忍足くんといっしょ。

 

 

 

 

 

あ ・ アカンってそれは! (&ALL)



大会等が一段落した頃に、漸く夏休みというものが現れる。
とはいえ、それは一ヶ月以上ある周りと比べると、たった一週間という
本当に僅かばかりのものなのだが。
それでも、その期間だけは、全ての時間が自分だけのものになるのだ。
さて、今年の夏は?



「…特に用事も無いんだけど、ずっと寮に居るのもアレだしね。
 地元に戻ろうかなぁー…なんて思うんだけど」
食堂で夕食を採りながら、何気なく訊ねると乾はそう答えた。
「そうだな…たまには皆に顔見せに行くのも良いかもしれん」
乾の言葉には、手塚も頷いて。
「では俺達も帰るか、弦一郎?」
「そうだな……お前達はどうするんだ?」
ふいに真田が、隣に座っていた忍足に目を向けた。
暫くきょとんとした表情で忍足が真田を見返し、それから向日を見て、
最後に跡部に視線を向けた。
「……跡部、お前、今年もなんか?」
「ああ、今年もだ」
「うっそ、マジで!?やりィ!!」
何の話か解ったらしい向日は、嬉々として拳でガッツポーズを作って見せた。
「え?え?何の話??」
解らないらしい千石が向日を突付けば、



「中学ん時から、毎年、氷帝レギュラーは跡部の別荘に御招待、なんだよな」



「……別荘?」
「ああ、そういえばいつだったか、俺達の合宿の時に鉢合わせたな」
ぽつりと乾がそう零す。
だがあの時はあくまでも合宿と称されていた筈。
それも、あの時と違って、今は過去の氷帝レギュラー陣とは別々になってしまっている。
「……合宿するのか?」
「あ?ンなワケねーだろ。休める時にはしっかり休んどかねーとな」
手塚の問いに跡部があっさりと答える。
そうなれば、もう答えはひとつしかない。
「3年前からずーっと、お前んちの別荘にあったプール、気になってたんだよな。
 今年は絶対入らせろよ!!」
「せや!去年までは『合宿に来てんだぞテメェら!』って出し惜しみしてたやろ?
 俺も入りたいわ」
「あ、でも俺知ってんだぜ!?俺らの知らない内に、一人だけプール入って
 涼んでやがったんだぜ跡部のヤツ!!」
「うわずっる!!アカンってそれは!!一人だけ幸せに浸りよってー!!」
「……チッ、しょーがねぇな」



遊ぶ気だ。それも満々だ。



「あー……それ、俺も混じっちゃってイイかな?」
何気なくさりげなく興味を持った千石がそう問えば、跡部が無言のままで頷いて答える。
「ほな、どうせ皆予定が無いから地元戻るって言うんやったら、いっそ全員連れて行ったら
 どないなんや?」
「ああ、別にそれでも構わねぇぜ」
人数が何人になろうが大した問題では無いのだろう、跡部があっさり了承する。
「ほな、お前ら全員連行決定な?」
お茶を飲みつつ残りの4人を指せば。
「決定なのか?…それじゃあしょうがないか」
余り深く考えていないのだろう乾があっさりと頷く。
「……やれやれ、顔を出せないとなると精市に怒られるな」
「柳って暑いのほんまは苦手やろ?
 跡部の別荘、避暑地にあるからめちゃ涼しいで?」
「よし行こう。」
柳が即答する。
真田と手塚は休みの間もテニスをする気だったらしく、初めは渋っていたが。
「何言うとんの?跡部の別荘やで?テニスコートが無い筈あらへんやろ。
 むしろそこらの学校より、めっちゃ良いのあんねんで」
その言葉に手塚が陥落。
揺らぐ真田に。



「お前が、手塚や跡部以外の人間とテニスしてて、満足する筈あらへんやろ」



その言葉に、とうとう真田も了承に至った。



<終>

※本当の意味で忍足に口で勝てるのは跡部ぐらいしかいない。

 

い ・ いけ好かん奴やわ・・・ (&手塚)



ただぼんやりと、そこに立ち尽くしていた。
大丈夫、表情は普段どおり。
ポーカーフェイスなのが幸いした。
心を静める事に長けていたのがラッキーだった。
周りの人間が当り障りの無い言葉で騙されてくれたのが幸運だった。
これなら、誰にもバレる事は無い。
それなのに。



「……泣きたいなら、泣けば良いだろう?」



生真面目な表情で言ってくる男に、心臓が止まりそうになった。
何を、言っている?



