「うーん……」
カチリ、パチン。カチリ、パチン。
ノートに視線を落とし唸りを上げて、ただ柳は手にしていた3色ボールペンの先を
出したり引っ込めたりと繰り返している。
「どうした、蓮二?」
いつになく困惑したような柳の声に、不思議そうに真田が声をかけた。
カチリ、パチン。カチリ、パチン。
「実はな、弦一郎。
これ、千石と向日の現国のノートなんだが……」
言うと柳は机に広げていたノートを真田に向けた。
それはもう、ものの見事に真っ赤で。
「………ひょっとして赤文字は」
「俺の添削だ」
むしろ添削されていない場所の方が少ない。というか、丸がひとつも無い。
「蓮二、何点だ?」
「30点もやれんな」
「………今度のテストは大丈夫なのか」
「うむ、それは少し俺も不安に思っている」
乾も2人の物理のノートを見ながら、「理屈じゃない」と戦慄いていたのを知っている。
同じ部活推薦で入った真田は元々成績は悪い方では無かったのでそれほど苦になる部分は
無いのだが、どうやらこの2人は別格のようだ。
カチリ、パチン。カチリ、パチン。
さっきからボールペンの先を出したり引っ込めたりを繰り返しているのは、やはり柳も
多少はストレスを感じているからなのだろう。
2人の余りの成績の悪さに。
「……蓮二、ほどほどにな」
「解っている。だが、これはほどほどでどうにかなるレベルじゃない」
「というと?」
「添削している俺も、ポイントをどこまで書いて良いのか解らないぐらいだ」
フゥ、と陰鬱な吐息を零して、とうとう柳は机に突っ伏した。
カチリ、パチン。カチリ、パチン。
手はまだボールペンを弄ることをやめない。
いい加減耳障りになってきたそれを真田が取り上げると、柳がゆっくり身体を起こした。
「もう一つ、困った事があるんだ」
「どうした?」
くるりと指の上でボールペンを回しながら真田が訊ねる。
「赤が切れた」
だから添削しようにも、これ以上できないんだ。
そう言う柳に、思わず真田の口元から苦笑が零れ出た。
<終>
千石と向日のカテキョは柳と乾。
主に文系が柳の担当で、理数系が乾の担当。
現国の読解問題はそれこそ理屈じゃない解答のようで、
柳先生はいつも頭を抱えているらしいです。(笑)