<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         Pure-white Monday U

 

 

 

 

「遅うなってゴメンなぁ」

 

「侑士!?」
のんびりそう言ってコートに現れたのは忍足で、それに真っ先に反応したのは
パートナーの向日だ。
着替えはしたが、流石に今日はラケットも持たず、よっこらせと声を出しながら忍足が
コート脇のベンチに腰掛けた。
飛ぶ勢いで向日が駆け寄ってくる。
「お前ッ!!大丈夫なのかよ!?」
「なんのなんの、結構、血は出たけどなー」
「どうだ、傷の具合は」
心配していたのだろう一緒に駆けて来た柳が、そう訊ねてくる。
「8針も縫うたわ。完治まで2ヶ月やって。
 大会終わっててホンマよかったわー……」
明るく言う忍足に柳も安堵の息を漏らした。
「良かったじゃねぇだろ」
言って頭を殴ってきたのは跡部だ。
「何すんねんな」
擦りながら睨む忍足の左手を取って、跡部がまじまじと包帯を眺める。
「ビーカー割って、何でこんな傷になるんだ?アーン?」
「や、せやし、それは、……………実はよォ解らへんねん」
「あ?……どういう事だ?」
「せやし、何も覚えてないんよ。ビーカー割って、しもたなぁって思ったとこは覚えてんねんけど、
 その後はもう柳が傍で怒鳴っとったからな。…ボーっとしとったんやろか」
「………お前、」
「ん?」
眉を顰めて跡部が忍足を見る。
この怪我を深く気にしていないのだろう、忍足は跡部を見上げて首を傾げている。
「多分、ボーっとしとったんやと思うで?」
「全く……情けない。たるんどるぞ忍足!」
きつく言ってくるのは真田だ。
ふいに周りに視線を向けてみれば、いつの間にやら仲間が全員揃っている。
随分、心配させてしまっていたらしい。
「や、ホンマにゴメンな?」
「……とにかく、今日の忍足は見学だな。
 明日からはどうするんだ?」
「え?やるに決まっとるやん。俺だけ仲間外れにせんとってぇや」
「そうか、じゃあ左腕に負担をかけないような別メニューでも作るか」
「おおきにな、乾」
ノートに何かを書きつけながら言う乾に、忍足が嬉しそうに笑みを零した。

 

ギシリ。

 

向日の肩が大きく跳ねた。
どこから聞こえたのだろうか、この音は。
やたらと近いところから聞こえた気がする。
辺りを見回して、もう一度。

 

ギシ…ッ。

 

何かが軋むような音。
こんな音は聞いた事も無い。
「どうしたの向日?」
「あ、うんにゃ何でもねーよ千石!!
 侑士が見学ならしょうがないな、お前がダブルスの相手してくれよ」
「えー?俺ダブルス向きじゃないんだけどねー、というか俺も向日も
 攻めてなんぼのスタイルでしょ?絶対合わないってー」
「うー、じゃあ俺に何しろってんだー!!侑士が怪我なんてするからだー
 バカやろー!!」
「あーはいはい、全部俺のせいやんな、ゴメンなー岳人」
「誠意が足りねー!!バカ侑士!!」

 

何の音だろう。
まるで、鎖の擦れ合うような。

 

ギチ…ッ

 

ああ、まただ。

 

       侑士から、聞こえる。

 

「……跡部、手。」
「あン?」
ぽつりと向日が呟くのに、跡部が訝しげな視線を向ける。
「何言ってんだ、岳人」
「攻撃目標、忍足侑士!!」
「はぁ?俺!?」
なるほどそういう事かと口元に笑みを乗せる跡部に、驚いたように目を見開く忍足。
気合いを入れて跡部が忍足の後頭部を掌で思い切り叩く。
スパーンと景気の良い音がコートに響いた。
「いッた…!!ちょお、マジで痛いっちゅーねん!!
 怪我人はもうちょっと労らなアカンてお前ら…!!」
後頭部を両手で押さえ、忍足が喚く。
が、そんな事には目もくれず、跡部はラケットを持ち直すとさっさとコートに戻っていった。
それに向日もヒョコヒョコとついて行く。
ちょお、詫びのひとつも無いんか!!という忍足の言葉なんか完全に無視しきっている辺り
伊達に3年以上付き合っていたわけではなさそうだ。
流石は跡部だと皆感心しながらぞろぞろと練習に戻って行くのに、忍足は拗ねたような表情で
ベンチに居座っていた。
だから、跡部と向日の会話にも気付く筈が無かった。

 

「跡部、どう?」
「…………。」
「跡部?」
「………すげぇ抵抗があった。
 多分……祓えてねぇ」
「…マジかよ?」
「何かこう、静電気でも起きたみてぇに、バチッてキやがった。
 今度は何が憑いてんだ…?」
「今までみたいな単純なモンじゃねーって事か」
「……かもしれねぇ。まぁ、本人には後で言ってやりゃ良いか…。
 シンクロしきってなきゃ大丈夫だろうが、暫く忍足から目を離すなよ」
「らじゃ!」

 

不思議な不思議なチカラを持っている3人に、もう隠し事をする必要性は無くなっていた。
それは3人が3人共に持っているものだったからだ。
『霊感』という名の、不思議な第6感。

 

 

 

 

部活も終了の時刻を迎え、コートの片付けは後輩に任せて全員が部室へと戻ってくる。
その中に、跡部と向日、そして忍足の姿は無かった。
「……3人は何処に行ったんだ?」
「えー、さっき水飲み場のトコに居たの見たけどー?
 話し込んでんじゃないの?」
部室で着替えていた手塚がふと居ない仲間の事に気付いて言葉を漏らすと、
知っているらしい千石がそう言葉を返した。
それに、そうかと一言返しただけで手塚は他に何も言わなかった。
「しょうがない、鍵はアイツらに任せるとして、先に帰ろう」
待ってられんと言って、真田は鞄を担ぐとさっさと部室を出る。
それに皆頷いて部室を出て行く。
最後に乾が『鍵、頼んだよ』と書き記したノートの切れ端を机に置いて、扉を閉めた。

 

 

 

<続>