<とりかえっこプリーズ!>

 

 

 

 

 

問題点その1 : 真田が岳人で岳人が真田、これってどういうコトですか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何度目の吐息か解らないが、とりあえず今は嘆息を零すことしかできなくて、
真田は腕組みをしてその光景を眺めた。
本日の授業は全て終了して、今はHRの前の掃除の時間である。
自分の担当はこの教室内の清掃。
それには当然ながら数人のクラスメイトも共だ。
そしてその中には、同じくクラスメイトで尚且つ同じテニス部でもある向日岳人が居た。
悩みの種は当然彼のコトである。
「ヘッ!チョロイぜ!!」
「待て向日!!」
何をどうしてそうなったのかは知らないし知りたくも無かったが、とにかく今、
向日は数人のクラスメイトと教室中を走り回っていた。
恐らく何かを取り合っていて、奪って逃げ出した向日を他の同級生が追いかけているのだろうとは
今まで見ていた分だけでも充分推測できるのだが、真偽の程は真田にとってはどうでも良い。
問題は、一向に掃除が進まない、という事だ。
もちろん自分のように真面目に掃除をしている者もいるので、正直この状況は迷惑以外の何者でもない。
「おい、こら向日!いい加減にしないか!!」
「いやいやいや無理だって!!今足止めたら捕まっちまうだろ!!」
ガタガタと机の間を縫って向日はありえないスピードで教室内を行ったり来たり。
それでも廊下に出ないところは流石だと言うべきか。

……褒めている場合ではない。

「全く……」
もう幾度も繰り返したため息をもう一度落とすと、気を取り直して真田は机を運び始める。
後は机を元のように並べて、ゴミを捨てに行けば終了だ。
教科書等が入ったままの机はそれなりに重く、どちらかといえば男手の方が必要だというのに、
全くこのクラスメイト達はものの役にも立ちはしない。
たるんどる、と呟きながら机を持ってゆっくりと運ぶ。
机の上に逆さにして置いてある椅子も同時に運ぶのは、こう見えて結構コツが要るのだ。
自然と手元に神経が集中する。
だから、気付かなかったのだと先に弁明しておこう。

 

「危ねー!!真田ッ!!!」

 

何が、とそっちに首を向けたのも間違いだったかもしれない。
目の前に赤いおかっぱがあって、同時に腹というかむしろ全身に衝撃が走って、
ついでにそのまま後ろによろけたらその場所には机と椅子が。

 

 

ガラガタドガシャン!!

 

 

机と椅子もろとも2人揃って盛大にひっくり返る。
その時丁度机の角で真田が後頭部を、そのままの勢いで額を向日の額が殴打する。
実際それは「痛い」の一言で説明するには何か物足りない程の衝撃だった。
「あーあーあー、大丈夫かよお前ら…」
心配そうに近寄ってくるクラスメイトに、大丈夫だと緩く手を上げながら真田と向日が身じろぎする。
「………全く、だから教室内では暴れるなと言ったんだ、馬鹿者が!」
頭を左右に振って衝撃を散らし、赤い髪を整えながら向日が言う。
「くそくそ真田!!お前がこんなトコに立ってんのが悪ぃんじゃんかよ!!」
打った後頭部を擦りながら、半分涙目になって真田が反論する。
そこでハタ、と2人の動きが止まった。
いや、硬直した、が正しいだろう。
「………なんで、俺がそこに居んの?」
「どうして目の前に俺の姿がある?」
恐る恐る、真田が手を髪の毛に這わせる。
長い。おかっぱなので肩につくかつかないかの微妙な長さだが、
本来の自分の髪型ではありえないぐらい長い。
向日も痛む腰を擦りながら立ち上がった。
高い、と正直に驚いて目を見開く。
そもそも真田と向日は結構な身長差があるので、その違いはすぐにわかる。
念の為に、傍に居たクラスメイトに訊いてみた。
「………俺さぁ、もしかして真田?」
「どう見ても真田だよな」
「まさか……俺は向日だとでも言うのか?」
「向日だとしか言えないな」

 

ブラックアウト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念の為に保健室に行ってはみたが、結局は打ったところを冷やすための氷を
貰えただけで、すぐに追い出されてしまった。
中身が入れ替わってしまったコトについては、

「あら、それ新しい遊び?」

という一言で流されてしまい、どうにもこうにもどうにもならない状況で。
HRも終わって次は楽しい楽しい部活だと言うのに、全くもって気が重い。
「なぁ……やっぱこのまま部活出んのかよ?」
帽子の唾を弄りながら、真田の姿のままで言うのは向日。
「こうなってしまったものはしょうがない。
 部活をサボるコトだけは許さんぞ、向日」
仁王立ちをして腕まで組んで、偉そうにふんぞり返ったままで向日が言うが、
実際中身は真田弦一郎である。
それにしぶしぶ唇を尖らせてテニスバッグを抱える姿は、本来向日の容貌だから
許されるコトなのであって、実際真田の姿でそんなコトをされると気持ち悪い以外の何者でもない。
「向日、もう少しシャキっとせんか!」
「できるわけねーだろ、こんな状況で!」
「来い!テニスで気合いを入れてやる!!」
「うわー!!いらねー!いらねーから離せーー!!」
強く引っ張りながら赤いおかっぱを揺らせて歩く向日に、喚きながらぴょんぴょん飛び跳ねる真田。
姿形が入れ替わっているので、その状況の不気味さは各自のご想像にお任せする事にしよう。

 

 

こうして真田弦一郎と向日岳人の受難の日々は幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

ええ続くんです。(爽やかに笑み)
真田と岳人は不幸であればあるほど愛しさが増してきます。(酷)

今回はできるだけ手短に仕上げられたらなぁ、と思うのですが。
できれば10話↓で収めるのが目標。(笑)

 

今回は自分なりのギャグを追い求めていこうかなぁと思います。
笑いのツボは人それぞれなので、ちょっぴし不安なのですが、
私らしい話を書ければ良いなぁと。