< Therefore, we are here. >

 

 

 

 

 

今日はこの間行われた受験の合格発表の日だ。
この日は外部からの人でごった返すため、全ての部活動はオフとなっている。
そうなればやる事など決まりきっている。日頃の疲れを癒すために昼まで惰眠を貪るのだ。
……いい若いモンが、とは言うなかれ。
そんなわけで午前10時、607号室の住人はまだ2人とも夢の中。
そこへ忍び寄る、1つの影。
預かっている(と本人は思っている)鍵で難なく中へと侵入し、寝入る跡部の耳元へ、
持っていたクラッカーを近づけた。
「…せぇの、」

 

パァン!!

 

「うわ、何だっ!?」
ガバッと勢いよく布団を跳ね上げて跡部は飛び起きると、じんじんと響く鼓膜を
押さえつけるように、右手で右耳を覆った。
ふと気付けば目の前に、やたらにこにことした笑みを浮かべる忍足の姿。
手に使用済みのクラッカーを握っているあたり、犯人だと丸解りだ。
「…………ブッ殺すぞ、テメェ……」
「嫌やわぁ跡部、そんな恐い顔で睨まんとってぇや」
「うるせぇ、何の用だ」
「ちょお、学校行かん?」
「………はァ?」
思い切り眉を顰めて、心底嫌そうな表情を示す。
快眠を邪魔するだけじゃ飽き足らず、更に引き摺りまわそうってのか俺様を。
「何があんのか知らねーが、テメェが一人で勝手に行けよ。俺はまだ眠いんだ」
言って布団を頭まですっぽり被ってしまうと、今度は勢い良くそれを引っぺがされた。
「あーとべ、そんなツレない事言わんと、な?」
「本気で犯すぞテメェ!!」
心底憎いといった視線で睨みつける。
だがまだこの寒い時期、布団無しで眠れる筈が無い。
仕方無しに跡部はしぶしぶ起き上がった。
寝乱れた髪を手ぐしで直しながら、大きな欠伸をひとつ。
「……で、何だっつーんだ?」
「せやから、ガッコ行こ、な?」
やたら笑顔満面で忍足は言う。いやに上機嫌で、それがひたすら怪しい。
「確か今日は部活も休みじゃねぇか。何しに行くってんだよ」
「…あっ!そぉか、ほなコートもテキトーに使えるやんか!!
 跡部今ええコト言った、そうしよう!!」
「ちょっと待て。そこで勝手に一人で納得してんじゃねぇ」
「ほら跡部」
「お前な…」
勝手にクローゼットを開けると、ぽいぽいと適当に服を見繕って跡部に投げていく。
ついでに隣のクローゼットも開けて、向日の服も放り投げる。
それを呆れたように眺めつつ、全ての問いを放棄して跡部は立ち上がった。
要はこの忍足のワガママに付き合ってやれば良いのだろう。
「ったく…こないだまで休みとなったら居なくなってたクセに、勝手な奴」
それも今更か、とすぐに思い直したけれど。

 

その後、向日を叩き起こすのに更に30分ほどを要した。

 

 

 

 

 

 

「……うげっ、すんげー人の数……」
学校までの道を歩きながら、向日は辟易したように吐息を零した。
合格発表の日とあって、受験生が皆集まるのだからそれも仕方の無い話である。
県外からの受験生には合格通知が郵送されるのだが、やはりその瞬間を味わいたいがために
わざわざ足を運んでくる生徒も少なくないらしい。
岳人はラケットを入れたバックを振り回して、忍足にボコッとぶつけた。
「いたっ!痛いやんか岳人、何すんねん」
「わざわざこんな人だかりの中でテニスしたいがために、俺らを叩き起こしたわけ?」
「んー?テニスは突然の思いつきや。ほんまはちょお、ちゃうねんけどな」
「何しに行くんだよ?」
「ふふー、もうちょい待ってなー」
言いながら、忍足は携帯をポケットから取り出すと誰かに連絡を取り出した。
「あ、俺や俺や。今ドコに居るん?
 ………ああ、そうなんや。……そうそう。
 うん、これから行くし、コートで待っとって」
そう告げると忍足は通話を切る。
「真田か?」
「ブブー、ハズレや」
「んじゃあ、柳?」
「いーえ、ちゃいます〜」
「……乾?」
「ハズレ」
「じゃ、手塚だ」
「残念でした」
「千石?」
「なんでやねん」
「「……………!?」」
思い当たるフシは全てハズレらしい。
ならば一体誰が?
「おい忍足、いい加減に…」
「アカンで?自分らがその目で見るまで、俺は何も教えへんしな?」
「ケチ!!」
「ケチで結構。ほら、待っとるし、早よ行こうや」
ケチ!ドケチ!関西人!と文句を言いまくる向日の背を、関西人ってそれ悪口なんか?と
苦笑を浮かべながら忍足が押していく。
早足で、できるだけ急いで。
そこで待ってるから。2人に会うために頑張った彼らが。
急いで、急いで。

