忍足くんといっしょ。

 

 

 

 

 

な ・ 何やってんねん、危なっかしい・・・

 

に ・ 偽モンやな、これは

 

ぬ ・ 縫いモンは苦手やねんって (&真田)



ぶすり。
「ぃだっ!!」
ぶすり。
「ぎゃあっ!!」
ぶすり。
「ぐあっ!!」


「お前は釦のひとつもまともに縫えんのかっ!?」


一刺し毎に上がる呻きに、とうとう真田がキレた。
「しゃーないやんか!!縫いモンは苦手やねんって!」
「未来を背負って立つ若者がそんな事でどうする!!」
「お前は一体いくつのオッサンやねん」
ビシリとツッコミを入れて、忍足が深々とため息を吐いた。
「誰にだって苦手なもののひとつやふたつやみっつやよっつ…」
「多いぞ」
「ちょお、つっこまんといてェや。
 ツッコミは俺の専売特許やで?」
「偉そうに言うな。釦のひとつも縫えない男が」
「うわ、なんかハラ立つなぁ。ほな真田は完璧なんやな?」
「当たり前だ。その程度、できなくてどうする」
「ほーぉ」
言うと忍足は先刻まで自分が必死で縫っていた釦の糸をぶちりと千切る。
そして針と糸とシャツと釦ととにかく一式を真田に差し出した。
「ほなやってみせてェな。手本や手本。楽勝なんやろ?」
「良いだろう」
ふんぞり返って頷くと、真田は器用な手つきで針に糸を通す。



ちくちくちく。



ぶち、と歯で糸を切って、真田は忍足にシャツを投げつけた。
「どうだ文句はあるまい」
「うわーホンマや、完璧や!!さすが皇帝・真田弦一郎!!」
手離しで褒められれば流石に悪い気はしないのか、真田は満足げな笑みを浮かべている。
「今のが手本だ。次はお前がやってみろ」



「え?でも釦取れたんって1コだけやし」



釦付けの練習のためだけにもっぺん取ってまうなんて阿呆のする事やん?
和やかな笑みを浮かべて忍足が「さ、洗濯機に放り込んで来よ」と
鼻歌交じりに洗面所へと足を向ける。
「…………謀られた」
呆然と呟いた皇帝は、それはそれはもう悔しそうな表情だったらしい。



そして、その一部始終を見ていた参謀は。
「弦一郎の完敗だな」
微笑ましく眺めて、そう言っていたとか。



<終>

※真田使われ損。

 

ね ・ 狙ろとったのに・・・ (&跡部)



今日は10月3日、明日は跡部の誕生日。
きっとまた明日は何かと騒がしくするのだろう、向日は千石と手塚の部屋に行ったきり
戻ってこない。
あと時計の針が一周したら、日付が変わってしまう。
鍵して先に寝てろと言われていたので、その通りにして早々に布団へと潜り込んだ。
あの様子なら戻ってくるのは深夜になるのだろうが、明日は普通に平日で朝練があるのを
向日はちゃんと理解しているのだろうかとも、正直思う。
自分は明日の主役なので、あまりその辺りは関係がない。
普段どおりに過ごして、彼らの祝いを素直に受け取れば良いだけだ。
向日や千石が一体どんな策を練っているのかとか、明日学校に行けば女共が五月蝿いの
だろうなとか、布団の中で色々思いを巡らせはしたが、跡部がそのまま睡魔に引き摺られて
しまうのには然程時間はかからなかった。





カチャン、と鍵の回る音がして、ゆっくりと意識が浮上を始める。
玄関の扉が開閉する音が聞こえて、ああ今のは聞き間違いではないのだと思う。
瞼は重くて開けられないが、何となく周囲の音を耳は拾い始めた。
向日が帰ってきたのだろうか、だが普段と比べると物音はやや遠慮がちだ。
彼ならどんな深夜で誰が眠っていようとも、お構いなしにバタバタと動くはずだ。
ぐるぐると思考が渦を巻いている間に、侵入者はこの寝室にまでやってきた。
静かにドアを潜って、何故だか自分の元へと向かってくる。
もう向日では無いのだろうという事は解っていたので、消去法で来る人間など絞れていた。
こんな夜中に、何の用なのか。


「Happy Birthday」


静かに耳元で囁かれた言葉に、跡部がうっすらと瞼を持ち上げた。
その視界に映る相手に、ああやっぱり、と思考は冷静に判断する。
だが、それすらも見越していたのか、相手は床に座り込みベッドに肘を乗せると
そこに顎を置いてにこりと微笑んだ。
「一番に言いたかってん。
 誕生日おめでとうな、跡部……大好きやで」
「………忍足」
言われて視線を時計にやると、0時を少し過ぎたところ。
わざわざその為だけに来たのだろうか?
「ほな、そんだけやし。また朝にな」
「待てよ」
言って立ち上がった忍足の手を掴んで、跡部が呼び止める。
「どないしたん?」
きょとんと見下ろしてくる忍足に、訝しげに眉を顰めたままで跡部が問うた。
「言葉だけかよ、アーン?」
「んん??」
「誕生日のお祝いには、つきものだろ?」
「ああ…プレゼント?それは、皆と一緒にや」
「ああそう、じゃあよ」
「うわッ!!」
掴んだ手を力任せに引っ張れば、予想できなかったのだろう忍足は
短い悲鳴を上げて簡単に腕の中に倒れこんできた。
「……危ないやんか」
「かもな」
「何なん?」
「いや、プレゼントの無い忍足は罰としてこのまま俺様の抱き枕にでも
 なっててもらおうと思ってよ」
「ちょ……何アホな事言うてんねん!!」
「それともこのまま襲われてぇか?
 こんな夜中にノコノコやってきやがってよ。」
「な…ッ、」
にやりと口元に笑みを乗せて言う跡部に、顔を朱に染めた忍足が抱き締められたままの
体勢であわあわと口を開く。
「ちゃ、ちゃうねんて!ホンマは跡部が寝てる間に言うて帰ろうと
 思うて………狙ろとったのに…」
「そりゃ残念だったな、俺様がお前の気配に気付かねぇ筈がねーんだよ。
 俺も眠いからな、襲うのは勘弁してやるから諦めてこのまま枕になってろ」
「いや、せやし…」
部屋に帰らして?と言おうとした忍足の額に軽く口付け、全く聞く耳を持たない跡部は
忍足の身体を抱き締めたまま目を閉じて肩口に顔を埋めてしまった。
このまま本気で寝るつもりらしい。
離す気の無い力で腕を回されていてはどうしようもなく、忍足が吐息を零すと。


「おやすみ」


眠りに落ちる前の低いトーンで、跡部の声が耳に届いてくる。
仕方なく吐息を零して、忍足も「おやすみ」と小さく返して苦笑を見せた。
今日はこのままこの部屋で休むしか無さそうだ。





不在の向日が戻ってこない事だけを祈って、忍足も瞼を下ろした。


また明日。



<終>

※跡部さま誕生日おめでとうのお祝いに。

 

の ・ ノリツッコミかいな!?