<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         However, it is coming Saturday T

 

 

 

 

 

 

土曜日の授業は午前中で終了になる。
なので、2限目と3限目の間にある休憩時間を利用して、向日と千石は2人、
屋上への扉の前まで来ていた。
正確には、そこで呆然と立ち尽くしていた。
これは、どういう事なのだろう。
「な……なぁ、千石、昨日確かにさぁ……」
「うん、鎖も鍵もブッ飛んだよねぇ…?」
顔を見合わせて確認するように頷きあう。
そうだ、確かに自分達の目の前で、誘うかのように扉は開かれた筈だ。
だが、今目の前にある扉はそんな痕跡などカケラも残さず、鎖も鍵も元のように戻されて
完全に封鎖されてしまっている。
それは、まるで昨日の事は無かったかのような自然さだ。
「……いてッ、」
一段階段を上って、向日がそこで足を止めた。
強い耳鳴りがする。
もう一段上ってみる。
耳鳴りは強くなる。
「……ダメだな、こりゃ」
そこで上へ行く事は諦めて、向日はトントン、と踊り場まで戻ってきた。
「どうしたんだい、向日?」
「んー……ちょっと上、ヤバそうだな〜…と」
「俺はやっぱり霊感ゼロみたいだねぇ、さっぱり解んないよ」
あはは、と軽く笑いながら、千石が軽く階段を最上段まで上ってみせる。
そしてまた戻ってきて、向日の顔を覗き込んだ。
「どうする?」
「やっぱり…昨日、侑士を近付けたのがマズかったのかもしれねーな」
「そうなんだ?」
「解りやすく言えば、濃くなってるっていうか……酷くなってる、かな」
「それじゃ、ますます忍足を此処に近付けられないんじゃない?」
「あー、それはダメだ。全然ダメ。一発で喰われちまいそうだ。
 大体にして、この鎖と鍵だって……」
「あ、ストップ向日」
「へ?」
向日の口元に手をやって千石が言葉を遮る。
きょとんとした目で見てくる向日に、苦笑を見せた。
「鎖と鍵は、あの後誰かがつけ直したんだってコトにしとこうよ、向日」
「……は?んーなワケ…」
「だって、何か怖い考えになりそうじゃないか。俺怖いの苦手なんだよー」
ホントはね。そう言って舌を出してみせる千石に、呆れる前に笑いがこみ上げた。
「アハハハ!!こんなので怖いって言ってるヤツが、心霊番組なんて見てんじゃねーよ!!」
「アレはまた別だって!!だって凄く作りモノくさいじゃんか!!
 俺だって本当に怖いのはダメだったなんて、初めて知ったんだってば!!」
腹を抱えて笑う向日に、照れたように頬を染めながら千石がそっぽを向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうよ?」
教室に戻れば跡部が居て、ちょうど前の席を借りて忍足も座っていた。
跡部の問いに、向日が首を横に振ってみせる。
「あ〜、ダメダメ。どう考えても無理だって。
 俺だって一番上まで行けなかったぜ」
肩を竦めて答える向日に、そうかと跡部は一言零すだけ。
それを見て眉間に皺を寄せたのは忍足の方で、彼はまだ不満そうに口を尖らせている。
「せやし、心配いらんて言うてるやん、ちょおっと確認するだけやって!!」
「駄目だっつってんだろうがよ。わっかんねー奴だな」
「そんな事言うてたら何もでけへんやないか。何事もチャレンジやって、な?」
「テメェも大概にしつこいな。
 昨日それでフェンス乗り越えようとしやがったのは何処のどいつだ?アーン?」
「う…ッ、あ、あれは油断しとっただけや」
「どうだか。何度も言うが駄目なモンは駄目だからな」
「…ッ、この分からず屋!!」
「頑固者。」
「いや、それ意味一緒だし」
アハハと面白そうに眺めながら、千石がビシリと関西まがいのツッコミを入れる。
休み時間に入ってからずっとこんな不毛な会話を続けていたのだろうか。
けれど、昨日の件を見てしまった以上、忍足の肩を持つのは気が進まない。
連れて行ったところで、昨日と同じ事になるのがオチだろう。
「ねぇ忍足、俺もちょっと今は様子見た方がイイと思うんだけどな?」
「千石までそんな事言うんかいな」
「だって向日もヤバそうだって言ってるしさ、せめてソレが落ち着くまで待った方が
 良いと思うんだけど」
努めて冷静に、でもできるだけ柔らかくそう言ってみる。
忍足だって理解の悪い人間じゃないから、自分達の言わんとしている事は
恐らく解っている筈なのだ。
けれど。

 

 

フェンスを乗り越えようとしている姿を目にした時の、跡部が見せた表情をきっと忍足は知らない。

 

 

忍足は忍足で、きっと気持ちが焦っている。
早くこの現状をどうにかしてしまいたいと思っている。
その為ならば、今の彼なら多少の危険は厭わないだろう。
そんな気持ちも正直、解らないでもないのだ。
「……お前らがアカンって言っても……俺は、きっと行くと思うで?
 一人でも、行くと思う。
 せやろ?問題を見てもいぃひんのに答えなんか出せるわけあらへんやん!!」
「いい加減にしろッ!!」
尚も強く言う忍足に、跡部が苛立った声を上げてその胸倉を掴んだ。
「まだ解んねェのかよ!!テメェが殺されかかってんだぞ!?」
「わああ!!ちょ、跡部、ストップストップ!!」
今にも殴りかからんとする跡部の腕を慌てて押さえて、向日が仲裁に入った。
「お前ら、頭に血が上り過ぎ!!ちょっと落ち着けって!!」
なんだ?喧嘩か?と周囲の視線がやたら痛い。
跡部は周りを気にする人種じゃないのかもしれないが、自分達は大いに気にするタイプなのだ。
渋々手を離した跡部を一瞥して、乱れた制服を整えながら忍足は席を立った。
壁に掛けられた時計を見る。休憩時間終了まであと3分。
そろそろ教室に戻らなければチャイムが鳴ってしまう。
「あんな……跡部、」
子供に言い聞かせるような柔らかさを持って、忍足がゆっくりと言葉を吐いた。
「確かに、危険な相手かもしれん。
 けど、あくまでも俺と同じなんやってコイツが言い張ってる以上…俺はコイツと
 決別してやらなならん。俺とお前は違うんやってコト、証明してやらなならんねん」
でないと『区別』がいつまで経ってもできない。
相手に思い知らせる為ではなくて、自分自身が気付く為に。
それだけ言うと、忍足は「教室に戻るわ」とその場を立ち去って行った。
残り時間が僅かな事に気がついて、向日も「また後でな!」と急ぎ足で教室を出る。
黙ってしまった跡部に、困ったように頭を掻きながら千石が口を開いた。
「跡部が心配するのは俺にも解るよ?忍足の言い分も解らないでもないけど、
 やっぱり忍足自身の生命の方が大事だしさ。
 こないだみたいな事になったら、今度こそシャレにならないしねぇ……でもさ、」
己の髪を一房指で摘んで何気なく弄りながら、千石がポツリと呟いた。

 

「荒治療も、たまには必要だと思うよ。
 確かに物凄く危険だけど……だから、俺達が居るんじゃない?」

 

返事の無い相手を気にした風も無く、チャイムの音が聞こえると千石も口元に笑みを乗せて
自分の席へと戻って行った。

 

 

<続>

 

 

土曜日開始です。
しょっぱなから跡忍コンビが仲悪げなんですが。(汗)
愛あるゆえの喧嘩だと思ってくらさい。