「何故そこで我慢するんだ。言えば良いのに言わないから、
 だから周りが解らないんだ」



……知って欲しいなんて、はなから思ってへんよ。

「嘘を吐くな」

嘘やあらへん。

「どうしてそんな………」

放っといたって、頼むから。

「……解った。悪かった」

解ってくれたら、ええねん。



会話なんて成立していない。
顔に困ったような笑みを張り付かせた忍足が、全てを拒絶しているから。
前から忍足は自分の感情を隠してしまう方だったが、今日は特に強い。
だから一方的に手塚が話し掛けている状態。なのに。
「なんで……お前は、」
忍足が言葉を吐き出した。
「忍足、」
「や、ゴメン。もう止めにしよ。辛気臭いのは嫌いやねん」
「……お前がそう言うなら」
「ほな、俺ちょっと行かなならんとこあるし」
ひらりと片手を振って挨拶すると、忍足は手塚に背を向けて歩き出す。
それを思わず、呼び止めて。
「忍足!」
「……何やの?」
「言えとは言わない。だから、せめて、もう嘘は吐くな」
「…………。」
「自分自身に対してまで、偽るな」
「…………。」
「それだけだ。
 じゃあ、俺は先に帰る」



足音が遠ざかって、しんとした一人の空間が身を包む。
「なんで……アイツと同じ事言うねん…?」



どうしてああまで同じなのだ。
どうしてああまで、同じ事を言うのだ。
どうして隠しても隠しても、暴くのだ。
どうして隠していた真実を見つけても、手を差し伸べるのだ。



動悸がする。打ち付けるような速さの鼓動。
左胸に手をやり、ぎゅうとシャツを握り締める。
「いけ好かん奴やわ・・・」
一言呟けば、ぽつりと目から滴が零れ落ちた。



ああ、また、嘘を吐いてしまった。



<終>

※跡部氏と喧嘩でもしたか。

 

う ・ 美味いで、これ (&柳)



「美味いで、これ」
そう言いながら薦めてくる忍足に、半信半疑で柳はグラスを差し出した。
ちなみに、冷酒用のソレである。
212号室を訪れた柳が、忍足が冷酒の瓶を傍らに置き呑気に酒盛りを
していたので、便乗したのだ。
注いでもらった冷酒を、一口。
「………確かに」
飲み口はサッパリしていて、後口はほんのり甘い。
「せやろ?
 こないだ実家に帰省した時に貰てきてん」
「誰から」
「え?親から」
「…………。」
土産のように持たせる代物ではないだろう。
そう目線で訴えたが、忍足は気付いたかどうか。
目の前で忍足は上機嫌でグラスを煽っている。



忍足が意外にも酒を好んで飲んでいるというのを知ったのは、割と最近だった。
それも、日本酒。
決してアルコール度は低くないソレを、美味いといって飲む高校生も
如何なものか。
…と、客観的に見てみるが、実際のところ柳も日本酒は好きなので
敢えて何も言わない。
いや、今回のおこぼれも純粋に幸運だったなと思っている辺り、
言えないといった方が正しい。
ちなみに余談になるが、
向日はサワー、手塚はカクテルの類が好みだ。
跡部は言わずもがなワインが主だし、千石は割と何だって飲む。
そんなに強くは無いようだが、跡部と一緒になってウイスキーを飲んでいるところを
目撃してしまったコトもある。
とはいえ、そうしょっちゅう酒を口にするわけではなし、ちゃんと周囲にばれないよう
隠れてやっているから大したものだ。
一番侮れないのは乾だろう。
彼には基本的に好みなど無い。逆に言えば何でも好んで飲む。
アルコール度数などは全く影響しないツワモノだ。
ザルなのだ、要するに。
誰も、乾が本当に酔っ払ったところを見た事が無い。


