忍足くんといっしょ。

 

 

 

 

 

た ・ 大したもんやなぁ

 

ち ・ ちゃうって、こうするんや (&手塚、乾)



難しい表情のまま、手塚が首元で手を黙々と動かしている。
それを見守っているのは乾。
だが、その隣には。
「っだーー!!なんでそうなんねん!!」
鬼より怖い教官が。
「…違うのか」
「違うっ!!だからそこで指離したらおかしくなんねんて!!」
「離したつもりは」
「お前に無くても離れてんのやっ!」
「む……」
普段より眉間の皺が数段増えている。
が、それでも。
「……こう、か?」
「ちゃうって、こうするんや!!」
忍足が手塚の手元から問題のものを奪い取って、手早く結ぶ。
それはもう慣れたもので。
「こう!!そんで、こう!!」
「………速すぎてよくわからんな」
「充分ゆっくりやったってるやろ!!」
それを解いて、再び手塚に押し付ける。
見様見真似で挑戦するが、それはやはり形が崩れておかしいものになってしまう。
「あ……あかん……理屈やない……」
「俺の台詞取らないでくれよ」
「乾!!どうなってんのやコイツ!!」
それまで静かに眺めていた乾に、忍足がとうとう泣きついた。
「まぁ、俺達ずっと学ランだったからね。
 結んだこと、多分一度も無いんだと思うよ。
 そうなんだろ、手塚?」
「……一度も無くて悪かったな」
「でも、まぁ、ここまで不器用だとは思わなかったけどね」
乾は2度ほど忍足に手ほどきを受けたら、上手に結べるようになったというのに。



「……不器用にもホドがあるやろ……」



忍足の泣きそうな呟きに、乾がアハハと軽い笑いを上げた。



<終>

※この高校はどうやらブレザーにネクタイらしい。

 

つ ・ ついてへん・・・金落としてもうた・・・ (&ALL)



朝っぱらから忍足のテンションは低迷を極め、ブルーを通り越していっそ真っ黒。
それもこれも、原因はひとつ。
「ついてへん・・・金落としてもうた・・・」
頭を抱えて項垂れる。
朝と夜は寮で食事が出るが、さすがに昼までは出てこない。
昼は学校の食堂で、もしくは購買でゲットするしか無いというのに。
普段から余りお金は使わない方なので、もちろん銀行から下ろせばあるのだが、
唐突な話で今はそんな事をしに行っている時間が無い。
部活が終わってから行くとして、さしあたって本日の昼食をどうするか。
これでも高校男子、しかも部活は運動部、昼食抜きでは生きていけない。
そんなわけで。





「岳人ーーー!!金貸してくれーーー!!!」
「ヤだ。俺もう今月ピンチなんだよ」
「アホー!遊んでばっかいるからやろー!!
 親友のピンチなんやで!?」
「無いモンは出せねーってばよ。諦めて今日は餓えてろよ」


岳人には一蹴され。




「跡部ー昼飯奢ってぇなー」
「アーン?お前、財布忘れたのかよ」
「ちゃうねん。落としてん」
「うっわ、馬鹿じゃねーの…?」
「関西人にバカとか言わんといてーや」
「あっはっは、テメェの不注意じゃあ自業自得だな。
 ま、たまにはひもじい思いすんのも悪くねぇんじゃねーの?」


跡部はこういう時、結構冷たかったりする。




「なぁ真田ー…」
「断る」
「ちょお、俺まだ何も言っとらへんやないか」
「大体予想がつくな。
 お前がそういう風に俺に声をかけてくる時は、
 大概ロクでもない事を言う時だ」
「う……じゃあええわ、柳に言うし」
「断られる覚悟があるなら言われても構わないが?」
「………きついな、蓮二」
「酷すぎるわ、柳ー……」


頼む前に断られるのもどうかと思ってみる。




「神様仏様手塚様!!!」
「神や仏と同列にされてるじゃないか、手塚」
「大袈裟な」
「いやもうホンマ、頼れるのはもうココしか残ってへんのや。
 後生やし助けたってや〜」
「………仕方ないな」
「甘やかすのはどうかと思うんだけどな」
「乾?」
「だって、盗られたわけでもスられたワケでもなし、
 財布を無くしたのは忍足の不注意だろう?
 そこで仕方ないと貸してやっては、反省する機会も失ってしまう」
「う…っ、ヤなトコ突くやんなぁ、乾……」
「事実だよ、忍足。
 それに、一食ぐらい抜いたところで死にはしないって。大丈夫!」
「イヤそこでグッと親指立てられても困るねんけど……。
 ちょお、手塚も何か言ったってや」
「乾が言うから間違いないだろう」
「………お前に訊いた俺が悪かったわ」