 

 

 

 

 

 

校舎の裏にあるテニスコートの方まで来れば流石に人気は殆どなく、合格者を貼り出した
掲示板を見て上がる歓声や悲鳴が遠く聞こえてくるだけだ。
その入り口に、彼らが居た。
「…………お前ら…?」
「ウッソだろ……?」

樺地崇弘と日吉若。

2人とも、手に合格通知の入った桃色の封筒を手にしている。
呆然と佇む跡部と向日の後ろで忍足がヒラヒラと手を振ると、樺地と日吉が揃って
ペコリと頭を下げた。
「ちょ…、侑士ッ!?」
「はいはい、どうしたん岳人?」
「な…、何でココにヒヨと樺地が居るんだよ!!」
「何でて……ココ受けたからに決まっとるやん。
 今度から、また後輩やで?」
「お前、まさか暫く行方くらましてたやがったのは…」
「家庭教師デース」
「そうか、…………そうだったのか」
くつくつと笑みを零しながら、跡部が忍足の髪に手を伸ばす。
感情の向くままにその黒髪をくしゃくしゃに掻き混ぜると、何すんねん!と抗議の声が上がった。
文句を言われても、止めてやるつもりは無かったけれど。

 

 

 

 

「ヒヨ!お前なんで…!!」
「アンタまだそんな呼び方するんですか」
「いいじゃんか呼び易いし!お前の方が慣れりゃイイだろ!?」
「嫌ですよ」
「じゃ、ピヨ」
「もっと嫌です」
苦虫を噛み潰したような表情で言う日吉に、向日の顔から笑顔が零れる。
それを眺めて、なんとなく感じた。
「ああ、やっぱり」
「……何だよ」
「いえ、やっぱり向日さんが見えるところに居ると落ち着くなぁ、と」
「何ソレ、ワケわかんねぇし」
「俺もよくわからないんですけど」
ポリポリと頬を掻きながら日吉が言うと、変な奴、と呟いて向日がまた、笑った。

 

 

 

 

「………来たか、樺地」
「ウス」
クイと顎を持ち上げて、跡部がうっすらと口元に笑みを浮かべる。
正直、此処まで付いてくるとは思わなかった。
1年の差はあれど幼稚舎から共に育ってきた樺地を置いて氷帝から出てきてしまったのは、
単なる自分の我儘だった。
それは自身で理解していたから、自分と彼の関係は中学までだと思っていたのに。
「宜しく………お願い、します」
ペコリと頭を下げる樺地に満足そうに笑むと、跡部が日吉に視線を向けた。
「お前ら、俺らが居ない間もちゃんと腕磨いてきたんだろうな、アーン?」
「…ウス」
「当然でしょう」
「フッ……面白ぇ、俺様が遊んでやるよ」
言うと、コートへと続くフェンス戸を開け、跡部がパチンと指を鳴らした。
「行くぜ、樺地」
「ウス」
跡部の3歩後ろで彼のテニスバックを担ぐと、続いて樺地も歩き出す。
こうなるともう、場所は違えど見慣れた光景だ。
懐かしい目でそれを眺めていた忍足と向日が顔を見合わせ、それから指差して声を殺して
笑い合った。

 

 

 

 

頑張って通って教えた甲斐があり見事2人が合格したという事実は、忍足にも十二分に充実感を
与えてくれていた。素直に嬉しいと思った。
彼らが追いかけてきてくれたこと、そして跡部と向日が本当に嬉しそうに笑ってくれたこと。

 

 

大事な親友達がその場所で見せた表情を、きっと自分は一生忘れないと思う。

 

 

 

<終>

 

 

そんでココからまた裕太や赤也との出会いもあったりで、
なんかもうどこまで広がるんでしょうねこのパラレルは。(笑)

 

次回・「赤也&裕太、帝王跡部の本質を知る。」

 

…は、また今度のネタです。(笑)
べっさんってほんまネタにしやすいわ……。