<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >
Too
sweet Thursday U
意識が浮上して、覚醒する。
目を開けば、見慣れた天井がぼんやりと視界に入った。
余り頭がハッキリしないのは、眠り過ぎたせいなのだろうか。
なんとなく今が昼間で無いような気がして、同時に時間が気になった。
「今………何時やろ……?」
「朝の7時半を少し過ぎたところだな」
独り言のように呟いた言葉に返事があるとは思ってもみなくて、寝ぼけ眼だった瞼が
パチリと大きく開いた。
「あれ……俺、何で寝とるん……?」
「気がついたか、忍足」
「………手塚?」
どうして彼がこの部屋に居るのかが理解できなくて、忍足が不思議そうに目を擦る。
「何で此処に居るん?」
「何でって……覚えていないのか?」
「……?」
ちゃんと手塚と話そうと半身を起こして、身体に走った痛みに忍足は顔を顰めた。
この痛みの原因にすら思い当たらない。
思わず首を傾げると、呆れたような嘆息が耳に入った。
「……何で痛いんやろ」
「命に関わらないとはいえ、結構な高さだっただろうからな。
仕方無いだろう。我慢しろ」
「ちょお待ってや、俺……何したん?」
「本当に覚えていないのか?」
「あー……えっと、朧げにはちょっとぐらい……」
確か、真田に傷を負わせて。
それから、気がつけばベッドに寝かされていた。
どうして自分がベッドに居るのかが解らなくてとりあえず部屋を出たら、皆が部屋に居て、
「あー………」
思い至って、忍足がガリガリと頭を掻く。
「そうや、皆居ったんやっけ」
「まだ隣の部屋に居る。まぁ、今は仮眠を取っているが」
「嘘やろ?お前ら学校は……」
「何を言っているんだ。今日は休みだろう?」
「…………あれ?」
「創立記念日だ。忘れたか?」
「うわー……なんか、俺今マジでボケとるわー……」
何か色々怒涛のように押し寄せてきていて、振り回されてばかりで。
頭の中が混乱してしまうのも仕方が無いだろう。
「どこまで覚えているんだ?」
「……あん時、あっちの部屋行ったら、皆が居て、………ああ、そうや。
岳人と、跡部が泣いとった」
理由は解らなかったけれど、どう考えても自分しか理由は無いだろう。
そう頭が理解した時、カッと血が上ったのを覚えている。
自分自身に対して言いようのない怒りを感じたのは、あれが初めてだった。
「手塚は……俺の事、何て聞いたん?」
「霊感がある、と。とり憑かれやすい体質をしていて、今も何かが憑いているのだと。
跡部が祓おうとしたらしいが、できなかったと聞いた」
「ああ、ほな跡部や岳人の事も…」
「そうだ。あらかた話は聞いている」
「そっか……」
隠す事も誤魔化す事も、もはや既に不可能だろう。
こんな能力の事なんか知られても、何ひとつ良い事なんてないのに。
「そんで、手塚は信じるんか?」
「跡部と向日は認めているし、お前も間違いないと言うのであれば信じてみようと思う」
「………間違いは、無いんや」
薄く口元に笑みを浮かべて、忍足が僅かに俯く。
どうしてか、やはり手塚には忍足が何かを諦めているように思えて仕方が無かった。
どうして彼は、何も言わないのか。
「忍足……お前は現状をどするつもりなんだ?」
「どうって……」
「いつまで、憑かれたままでいるつもりなんだ?」
「そんなん……」
そう問われても、忍足に答える術は無い。
跡部でも祓えないなら、自然消滅を待つしか方法が無い。
それは過去の経験から理解している事であるし、その自然消滅そのものが何時になるのかは
全く見当が付かない状態だ。
消えるまでは、とにかく耐えるしか。
素直にそう思ったままを手塚に伝えると、自分を見る彼の視線が僅かに険しくなった。
「何が憑いとるのか、どんなヤツなのか解らん以上、そうするしか無いねん」
「………本当に、それしか方法は無いのか」
「少なくとも、俺にはその方法しか思いつかへん」
憑かれるのにももう慣れたし、と忍足が空虚な笑みを浮かべる。
諦めて、受け入れておくしかない。
我慢して、過ぎ去る時を待つしかない。
本当にそれしか方法は……無いのだろうか?
「……手塚?」
黙ってしまった手塚に、忍足が気遣わしげな視線を向ける。
こういう状況はどうにも居心地が悪い。
もともと口数が少ない方なのに、黙られると余計心配になってくるのだ。
「忍足、お前は……」
意を決したように顔を上げて手塚が口を開いた、その時。
「手塚すまない、随分眠ってしまったようだ」
部屋のドアが開いて柳が入ってきた。
目線は手塚から忍足に移って、驚いたような声を上げる。
「忍足、気がついたのか?」
「柳………おはようさん」
思わず苦笑を漏らして忍足が応える。
それに元気そうだと判断して柳が小さく頷くと、手塚に向かって声をかけた。
「手塚、お前もあっちで少し休んでくると良い。此処は俺がついておく。
まだ寝てる者も居るが……もう少しそのままにしておいてやってくれ」
「解った」
頷いて手塚が立ち上がる。
隣の部屋に向かおうとして、そういえば中途半端に言葉を区切ったままだった事に気がついた。
「忍足」
足を止めて、彼を振り向く。
「お前には『受け入れる』か『諦める』かの選択肢しか無いように思えるのだが、
……それは本当に正しいのか?」
「どういう……意味や?」
眼鏡の無い訝しげな視線が真っ直ぐ自分を捕らえてくる。
本当に、それしか無いのか?
此処に居るのは忍足だけじゃない。
跡部や向日だけじゃない。
皆、居るのだと言うのに。
答えは…………否だ。
「お前にはそれを、『追い出そう』とする意志は、無いのか?」
昔の、1人きりの忍足になら無理だったかもしれない。
けれど、今は1人じゃない。力になろうと皆が手を差し伸べている。
なのに肝心の本人は、誰かを傷つけるのを恐れて手を引っ込めている。
差し伸べられた手を取る事を、恐れている。
可能性なら、此処にあるのに。
恐らくその思いは忍足には伝わっていないのだろう、彼はすっかり沈んだ表情で
顔を俯かせて口を噤んでしまった。
そんな彼に今言える事など、ひとつしかない。
「お前に戦う気があるならば……俺はとことんまで付き合ってやろうと思う」
求めている言葉は、まだ、聞けない。
<続>
手塚とおっし。
手塚は、外面は真田属性、内面は跡部属性だと自分では思ってます。
あの2人を足して2で割ればきっと手塚ができあがる。(笑)
だから、考え方が跡部にちょっと似てると思います。
後ろ向き思考なおっしを何とかして前向かせてやろう、って。
とにかくここからおっしは復帰デスヨー。やっぱ居ないと落ち着かないわ。(汗)