< It sacrifices a praise from the heart to all friends. >
今日の607号室は向日が不在である。
とはいえ理由は単純で、切原が新作ゲームを買ってきたというので
千石と2人、401号室に転がり込んでいるのだ。
恐らくさりげにゲームが好きな日吉と不二も集まって、今頃401号室はきっと
大騒ぎだったりするのだろう。
子守りに徹する樺地の事を思えば少し不憫な気がする。
そして、騒がしいのがいなくなって静かな607号室には、跡部の他にもう一人。
言わずと知れた、彼にとってとても大事な人。
普段みんな揃って大騒ぎしている分、こうやって2人だけで…という時間は
結構少ない。
もちろんみんなで居る時間も大事にしているから、特にそれに対して不満が
あるというわけではないのだけれど、たまにはこんな時だって必要だろう。
実は、向日が割と気遣って部屋を空けてくれているのだという事に跡部が
気がついたのは、ごく最近の話だったりする。
一応この部屋は向日の部屋でもあるのだから、そういう遠慮の仕方は
気に入らない、と言ったことがあるのだが、その時向日は
「バッカ、そんなんじゃねーよ!!」
そう言って、笑っていた。
馬鹿だけど優しいヤツだという事は判っている。
本人に言ってやったことなんて1度も無いし、これからだって言うつもりは
これっぽっちも無かったりするのだが。
思わず笑みが滲んでいたのだろう、こちらを見てきょとんとした忍足の顔が
視界に入って、なんだよ?と首を傾げれば。
「いや、なんや笑ってるから気持ち悪いなーと思って」
なんて言われてしまったので、拳骨で一発小突いておいた。
忍足は普段の温和そうな雰囲気とは違って、気を許した相手には割と失礼な事を
平気でずけずけ言ってくる。
それが冗談で言っていることであり、それだけ心を開いているんだということを
判っているから、特に苦とも思わない。
それにこう見えて、多分忍足が一番周囲に気遣っている人間だと思う。
跡部が今周囲と平滑な人間関係(某Sなだ氏(笑)は別として)を築けているのは
恐らく半分以上が忍足の手腕だったりするのだろう。
別に彼がそうしようと思ってしているわけでなく、持って生まれた性質なのだろうが。
「で、何考えてたん?」
「いやー……俺様って、意外と恵まれてんのなーって、思ってよ」
忍足が居て、向日が居て、そこから真田や千石、他の皆とも繋がって。
そう言えば少し違った風に解釈されてしまったらしく、忍足の口元から苦笑が
零れていた。
「そら跡部、お前並に色んなモン兼ね備えてるヤツなんて、そうそうおらへんで?」
顔もええし、中身もそれなりやし、ブルジョアジーやし。あ、性格はなぁ、ちょっとなぁ…
指折り数えて言いながら、余計な事まで言い出す忍足に、今度は軽く蹴りを入れて。
痛いやんか、と顔を顰めて言う忍足の肩を掴んで、己の腕の中に抱き込んで。
「馬鹿、……お前らが、居ることがだよ」
気付けよ馬鹿。そう言えば、腕の中からくすくすと笑みが聞こえてきた。
「なんやの跡部、今頃気付いたんか?」
ああそうだ、こんなこと今更だ。
自分はそう思い知らされるのだ。この、忍足侑士という男に。
それは、ある夜の小さなお話。
<終>
すごい短いですが、思いのたけを全部ブチ込んでみました!
やっぱり皆が大好きですvv