忍足に「好きだ」と言ってしまった。
告げるつもりなんか、本当は無かったのに。
<Of the Child as me>
「俺、お前が侑士のコトそんな風に見てたなんて全然気付かなかったぜー。
なぁなぁ、一体いつからそう思ってたワケ??」
向日の言葉に、一瞬きょとんとした目を向けてしまったかもしれない。
考えた事も無かったからだ。
少しだけ考えて…否、思い出そうとして、
「……解らねぇ」
ぽつりと渋い表情のままで跡部がそう口に出した。
「わ、解んねぇって……何だよそれ、普通はあるモンなんじゃねーの?
何つーか、ほら、好きになったきっかけみてーなモンってさ」
「きっかけってもよ……」
ベッドに転がって、うーんと小さく唸りを上げる。
とんと思い当たらないのが現状だ。
「じゃあ、何で侑士が「好き」なんだ!?」
最後には向日に呆れられたぐらいだ。
きっかけなんか無くたって、育つ想いはあるんだ。
乾がテニスを捨てると言った時に、間違いなく柳は怯えていた。
柳だけじゃない、皆が不安に思っていた。
彼がそこから抜ける事によって、歩いていた道が離れてしまうのではないかという事に。
以前の跡部自身ならば、特にそれをどうとも思わないだろう。
煩わしい連帯感がそう思わせているだけだと、そう思っただろう。
あの時、エントランスホールで見た光景を、思う。
もしもあれが乾でなく忍足だったなら、自分はそれを許しただろうか?
一人群れから離れていく事を、認めただろうか?
否、そうじゃないから、今ここに自分が居るのだ。
手離したくなかったから、此処に居るのだ。
「……きっかけなんて、どうだって良いじゃねぇかよ」
「跡部?」
「少なくとも、今の俺がアイツを大事にしてぇって思ってんだ。
それで良いんじゃねーの?」
「わー、お前らしいー。
って…それだけじゃないクセによ」
「それだけじゃねーっつーと……」
「ん?」
「抱きてぇとかヤりてぇとか、そういう……」
「やっぱり本音かよそれが!!!
ちくしょー!!跡部の魔の手から俺が侑士を守るー!!」
「うおッ!?やる気かテメェ!!」
言うなり恐れ多くも跡部にドロップキックをかました向日に跡部も応戦して、
ドスンバタンとプロレスが開始された。
それももう2人にとっては当たり前で、それを諌める忍足が入って、それは日常になる。
今でも覚えているのは、自分と向日が彼の一番近いところに立った、その時の。
ほんの少し遠慮がちに表された、はにかんだような笑み。
もしも、居なくなったのが、アイツだったら。
そう考えた時に、間違いなく自分はそれを恐れた。
子供の我儘と同じレベルで、自分の傍に居るのは彼でないと嫌だと思ってしまったのだ。
ああ、そうだ。
忍足侑士という人間でないと、嫌だと思ってしまったのだ。
「岳人、」
「何だよー」
「忍足は、俺が貰うぜ?」
「侑士がそれを認めたらなー、って、なんでそれを俺に言うんだよ」
「さぁ……なんでだろうな、」
「それともう一つ、」
「アーン?」
「俺にヘッドロックかましながら言うセリフじゃねーだろそれ……!!!」
ああ、それもそうだよな。
言って跡部が腕を緩めるとそこから逃げ出すようにして、向日がくるりと振り返った。
「お前は自分の気持ちを言っちまった。
後はぜーんぶ、侑士次第だってコトだよな?
俺は……それを全部、見届けてやるよ。
侑士が受け入れりゃ、オメデトウのひとつでも言ってやるし、
ゴメンナサイって言われりゃ、お前のコト指差して笑ってやるよ。
それで良いんだろ?」
いちいち訊いてくんじゃねーよ、跡部らしくねぇ。
目を細め岳人が笑んで言えば、つられるように跡部の顔にも苦笑が浮かぶ。
「ま、断られた方が、オチとしては面白いんだけどなー」
ずっと2人を見てきたから、向日は知っている。
多分、そんなオチにはならないことを。
縁起でもないコト言うんじゃねぇよ、と苦々しく呟いた跡部は、
向日の脳天に拳を一発見舞っておいた。
<終>
うう〜ん…消化不良だ……。
この跡部はあの忍足の何を見てイイと思ったんだろうなぁ…。
上手いこと表せなくてごめんなさいー。(汗)
本当はもうちょっとあるんだけど、今は出し惜しみ。
跡部と忍足の結論は、霊感少年パラレルの続編で。
それまで忍足にはせいぜいグズグズしてもらっとくコトにします。
とりあえず岳人は傍観者で。
だから跡部ともそれなりに仲良くやってます。(笑)
時々ふいに何の前触れもなく跡部から恋愛相談まがいの話をされてビビってます。
だけどそんな風に悩む跡部も、跡部らしくないんだけど、でも何だかイイかんじ。
そんな風に考えながら相談に乗ってあげてます。
岳人もイイ奴なんです。(^^)