そうなると、残るは一人。
千石だけが頼りなのだが、教室を見回してみるが彼の姿は見えない。
「……どこ行きよってん……」
千石にまで見捨てられては、本気で昼食は諦めるしか無い。
トホホと重苦しいため息を吐いて教室へ戻ろうとした時。
「あっ、忍足見〜つけたっ!!」
後ろから聞き慣れた声がして、本気で飛び上がるぐらい驚いた。
「な、なんや、千石かいな。ビックリするわー…」
「もう、散々捜したんだぞー。何処行っても見つからないし」
「千石が俺に用なんか?何、どしたん?」
「じゃーん、コレ、なーんだっ?」
ひょいと目の前に差し出されたのは。
「あああああ!!俺の財布やんか!!」
「あ、やっぱ忍足のだったんだ。偶然拾っちゃってラッキーとか思ったんだけどね、
 どっかで見たことある財布だなーって、ずっと考えててさ。
 そういえば忍足の財布ってこんなんじゃなかったかなって思って」
それでずっと捜してたんだよね、と言って千石はにこりと笑みを見せる。
まさかどこぞで生き別れになった財布と再び巡り合えるとは思ってもみず、
忍足が思わず目を潤ませた。
「うわあうわあ!ほんまどうしよって思っててん!!千石のラッキーに感謝やわ、
 ほんまにおおきにな!!」
そう感謝の言葉を口にして、千石の持つ自分の財布に手を伸ばそうとして。



それが、ヒョイと逃げ出した。



「……千石?」
「ダメだよ忍足、ちゃんとお礼はしてもらわなきゃ。
 拾ってくれた人には、1割だったっけ?」
「うわー、足元見やがってー……」
「うん、1割は余りにもカワイソウだから、今日の昼飯奢りで手を打とう」
財布をチラつかせて言う千石に、諦めたような吐息を零して忍足が頷いた。



<終>

※忍足の財布は、余り使わないくせに結構入っている。

 

て ・ デートせぇへんか?今から (&跡部)



2月14日。
大人気の彼は、朝からチョコにまみれている。
「……まだ学校にも着いてへんやろが」
「俺様のせいだっつーのか、あァ?」
両手に抱えきれないほどのチョコを抱えて、今朝も元気に登校中。
ちなみに忍足もいくつか受け取ったが、無論跡部様の比ではない。
「あーそうや、ええモンやろか」
「あン?」
鞄から畳まれた紙袋を引っ張り出すと、広げて跡部の前に差し出す。
「何だ?」
「ホンマはロッカーに入れっぱなしになっとる本を持って帰ろて思とったんやけど、
 今日じゃ無くてもええし、お前多分このままやったら教室まで辿り着けへんやろ」
「おう」
言われて素直に跡部は袋にチョコを放り込んだ。
それから校門を潜るまでに、跡部は12個、忍足は5個。
まだ忍足は鞄の中に突っ込める量だが、跡部はそろそろ紙袋もヤバそうだ。
下駄箱の前に立ち、正直跡部は辟易していた。
いや、そう来るだろうというパターンは予測済だったし、計算の内だったが。
「………スゴ。」
思わず漏れた忍足の言葉は、そのまま自分の言葉にして良いだろう。
下駄箱を開けた瞬間、チョコの雪崩が起こった。
「うぜェ……」
「そんなコト言うたらアカン。
 心篭ってんのやし、受け取ったらなバチ当たんで」
「ンなコト言っても」
「当分菓子には困らんやん」
生チョコ以外なら割と日持ちするやろしな、と忍足が笑う。
ちなみに彼の下駄箱の中にも数個入ってはいたが、無論跡部様の比ではない。
「何だそりゃ、当分俺はチョコしか食えねェってのか…?
 こんなにいらねェよ、実際」
「ご愁傷さん。虫歯には気ィつけや」
「そういう問題じゃなくてよ」
「何やのん」
「俺様が受け取るのは、本命だけで良いんだよ」
「………へェ?」
まさかこの跡部にそんな考えがあったとは思いも寄らず、忍足は驚きの声を上げる。
「なァ」
「だから、何やのん」
「テメェからのはねーのかよ?」
「………は?」
「というよりは、実際のところお前から貰えたらこんなモン捨てちまっても
 構わねーんだがな」
それは余りにも酷すぎるだろう。
思わず眉を顰めてみせても、跡部は一向に気にした様子も無く。
ただ視線だけで訴えてくる。
「跡部…………お前な、」
「何だよ」
「俺に、女の子で賑わうあの恐ろしい場所に踏み込めって言うんかいな?」
「そうなるな」
「冗談やないで。俺は嫌や」
きっぱりすっぱり切り捨てて忍足は下駄箱をバンと閉めた。
鞄にチョコを放り込む。
が、靴は表に出たままだ。
「ほな、こうしよか」
「何が」
「デートせぇへんか?今から」
「………は?」
「せやし、それで手ェ打たへんかって聞いてんねん」
怪訝そうな表情の跡部をそのままに、忍足はもう一度履いてきた靴に足を突っ込む。
よいしょ、とチョコが詰まった鞄を背負いなおして、未だ不審げに見てくる跡部を一瞥して。
「……嫌やったらええねんけどな。
 なんやもー、一日チョコ攻めってのもウンザリやし、とにかく今日は
 サボろうか思て。付き合わへん?」
その言葉に、跡部が口元に笑みを乗せた。



<終>

※季節ネタ。忍足はサボリ魔。

 

と ・ とっくに気付いとるし、そんなん