<ONE WEEK 〜 1 week to have risked fate 〜 >

 

 

 

 

         Pure-white Monday T

 

 

 

昼休み、その事件は起こった。
机に座り5限目の準備をしている時に、唐突に耳に入ってきたのは何かが落ちる鈍い音、
そして数人の悲鳴、叫ぶ声に、喚く声。声は次第に規模が大きくなる。
それだけでもうただ事ではないという事は理解できた。
柳は顔を上げて、窓際の自分の席から中庭を眺める。
下には大勢の生徒や教師で人だかりができているが、それですぐに合点が行った。
誰かが屋上から飛び降りたのだ。
錯乱した生徒の叫びや泣き喚く声や他にも色々聞こえて、柳が吐息を零した。
外で話している人間の話を聞いている限り、その落ちた生徒は3年生らしい。
自分達と同学年の人間でないという時点で興味はかなり薄れてしまう。
秋に入り、3年といえばそろそろ受験戦争に飲み込まれていく頃だろう、きっと恐らく
受験ノイローゼか何かなのだろうな、と簡単に予測を立てて、もう興味を失ったように
柳は外から視線を外した。
「なんや騒がしいなぁ、柳、何かあったん?」
教室に戻ってきて声をかけてきたのはクラスメイトの忍足だ。
この騒ぎの元を知らないようで、興味津々といった風に忍足は窓から外を眺めていた。
「詳しくは知らないが、飛び降りたらしい」
「はー…どっからやねん?」
「屋上だろう、恐らく」
「うわー……痛そうやなぁ……」
しかめっ面をしてそう答えると、忍足も興味を失ったように窓から離れて柳の前の席を
拝借する。
「あ、そうや柳、今日の部活なんやけどな、…」
そして何気ない話をチャイムが鳴るまで続けていた。
途中、救急車のサイレンの音が聞こえてきたが、当然2人の興味の対象になる筈も無かった。

 

 

 

 

 

 

今日の日直は柳だ。
HRも終わり、各自が掃除場所に移動している中で、柳は1人日誌を書いている。
無論自分も掃除の当番があるので所定の場所に行かなければならないのだが、職員室の前を
通るついでに日誌を提出しようと思ったのだ。
書く事など決まりきっているので、手早くシャーペンを動かして記入を済ませ、それをパタリと閉じる。
「早く行かないと文句を言われてしまいそうだな」
独りごちると柳は鞄を手にして教室を出た。
これから職員室に行って日誌を提出して、掃除を済ませ、そのまま直接部室へ向かう。
そんな柳の計画は着実に実行に移されていた。
自分達の担当は化学室と、隣接する準備室だ。
忍足も同じ班で、彼は既に先に行ってしまっている。
足早に廊下を歩き、途中で雑巾を投げつけあって遊んでいる(いがみ合っているとも言う)という
珍しい姿の跡部と千石を見かけたりもしたが、大方が柳の予想通りに動いていた。
職員室で日誌を提出して、足は化学室へと向かう。
扉を開けると、同じ班のクラスメイトが数人、箒と雑巾を手に掃除を進めていた。
「遅ぇよ柳ー!!」
「済まない、準備室の方は?」
「あー、今忍足が一人で頑張ってるよ」
「解った、ではそちらを手伝って来よう」
クラスメイトと言葉を交わし、鞄を邪魔にならない所に置いて柳は準備室へと続く扉を開けた。
「忍足、居るのか?」
一歩室内に踏み込むが、そんなに広いわけではない準備室に忍足の姿が見えない。
「……忍足?」
まさかサボって何処かに行ってしまったのかと考えたが、忍足がそういう事をする人間ではないと
知っているのでその可能性は無いなと考えを否定する。
吐息を零して準備室内を歩く。すると机の陰に見慣れた黒髪を目にした。
しゃがみ込んでいたから見えなかっただけだと理解する。
「忍足、居るなら返事をしろ」
眉を顰めて柳が言うが、忍足は返事をするどころか身動きひとつしない。
「忍足?」
「……あ、あー?何や、柳か、驚かさんといてや」
近づいてみれば、忍足の足元に散らばっているのはガラス片。
「どうしたんだ?」
「あー、ビーカー割ってしもうたんや」
「全く……、待っていろ、今、箒と……」
言葉は、最後まで続かなかった。
大きく目を見開いて柳が一瞬動きを失う。
忍足の右手には、割れた大きなガラス片。

 

 

左手首には、血液が滴り落ちる、大きな傷。

 

 

ぽたり、と真っ赤な滴が腕から零れて忍足の制服を濡らす。
「忍足!!」
「……え?」
きょとんとした目をして見返してくる忍足の左腕を柳が強く掴んだ。
「何をしているんだ!!」
「え、あ、何?」
「これはどうした!?」
「…………あ、れ?」
己の左の手首を指され、忍足がゆるりと視線を向ける。
その目が大きく見開かれた。
「な…何やのんコレ…ッ!?」
「それは俺が聞いているんだ!!」
「し、知らん!!俺、こんなん知らんで!?」
右手に持っていた血塗れのガラス片を取り落とし、真っ青な顔色で激しく首を振った。
「どういう事………いや、今は保健室が先だな」
ポケットからハンカチを取り出し忍足の左の手首にきつく巻きつけると、柳が忍足を促して
立ち上がらせた。
眉を顰め不可解な表情をしたままで、忍足が大人しくそれに従う。
化学室の方へ一度足を向け、割れたガラスで忍足が怪我をしたから保健室に連れて行くと
一言告げると、柳は忍足の腕を引っ張って保健室へと向かった。
保険医が忍足の血塗れの腕を見て驚き、そして傷を見て更に驚いていた。
血量に比例した傷口の度合いから、そのまま忍足は病院へ連行されてしまった。
その一連を見届けて柳が一度首を傾げると一旦化学室へと戻り、掃除の終わってしまった
静かな室内から己の鞄を持って、部室へ向かうべく足を向けた。

 

 

 

1時間後、忍足が戻ってきた。
左手首に真っ白な包帯を巻いて。

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

手始めの序章は3本立て。(笑)

やっぱりちまちま更新していくことにしました。

忍足くんの戦いの始まりです。

や、忍足だけじゃなくて、仲間達の戦いになってしまうのですが。

 

ええと、もっかいここに書いて置きますが、

「霊感少年パラレル」のページのネタをまんま引っ張ってきてますので

読んでない方はネタわかんないかもしれません。

まだと仰る方は、先にご一読下さいね(^^)