<The identity of these feelings?>

 

 

 

 

 

「…しっかし、ほんまに何て言うか…意外やなぁ」
辞書を片手に日吉の解答が書かれたノートを見ていた忍足が、ぽつりとそんな言葉を吐く。
それに僅かに首を傾けて日吉が忍足に視線を向けた。
「何がですか?」
「お前の動機」
「は…?」
意味が解らず間の抜けた返事を返して、眉を顰める。
突然この眼鏡は何を言い出すのかと。
「樺地はまだ解んねん」
「…はぁ、」
「跡部がそこに居るからやろ?」
「そうですね」
「……ウス」
それには2人とも頷いた。これは紛れも無い事実。だって。
「居らんと生きてかれへんもんなぁ」
「ウス」
「……樺地がですか?」
「跡部がやて」
割と跡部も一人しか居なければ何でもこなす方ではあるが、やはり樺地が居るのと
居ないのとでは大きく違う。
自分達の高校入学当時は、よく当たり前のように後ろを振り返って、そして居ない事に気がついて
小さく舌打ちを漏らしている姿を何度も見かけた。
「それでもよォ頑張っとると思うけど…まぁ、保って1年やな」
それは学年の違いの分だけ。自分に追いついてくる時間だけは、待っていられる。
「せやし、頑張って来てやってな」
その方がコキ使われてる自分達もラクになるし、という言葉は伏せておいて忍足は
にこりと笑みを浮かべる。
それに樺地も静かに頷いて応えてみせた。
だから解らないのは、むしろ日吉。
「…そこまでして強うなりたいワケやったん?」
「それも理由のひとつですけど……」
「じゃあ、他にも何かあるんやな?」
「まぁ……」
「ほんで、何でなん?」
あくまで単刀直入に訊いてくる忍足に、日吉は内心で小さく舌打ちを漏らしていた。
何となく、言えばからかわれそうな気がして。
「…………。」
「黙るのは感心せぇへんなぁ」
「……笑いませんか?」
「内容によるけど…まぁ、ここは約束しといたろか」
「……会いたい人が、そこに居るんです」
「会いたい人?」
「やっぱり近くに居てくれないと、何だか落ち着かないもので」
「ふぅ…ん?」
という事は、元氷帝の人間という事になる。だが氷帝から自分と共に入学したのは
跡部と向日だけだ。
どちらか、になるのだろうか。
「跡部…っちゅうわけじゃあ無さそうやな」
「勘弁して下さいよ。確かに越えたい人ではありますけど、あんな人近くに置いて
 落ち着くわけないじゃないですか」
本人が居ないからといって酷い言い草じゃないかと思ってしまったが、まぁ聞いていたのが
自分と樺地だけだから良いだろう。
くるり、と右手に持ったシャーペンを回しながら、忍足がうーんと唸る。
この状況からすると、恐らく自分では無いだろう。無い筈だ。だが念の為に訊いておく。
「……俺とちゃうやんなぁ?」
「違うに決まってるじゃありませんか」
即答されて、それはそれで傷付くなぁと忍足は額を机に乗せて肩を落とした。
だがそうなると、残るのはたった一人だ。
クルクルと表情の変わる、赤いおかっぱ頭の、可愛い親友。
その親友と、そして今机を挟んで向かいに座っている日吉という男とが、余りにも
結びつかなくて頭の中が混乱する。
少なくとも、今まで向日の口から日吉の話を聞いたことは、ほとんどといって良いほど無い。
話題の数なら鳳の事の方がずっと多かった。
「お前ら……あんまり一緒に居ったところ、見たこと無いねんけど」
「そうですね」
「ほな、なんで……?」
「なんで、と言われても……」
顎に手を当て悩むように日吉は目を閉じる。
なんだこれは。忍足は不思議なものでも見るような目で日吉に視線を送っていた。
会いたい人が居るからと言ったではないか。
それが向日なのだと、認めたではないか。
それって、つまり、そういう事…では、無いのだろうか?
だが、それを【そう】なのだと実感する程の想いも、日吉からは伝わってこない。
「先輩達が引退されてから1年、テニスをずっとしてきて……ずっと、何か物足りなさを
 感じていたんですよ。でも、それが何なのか解らなくて……単に自分より強い相手が
 いなくなってしまったからなのだろうかって思ったりもしたんですけどね、」
「そんで?」
「それで……最後の大会の時に、3人で来て下さったじゃないですか。
 跡部先輩と忍足先輩と、向日先輩とで。」
「せやったなぁ」
「その時に、気が付いたんです。ああ、だから物足りなかったんだって」
「……そんなもん、なん?」
しきりに首を傾げて忍足が不思議そうに言うのに、思わず日吉は苦笑を零していた。
よく解らなくて当然だろう。正直、自分でもまだよく解っていないというのに。
「まぁ、そうは言っても全く接点が無かったわけじゃあ、無いんですけどね」
「……え?」
「よく、向日先輩と一緒に貴方を捜し回ってましたから」
「うわっ」
しまったとノートで顔を覆い隠して忍足が小さく声を上げた。
そうだ、アイツら以外の奴らには、自分の事は【サボり魔】と称されていたのだった。
「いつも必死になって忍足先輩を捜してましたよ、あの人」
「あーうー、まー、うん。そんな事もあったなぁ、なんてなー…」
「あの人、いつも一生懸命なんですよ」
「あ、それ何か解るわー。一生懸命っていうか、必死っていうか」
「そうそう、それでどうしてそんなに懸命になるんだろうって見てたら…」

 

いつの間にか、目が離せなくなってしまったんです。

 

添削の終わったノートを受け取りながらそう呟いて、日吉が忍足に視線を向けた。
「だから、もうちょっと知ってみたくなりました」
「何を」
「自分の気持ちを、です」
「……そぉか」
机に片肘をつくと、忍足はにこりと微笑んだ。
やはり、彼はどこか以前と違うような気がする。
だから知りたくなってしまった。
目の前に居る後輩と自分の親友の辿り着く先を。
「ほな、3人でアイツら驚かせたろ。頑張ろな」
はい勉強勉強、と言いながら忍足は問題集を手に取る。
賑やかになるだろう高校生活に、ほんの少し胸が踊った。

 

 

 

<もう1本続くんです〜…/汗>

 

 

 

あわわ。終わりませんでした、ていうか終われませんでしたというか。
カテキョおっし再び。(笑)
跡部と岳人の驚く顔が見たいわけです、この人達は。(笑)

そしてこの話は 14.語りきれない気持ち に続きます〜(^^)
今度は後輩全員出せそうです。裕太と赤也もね。
そういえばまだ赤也1度も出してないや〜…。(汗)