<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         Pure-white Monday V

 

 

 

 

「………ウソやん」
開口一番そう言ったのは忍足だ。
部活終了と同時に忍足を引き摺って水飲み場まで来た跡部と向日は、先刻聞いた
音と憑いているモノの事を忍足に話した。
その返事が、コレである。
「嘘なんてついてねーよッ!!
 お前も『感じる』んじゃなかったのかよ、わかんねーの?」
「やって、なぁ。ホンマに憑いてるようなカンジせぇへんねんもん」
あっけらかんと答える忍足は、嘘を吐いているようにも誤魔化しているようにも見えない。
「いつもは頭ン中で見えるモンが、何も見えへん。感じひん。
 ウソちゃうで?ホンマに憑いてるとは思えへんのや」
「でも、俺は聞こえた!!」
「ああ、俺も解ったぜ?」
「………なんでやねんな…」
3人が共に霊を感じるチカラを持っていて、例えば自分だけが何も感じなかったとしよう。
信じるのは第三者の感覚だろうか。
いや、どこまでも信じられるのは自分の感覚だろう。
自分自身が感じない限り、それらは全て不確かなものなのだ。
「俺が解らへんもんを、一体どないせえって言うんや?」
「いや、どうもこうも、どうする事もできねえんじゃねぇの?」
言って跡部が忍足の肩に触れる。
ジャージの感触以外に伝わる痛い程の抵抗。
やはりちょっとやそっとの事では出ていきそうもないらしい。
「ほな、」
「でもよ忍足、知ってるのと知らねぇのとでは全然状況は違うだろ」
「そら……そうやけど、」
「テメェは俺らの話が信じられねぇってのか?
 お前自身の感覚でしか、物事は見つめられねぇのか」
そんな筈は無い。
この2人の言う事を、自分が信用しない筈は無い。
だけど。
「…こう、自分が解らんと憑かれとるってのは、気持ち悪いモンやな」
「つーかそれが普通なんだよバーカ」
勢い良く肩を叩かれて、忍足が苦笑を浮かべた。
「解った、覚えとくわ。またおかしな事しようとしとったら、」
「解ってるぜ、侑士!!」
「止めりゃイイんだろ?」
「……おおきにな、岳人、跡部」
理解者が居て本当に良かったと、今では心底そう思っている。
共に戦ってくれる仲間が居るのは、こんなにも心強い。

 

 

 

 

部室に戻って着替えて書き置きを目にして鍵を閉めて。
のんびり帰途につきながら、忍足と向日は何気ない話を続けている。
それに耳を傾けつつも、跡部の思考は別の所にあった。
強い強い思念の渦は自分の力でも祓う事はできず、今も忍足の中に居る。
自分に祓えなかったという事が、どこか跡部のプライドを傷つけていた。
テニスと違い、こればかりは努力して鍛えてどうにかなるものではない。
だから尚更悔しさが滲み出る。

 

「……駄目なのか、俺じゃ」

 

ぽつりと呟かれた言葉は、有り難い事に忍足や向日の耳には入らなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

「…珍しいな、お前が俺に話など」

「悪いか」

 

意外そうな声を出しているのは真田で、それにあからさまに不快の表情を見せているのは
他でもない跡部だ。
思えば最初からこの2人の相性は悪かった。それも中学の頃から。
テニスがどうとかいう問題ではなく、人間性の問題で。
性格が合わない、と言ってしまえばそれまでだ。
そんな2人がそれなりの仲間意識を持っているのは、ひとえに周りの仲間達のお陰である。
緩衝材となって間に人が入る事によって、上手く廻ってゆくのだ。
大体は柳や忍足、向日などになるのだが、今はその誰もが共に居ない。
真田が遅めの夕食を採って部屋に戻ろうとした時に跡部に呼び止められたのだ。
逆はごく稀にあったとしても、跡部から呼ばれる事など今まであっただろうか。
「わざわざ俺だけに話すんだ、さぞ重要な事なのだろうな?」
「まぁな………忍足の事なんだが、」
「忍足?」
鸚鵡返しに呟いて、真田がふと今日の部活で遅刻をしてきた同室者の事を思い浮かべた。
「忍足がどうかしたのか」
「お前、部屋に居る間は忍足から目を離すな。
 暫くの間で良い」
「……どういう事なんだ?」
「少し、様子がおかしい気がする」
言われて今日の忍足の様子を思い出してみる。
確かに怪我はしていたけれど、その後の忍足は普段と何ら変わりは無い。
いつもの様に向日や千石とじゃれながら普通に食事を採って、今は柳から本を借りると言って
305号室に行っている筈だ。
「気のせいではないのか?」
「アーン?俺様の言葉を疑うのか、テメェ」
「では根拠は何だ」
「…………それは、」
答えようとして、跡部が少し躊躇いを見せる。
どこまで話すべきなのか。
だが、自分も向日も忍足と部屋が違う以上、いつも見張っていられるわけではないのだ。
そうなると真田の協力がどうしても必要不可欠となってしまう。
何かがあってからでは遅いのだという事は、過去の経験から自分も向日も充分に知っていた。
それに、忍足は嘘が上手い。
吐く気がないのなら良いが、真田が騙されてからでは元も子も無い。
言い包めるのなら今しか無いのだ。

 

「確かに……今は勘でしかねぇが……、
 だが少なくとも、忍足の事はテメェより俺の方が知っている。
 後は直感だ。悪ぃかよ」

 

腕組みをしてふんぞり返りながら威張って言う事でも無いだろう。
と、思わずツッコミを入れそうになってしまったが、そこは何とか堪えておいた真田が
少し考える風を見せて、ひとつ頷いて見せた。
「いいだろう、暫くで良いんだな」
「ああ、…………頼んだぜ、真田」
「跡部…?」
まさか『頼んだ』などという殊勝な台詞が跡部の口から出てくるとは思わず、
驚いた目で真田が向かいに立つ男を見る。
一体どういう風の吹き回しなのか。
いや……それだけ忍足の事が気に掛かるという事か。
「ンだよ」
「いや、明日は雨にでもなるのかと思ってな」
「どういう意味だテメェ……」
ははは、と笑いながら言う真田に、跡部は忌々しげに舌打ちを漏らした。

 

 

 

 

                      Did everything become pure-white?

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

とりあえずサワリはここまでですねー。

まだ氷帝メンツ以外の人は、この3人が霊感持ちってコトを知らないのです。