 俺は夜行性なんやて」
「威張るな馬鹿者」
「威張ってへんやろが。ほら、朝メシ貰いに行こうや」
「そうだな」
「あ、忍足おッはよう!!」
「おはよう」
「おはようさん、千石、手塚」
「……そういえば、2人ほど足りないが」
「あ〜…気にせんといたって?
 岳人、俺より朝が弱いねん」
「お前より朝が弱いって……どうなんだ」
「とにかくベッドから出て来ぉへんな」
「それで?」
「とりあえず、掛け布団ひっぺがすやろ?」
「うんうん」
「それでも丸まって寝よるから、とりあえず揺さぶってみる」
「そしたら?」
「起きへん」
「筋金入りだな…」
「しょうがないからちょお叩いてみんねん」
「そしたら?」
「それでもアカン」
「……よくそれで朝練に出て来れるな……」
「それは跡部の日々の努力の賜物やな。俺やったら見捨ててるわ」
「……よくやる」
「ほんまや、ああ見えて跡部、意外と面倒見ええねんで?」

 

 

「だからその、俺様の日々の努力の賜物ってヤツを、無駄にするんじゃねぇぞ、アーン?」

 

 

「わッ!跡部!!」
「わかったな、岳人」
「へ〜〜い……」
「あーあーあー、どうしたの岳人、無駄にボロボロになっちゃって……」
「それがさぁ、聞いてくれよ千石!!跡部ってば酷いんだぜ〜!!」
「酷いのはテメェの方だろうが岳人!!」
「う〜……」
「はいはい跡部、話が前に進まへんから。そんで、どないしたん?」
「だからよ、とりあえず無理矢理叩き起こして先にこっちに来ようとしたら、
 コイツが「放って行くな」ってゴネやがるモンだから、10分で準備しろつって
 隣の部屋で待ってたんだよ」
「うん、そんで?」
「そしたらよ、20分待っても出て来ねぇ」
「そ、それは……」
「何してやがんのかと思って、寝室覗いたらよォ、」
「あぁ…オチ読めてもぉたわ」
「コイツ、寝てやがんの」
「……がっくん、ベッタベタなオチやでそれ……」
「うー……だって昨日なかなか寝付けなかったんだもんさー!!」
「理由にならねーだろうがバカ岳人!!
 ったく……毎日毎日起こしてやるコッチの身にもなれっつーのよ」
「あ〜はいはい、解った。解ったから。とりあえずゴハン食べようやん、な?」

 

 

 

あっという間に賑やかになったその空間に、柳と乾が顔を見合わせて笑う。
きっと誰1人欠けても得られないのであろう温かい空気に、口元が緩んだ。
とても居心地の良いこの場所を、この時を、自分達だって守りたい。
「やっぱり……失うわけには、いかないな」
「貞治…」
「俺達にできる精一杯の事をやってみよう、蓮二」
「ああ、そうだな」
穏やかに笑んで、柳はコーヒーの入ったカップを口元に持っていき、傾けた。

 

 

 

<続>

 

 

台詞ばかりで固めてみたのですが。
決戦の日だって、普段と変わらない日常空間があるのです。
ピリピリした空気は似合わないですからねー。