そんなわけで。




「日本酒を一緒に飲める人間って貴重なんやわ」
時折、こうやって忍足と柳は一緒に酒を飲む。
肴は特に無く、強いていうならば他愛の無い会話ぐらいで。
「真田もちょっとぐらい付き合うてくれてもええのに、何べん誘ってもアイツは一回も
 飲んでくれた事無いねん」
「ああ忍足、弦一郎は諦めた方が良い」
「は、何で?」
グラスの酒をもう一口喉を滑らせて、柳が苦笑にも似た微笑を向ける。
「下戸なんだよ、弦一郎は」
「………あー」
合点がいったと言う風に、忍足がポンと手を打った。



そんな2人の姿を眺めながら、忍足の同室者は。
「アイツら、自分達が未成年だという自覚はあるのか……?」
けしからん、と呟いていたとかいなかったとか。



<終>

※きっと蓮二くんも酒には強いと思います。酒豪バンザイ!

 

え ・ えぇこと教えたるわ、耳貸し (&手塚、&乾、&柳)



確かにコイツが恋愛事に疎そうっちゅーのは、見たらスグに判るけど、な?


部活が休みのある土曜日、手塚が212号室へやってきた。
相談、というか、悩みを聞いて欲しい。
そう、手塚は言っていた。
丁度忍足が一人で暇していたところなので(真田は向日に拉致られていった)、
話し相手に丁度良いとばかりに、手塚を中に引き込んだのだが。
「…………何やねん、それ」
聞かされた話に、思わず忍足が眉を顰めた。
どこか困ったような表情を見せていた手塚が、更に困惑の色を深くする。
「お前は、まだ見ていないのか?」
「あー、今日はまだいっぺんも乾には会うてへんな。
 そんなに変わったんか?」
その言葉に手塚が、コクリと頷いてみせた。



つまりは、こうだ。
テニスと決別した乾が、眼鏡からコンタクトに変えたらしい。
それが、また。



「贔屓目抜きにしても、あんなに変わるとは正直思ってなかったから」
「………あんな、1つ訊いてもええか?」
「何だ」
「何で俺に言うねん、お前」
「それは、」
「そういう話はむしろ真田とちゃうか?」
「真田が恋愛相談に向いている風に見えるのか、忍足は」
「う………じゃあ、柳」
「……話は聞いてくれるかもしれないが、答えに繋がるような言葉を
 貰えるとは思えない」
「じゃ、経験豊富な跡部景吾様々なんてどないや?」
「鼻で笑われるのがオチだ」
「ほんなら………ああ、あかん。岳人と千石は論外やな」
「からかわれて仕舞いだろう」
「……なるほど、なぁ」
消去法で自分しか残らなかったのか。
思わず苦笑して、忍足はソファの背凭れに体重をかけるようにして天井を仰ぎ見た。



つまり、手塚は。
豹変した乾の風貌に、心奪われたらしい。
欲しい、と思ってしまう程に。



「……別に、お前の片想いってわけやないんやし、いっそ思い切って
 抱いたったらええんとちゃうん」
「………あっさりと言ってくれる」
「所詮、行き着くところはソコとちゃうのんか」
「そうかもしれないが……」
「案外、大丈夫かもしれへんで?」
「そう、だろうか…?」
「うーん……よっしゃ、ほんなら、」
ポンと手を打って忍足は勢い良く立ち上がると、ダイニングへ向かって何やらゴソゴソと
戸棚を漁り出す。
袋の中に瓶を一本突っ込んで、忍足が手塚に顔を向けた。
「手塚はそこで待っとって。俺がちょっと話つけてきたるわ」
「な、お、おい忍足!!」
「大丈夫や、手塚」
ふんわりと笑みを浮かべる。


