<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         However, it is coming Saturday U

 

 

 

 

 

 

跡部と忍足の意見はどこまでも平行線で、お互い一歩も譲らないまま夜を迎えた。
だがここへきて、忍足側についたのは意外な人物達であった。
「忍足を屋上へ連れて行かないか?」
再び305号室に集まった皆の前で、そう切り出したのは柳。
その言葉には幼馴染の乾でさえ驚いたぐらいだ。
さては言い包められたなと跡部は盛大に顔を顰めて柳に視線を向ける。
「……本気で言ってんのか?」
「勿論だ」
「さっすが柳!話解る奴っちゃな〜」
「テメェは黙れ」
向かいに座る忍足の足を容赦なく蹴飛ばして、跡部が睨みつけるように見る。
しかし、柳と同じくそこで賛成の手を挙げたのは、千石だった。
「俺も、忍足と柳に賛成」
「…千石!?」
向日が驚いて声を上げる。同じく跡部も、忍足ですら不思議そうな表情を浮かべた。
「なんや、お前、反対しとったやん?」
「うん。跡部や向日の視点に立てば、今でも反対意見言えるよ?」
「何やソレ」
「でもさ、このままじゃ前に進まないじゃん?きっかけがあるなら作ってやらなきゃ。
 何だってしなきゃ。だろ?」
「千石……お前って意外とモノ考えててんなぁ……」
「忍足、それ余計!!」
あれから自分も色々考えてみた。
跡部と向日の言葉も尤もで、けれど忍足の気持ちも汲んでやりたい。
そうなればできる事は自ずと限られてくる。

 

「だからさぁ、皆で行こうよ、屋上」

 

千石が言う 『皆』 の示すものに、乾が首を傾げた。
「昨日のように、か?」
「えっと、だから、忍足と、跡部と、向日に俺でしょ?
 それから柳も乾も手塚も真田も、全員でだよ」
「はァ!? 全員ッ!?」
「そうだよ」
指折り数えて名前を挙げる千石に、驚いた忍足が声を上げる。
さも当然だと言わんばかりの表情でこくりと首を縦に振ると、千石はヘラリと笑みを浮かべた。
「これだけ居れば、忍足に何かあっても助けてやれるっしょ?」
「いや、まぁ、………うん、」
「逆にそれでも駄目だったら、もう俺達が何をどうしたって駄目なんだよ。
 忍足も、俺達も、危ないからって逃げるんじゃなくて…前を向いて全部見て、戦おうよ」
ね?と首を傾げて念を押すように言うと、少し考えるようにしていた忍足が頷いた。
「ああ…それで構へんよ。皆居てくれた方が、心強いしな」
「跡部は?」
「………。」
千石に問われ、じっと射抜くように睨んでいた跡部であるが。
「………解った」
とうとう折れるに至って、彼はばつの悪そうに視線を逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

話が決まればあとは早い。
用意するものがあるわけでもなく、必要なのは各々覚悟ひとつだ。
「いつ行く?」
「俺は早い方がええねんけど…でないと、俺自身の気持ちが揺らいでまう」
「じゃあ、明日にしようか」
カレンダーに視線を向けた乾がぽつりと呟いた。
傍にあった己のデータノートを開いて、見るのは部活の練習メニュー。
明日の部活は休みだ。
「文化部は日曜は基本的に休みだし……運動部はサッカー部とバスケ部が出る予定だけど、
 アイツらは部室棟の方だからね、校舎に用事は無い筈だよ。
 居るとすれば職員室に先生が数人ってトコだな。
 それなら迷惑もかからないだろうし、多少騒いだところで気にする人も少ないだろう」
「妥当だな。では、明日の9時に食堂で落ち合おう」
真田がそう答えると、皆一様に了解と答えて席を立つ。
解散の意を暗に受け取って皆が部屋を出ようとする中、乾が忍足を呼び止めた。
「忍足!」
「ん?どうしたん?」
玄関先でくるりと振り向いて、未だソファに座ったままの乾の元へ忍足は早足で近付いた。
柳は皆を見送る為に玄関まで付き合っている。
不思議な事に、そこに残っているのは乾と手塚だ。
何だろうと首を傾げていると、何気なく眺めていたノートを閉じて、乾が忍足を見上げるように
視線を上へと向けた。
「昨日の話の続きで悪いんだけど、」
「うん?」
「もしまだ悩んでいるのなら、少し視点を変えた方が良いのかもしれないよ」
「………どういう、意味やの?」
「死にたいって思う気持ちはさ、」
ぽつりと口に乗せる乾の表情は、眼鏡が邪魔をして知ることはできない。

 

「本当に、辛いとか苦しいとかいう思いでしか、発生しないのかな?」

 

瞬間、忍足の顔から全ての表情が消え失せる。
何も言わずに眺めていた手塚には、それが手に取るように見えた。
やはり忍足は知っていたのだ、と。
「忍足、置いてくぞ!」
玄関先から自分を呼ぶ声が聞こえて、我に返ったように忍足が玄関の方を向く。
待ちくたびれた様子で千石と向日と真田が、待つのが嫌いな跡部は苛ついた表情で
自分の方を見ている。
それに慌てて戻ろうとして、足を止めた。
伝えておかなければならないと思ったからだ。
「………乾、俺な、」
「…うん」
「ほんまは、多分、ちゃんと解っとる。せやから……確かめたいと思うんや」
「うん」
「大丈夫やって、乾」
振り返った忍足の表情に浮かんでいるのは、すっきりしたような笑み。
「もう、逃げたりせぇへんよ」
「………そうか」
満足そうに乾が笑むと、忍足は「遅い!」と怒る跡部に「悪いな〜」と、余り悪く思っても無さそうに
謝罪の言葉を口にしながら、皆と共に部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「………開けたよ、手塚」
たったひとつだけ残っていた、扉を。
「ああ、」
短く返事をしながら、手塚は自分の隣でソファに沈むように背凭れへ身を預ける乾の髪に
手を伸ばした。
くしゃりと掻き混ぜるようにして撫でると、咎めるような視線が自分を見る。
「………怖いか?乾」
「明日が?」
「そうだ」
「そりゃ、怖いと思うけど……でも、アイツが逃げないと言うのなら、俺も逃げない」
強く言い切った乾は、口元に笑みを浮かべてみせる。
それを見て、安堵する自分が居る。
彼がこうして笑うだけで、全てが大丈夫だと思えるのだ。
「乾…昨日言った事、ひとつ訂正しろ」
「何を?」
「ダメじゃない。お前も、充分に強い」
「………そう?」
クスクスと小さく笑いを零して、おどけた風に応えた。
そう見えるのは、きっと今此処に手塚が居るからだ。
こうやって支え合って、自分達は強くなっていくのだろう。
「手塚、」
名前を呼んで、乾は手を差し出した。
こないだ手塚が自分にそうしたように、今度は自分が拳を作る。

 

「忍足を守ろう、手塚」

 

じっとその拳を見つめていた手塚が、ほんの少し。
滅多に崩さない仏頂面を崩して、嬉しそうに笑みを表情に表して。
「ああ……終わらせるんだ、明日で」
ごつり、と己の拳をそれにぶつける。

 

2度目の、約束だった。

 

 

 

<続>

 

 

だからどうして塚乾なんだ…!?(驚愕)
いや、うん、ごめん、ちゃんと跡忍になりますんで勘弁…!!
土曜日は比較的短くなりそうです。
まぁ、「転」の金曜日と「結」の日曜日に挟まれた日だからしゃーないか…。