< The whereabouts of the important one. >

 

 

 

 

 

 

基本的に、跡部景吾はソレを使うことが殆ど無いと言っていい。
同室者の向日と行動を共にしている時は、暗黙の了解でそれは向日の役目だ。
自分が部屋にいる時は当然その必要は無いし、向日が部屋にいる時は
自分はソレを使わず、内から向日に開けさせる。
行動を共にしている時でなく、向日も部屋に居ない時ぐらいしか自分がソレを使う事は無い。
「……お前さぁ、ソレ持ってる意味ねーんじゃね?」
この間、インターホンを連打して内側から向日に扉を開けさせた時、とうとうそんな事を
言われてしまった。
それはそれで、尤もな事だと思う。
「ちょっと、侑士も何とか言ってやれよ!」
「あはは、しゃあないやん岳人、跡部なんやしな」
隣に立っていた忍足が笑いながら向日に言えば、納得してんじゃねー!と今度は
彼に食って掛かっている向日を視界に入れて、ああそうか、と納得した。
こうすれば、良いんだ。

 

「忍足、コレ持っとけ」

 

キーケースから、この部屋の鍵を抜き取ると、押し付けるように跡部は忍足に手渡した。
それに向日が唖然とした視線を向け、焦ったのは忍足だ。
「ちょ、ちょお、お前、何考えて……」
「こうしときゃ、俺がお前と一緒にいる限りは開けずに済むだろ?」
「ああ、うん、まぁ、そうなんなー……って、ちゃうやん!!論点はそことちゃうやん!」
「アーン?何が違うんだよ」
「跡部が素直に自分で開けたら済む話と違うんか!?」
「邪魔くせぇ」
「………。」
俺がめんどいって思うかもしれへん事は全く歯牙にもかけてもらえてへんのやろな、と
考えた末で、忍足は重く吐息を零した。
「へぇへぇ、ほんならこの鍵、預からせてもらいます」
「おう、そうしろ」
跡部の至って当然といった返答に苦笑を浮かべながら忍足は向日に頼まれて買ってきたものを
手渡すと、「ほな、また明日」と言って部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

ドアを閉めて、戸締りをして。
向日がチラリと跡部に視線を向けた。
「なぁ、跡部。お前アレって狙ってやったのかよ。それとも単にズボラ?」
「は?何の話だ」
「鍵」
「……あァ、」
訝しげに目を細めていた跡部が、向日の出した単語に合点がいったとひとつ頷く。
「別にお前も忍足なら勝手に入ってきて構わねぇだろ?」
「それは別にイイんだけど、そーゆー事聞いてんじゃなくて、」
「アーン?」
「……お前、もしかしてマジで、」

 

何も考えてないのだろうか?本気でズボラなだけなのだろうか?
そしてもしかしなくても、受け取った忍足も余り深く考えてないのだろうか…?

いや、有り得る。
この2人の反応からすれば、きっとお互い細かいところまで深く考えている筈が無い。

 

「お前、何玄関先で座り込んでんだよ」
「いやぁ〜…なんつーか、お前らホント、疲れる……」
「は?」

 

 

それから3年、彼らが高校を卒業するまで、その鍵は忍足のキーケースに居座り続けた。

 

 

 

<終>

 

 

見てる岳人が苛々するぐらい、跡部と忍足の恋愛自覚症状が出るのは遅いといいです。
知らずに会話がバカップルになってると良いです。
そして本人達はあんまり気付いてないと良いです。

 

多分時期的に、1年の初夏ぐらいかな?
「ウルワシキセカイ」より前なのは絶対だなー。