「な〜んも、心配いらへんよ」


それは本当に、相手を安心させる事ができるチカラを持つ、微笑で。
手塚はいそいそと部屋を出る忍足を呆然と見送って、
ただ唐突に、あの跡部がこの男を手に入れたいと思った理由を、思い知らされた気がした。





305号室で、インターホンを鳴らす。
応じたのは柳の方だった。
「あ、忍足やけど、乾そこに居るか?」
『貞治?ああ、ちょっと待て』
一旦インターホンは切れて、すぐに鍵を開ける音がした。
「珍しいな、忍足が俺に用なんて」
「うわぁ。」
扉を開けて出てきたのは、ご指名の乾貞治其の人だったのだが。
「どんなリアクションだ」
「いやぁ、これは、想像以上やな」
「?」
目を慣らそうとしているのか、まだ乾はコンタクトをしていて。
普段は眼鏡が邪魔していて解らなかったのだが、やけにスッキリとして整った
顔立ちをしていた。
切れ長の目が、白く細い輪郭に映える。
「コンタクトにしてんてな」
「手塚から聞いたのか」
「ああ、でもお前、これで月曜から学校行くんか?」
「一応そのつもりなんだけどな」
「あちゃあ、知らんでぇ…?」
きっと学校の女共は黙ってはいないだろう。
想像して恐ろしくなってそれは頭の隅に追いやる。
「……で、忍足は何か用があったんじゃないのか?」
乾に言われて漸く我に返った。
嫌な想像は頭の隅に追いやって、当初の目的を果たすべく忍足が顔を上げる。
「いや、俺が用あるんとちゃうんや」
「…え?」
「俺じゃのうて、手塚が用あるみたいやねんけど」
「うん」
「今、俺んトコに居てるし、ちょっと行ったってくれへん?」
「別にそれは構わないが……何かあるのか?」
「何かある、というか…何かする、というか……」
曖昧に言う忍足に、何だかよく解らないままで乾が首を傾げた。
「ま、詳しい事は手塚に聞いたらええから。
 とりあえず行った行った」
「……何だかよく解らないけど、とりあえず呼んでるなら行ってみるか」
靴を履いて乾が廊下に出る。
代わりに滑り込むように玄関に入った忍足が、あ、と声を上げた。
「乾、ちょっと」
「何だい?」
「えぇこと教えたるわ、耳貸し」
「…?」
引き寄せられるままに、乾が耳を傾けて。
忍足が微笑んで、その耳に唇を近づけて。
内緒話をするように、伝えるのは一言だけ。



「           」



顔を離してニッと笑うと、乾の顔に火が付いた。
「ほー、可愛えとこあるやんか」
「な、何、を……」
「嫌やないなら、行ってあげや」
「………そんな、急に、」
言われても、と真っ赤な顔で小さく呟いた乾が、妙に可愛く見えてしまって。
ああ、だから手塚はこの男が好きなんだな、と唐突に理解した。
「嫌なんか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ無くて……その、」
「そんなら何も問題無いわ。さ、早よ行ったって」
背中を押して追いやって、忍足は扉を閉めてしまう。
多少強引な気はしたが、後は手塚がどうとでもするだろう。
というか、何とかするぐらいの甲斐性が無いと困る。男として。
「貞治………あれ、忍足?」
扉が閉められて帰ったとでも思ったのだろうか、柳が顔を見せて意外そうな表情をした。
「乾はちょっと急用でな。そんでお前には、俺が用事」
「……何?」
「じゃーん、隠し兵器ー!!」
手にしていた袋から一本の酒瓶を取り出す。
それは、先日帰省した時に親元からくすねてきた日本酒。
「忍足…」
呆れた表情の柳の腕を掴んで、忍足がダイニングへと上がり込んだ。
「今日は目出度い事があったからな、酒盛りしよ、酒盛り、祝い酒や」
「何の祝いだ」
困惑したままで訊ねてくる柳に、忍足が小首を傾げてみせる。
「んー、何やろな。
 手塚と乾がオトナの階段登りよった祝い……かな?」
「そうか…………やっとか」
「そうなんや。こんなコトまで世話かけさせよって」
しゃあないやろ?と言って嬉しそうに笑う忍足に、つられるように柳も柔らかい笑みを見せた。


……ま、たまにはキューピッド役もええもんや。



<終>

※真田には今夜は部屋に戻るなとの指令済。(笑)

 

お ・ おおきに〜 (&跡部)



「まいど、おおきに〜」
視聴覚室の片隅、きゃあきゃあと声を上げながら去っていく女子生徒達を見送りながら、
忍足は夏目漱石の数を数えていた。
「……おおっ、やるやん1万3千かー。
 さっすが、人気者はちゃうなぁー…」
13人も手に入るなんて大漁やわ、と鼻歌交じりに札束を財布に突っ込んで、
机の上に散らばった商売道具を片付け始めようと手を伸ばした、その時。



べしっ!!



「…………ったー……、な、何すんねん!!」
後頭部を思い切り叩かれて、忍足が擦りながら背後を振り返る。
その表情が凍りついた。
「よォ忍足、この俺様を売り捌くとは良い度胸じゃねェか、あァ!?」
顔に笑みを張り付かせて、仁王立ちしていたのは跡部で、
その頬が微かに引きつっているところを見ると、かなりご立腹らしい。
「あっちゃあ〜……見つかってもうたか」
「見つからねェとでも思ってたのかよ」
「いや、思ってたわけやないよ」
フリーズから解けた忍足が、机に散らばっていた物を纏め始める。
それはアルバムに挟まれた写真たち。
圧倒的に跡部の写真が殆どを占めているが、中には千石や向日、
更には手塚や真田や要はメンバー全員の分が収められている。
「売んなつっただろーが!」
「ええやんか。お前ら大人気やねんから。やっぱテニス部はスゴイねんなーと
 つくづく思ってまうわ。こんなボロい商売あらへんでー」
「そんな事しなきゃなんねぇぐらい、金に困ってるわけでもねーんだろうが」
「全ー然。最初は単に記念写真のつもりやってんけどなー」
いつだったか、見せて欲しいと女子生徒に頼まれて、公開してしまったのが間違いだった。
譲ってくれだの、焼き増ししてくれだの、要望が後を絶たなくて。
「タダでやんのもなんか癪やしな、せやし売ったろ思て。
 そしたら後から後から女どもが湧いてきよる。恐ろしいもんや」
一枚1000円〜3000円。値段の差は人気の差。
さらりと答えて、忍足は愉快そうに笑う。
呆れた表情を隠そうともせず跡部は肩を竦めると、此処を出るぞと顎で扉を指す。
頷くと、忍足はアルバムをとんとんと揃え、立ち上がった。
その制服のポケットから、ぽろりとパスケースが零れ落ちる。
それに気付いた跡部が、腰を屈めて拾おうと手を伸ばした。
「何落としてんだよ。鈍臭ぇな」
「え、あ、ちょお待っ……!!」
「……ヘェ」
パスケースの中を覗いて、跡部が口元だけに笑みを乗せる。
「ちょっ、返しやっ」
「おっと」
慌てて奪おうとする手を軽くかわして、跡部は見ていた部分を忍足に向けた。
中には、一枚の写真。
どこか幼さを残したあどけない表情で眠っている跡部の姿が、そこには収まっていた。
「お前、コレも売ってやがんのか?」
「っ、それはっ、」
ひったくるように奪うと、忍足が声を上げる。
羞恥からか頬は真っ赤に染まっていて。



「…………非売品、や」



「俺のとっておきや」と呟くように答えた忍足に、「可愛い奴」と笑いながら、
跡部は軽い口付けを贈った。



<終>

※売上は、皆で酒盛り時の酒代などに還元されている。(笑)