少しずつだが確実に動きが鈍くなっていっている事ぐらい、柳にはとうに解っていた。
それでも試合を止められなかったのは、もちろん乾自身がやりたがっていたという事もあるが、
何より柳が、乾と共に戦いたがたっていたに他ならない。
ただ純粋に、楽しかったのだ。
ずっと共に居てダブルスで戦ってきて、そして長い間の別れがあって、そしてまた
数奇な巡り合わせで再会して。
もう一度、乾から「ダブルスでいこう」と手を差し伸べられた時は嬉しくて、嬉しすぎて
涙が出るほどだった。
だから、どうしても、止める事ができなくて。
「ほんならボチボチ、反撃に出させてもらうわ」
忍足のサーブから試合は始まって、もちろんその軌道を予測していた柳が
先回りする。
難なく打ち返すが、その球は先刻とは比べ物にならないぐらいに重い。
「……なるほど、まだ力が残っていたか」
面白い。
思わず口元が笑みに象られる。
試合展開は柳と乾ペアの優勢ではあったが、もちろん相手の実力だって
なかなかのものだ。
強い相手と戦うのは、ただ純粋に、楽しい。
それはきっとずっと昔の時代から培われてきて、そして受け継がれてきた、
まるで武士の魂のようだ。
恐らくテニスにしろ、別のカタチにしろ、こうやって戦いの場に出てくる人間というのは、
得てしてそんな人間が多い。
もちろん、忍足も、向日も、そして隣で共に戦っている、乾も。
長い打ち合いが続く。
なかなか勝敗は決まらなかった。
本気、と忍足が言ったように、2人の動きはそれまでとは雲泥の差で、
それまで優勢を築いていた柳・乾のペアも苦戦を強いられていく。
気が付けば5−5。
あっという間に追いつかれてしまっていた。
40−30でまだ頭脳派ペアの方がリードしているが、それもどうなるか解らない。
柳が強いショットを放つが。
しかし、向日がそれに飛びついた。
「抜かせるかっての!!」
「ようやった岳人!!」
なんとか相手コートにボールは返したが、それは高く宙を舞って。
スマッシュにはうってつけ。
そしてその先には、乾の姿。
「それじゃあ、これでどうだろう?」
「打ち返したるわ。
どっからでも来いや!!」
「うん、じゃあ、そうしよう。
桃城とまではいかないけど」
大きく身体を逸らせて、膝を曲げ腰を深く落とす。
強く弾みをつけて、乾が高くジャンプした。
それに忍足と向日がラケットを構え、真っ向から挑む。
乾自身にしか聞こえないような小さな、それでも鈍い音が膝の内側の骨から、
そして、膝の何かが砕けるような、弾けるような、そんな感覚。
同時に激しい痛みが襲ってくる。
たまらずそのまま蹲って、ただ痛みを訴える足を必死で堪えて。
……そのラケットが振り下ろされる事は、無かった。
ポトンと、ボールの弾む音と、ラケットの落ちる硬い音。
そして崩れ落ちるように倒れた身体。
膝を抱えて小さく、呻く。
「貞治!!」
驚いた柳が駆け寄るが、それに返事できる状態ですらない。
真っ青な顔色で、ただ痛みに声を上げてしまいそうになるのを必死で堪えている。
膝を押さえるその手を無理矢理退かしてジャージを上げると、先刻見た時とは
全く様子が異なっていた。
「お前…こんな状態で…!?」
「さ、さすがに……無理しすぎたかな、」
「無理しすぎたっちゅー程度とちゃうやろが、アホ!!
ヤバイなら何で早よ言わへんのや!!」
「は、早く冷やせ冷やせっ!!」
腫れ上がった膝は、赤黒く変色している。
例えば何かにぶつけても、余程で無ければここまでには至らないだろう。
呆れたというよりはむしろ怒りの形相で忍足が怒鳴る。
慌てて救急箱を取りに向日はコートから走り出た。
審判台をを飛び降りるようにして、手塚も駆け寄ってくる。
「立てるか、乾」
「どうだろうね……」
その傍から見ればちょっとした騒ぎになっているそれを不審に思って、
隣のコートで試合をしていた3人も走ってきた。
「どうした?」
「あーあーあー、
何だよ乾、その足…痛そ〜〜……」
「あン?怪我かよ」
真田も千石も跡部も、揃って顔を顰めて見せた。
その膝は、もう「痛そう」としか形容の仕様が無い状態で。
「待たせたな乾!!
ほら、足出せ!!」
言いながら駆け戻ってきた向日に、視線だけ向けて跡部が言った。
「スプレーや湿布でどうにかなるような状態じゃねェよ。
岳人、先生んトコ行って、車呼んで貰って来い。
コイツは病院送り決定だ」
「え、いや、それは、」
慌てて何かを言おうとした乾の後頭部を、拳で一度、ゴツリと押して。
「言うことを聞け、乾」
顔を向ければ睨んでくる手塚が居て、乾は大きな吐息を零した。
<続>
え、ええと……。(コメントに困っている)
とりあえず、病院に行ってきてクダサイ乾さん。
なんか、うちの乾は死ヌ程病院嫌ってそうです。
風邪引いても「寝てれば治る」とか言って絶対医者行かないのね。
そんな乾を引きずって行くのは、もっぱら蓮二か手塚あたり。
もしくは、跡部にしばかれながら行くでもヨシ。(笑)
ううん…やっぱりどうしても三国志ジャンルと比べてしまうんですが、
三国志とかで戦場を描写するより、テニスで試合を描写する方が
万倍難しいと思ってます。
ていうか書けませんて。(苦笑)
戦場はまだ、想像したイメージをそのまま書けば良いし、ハッタリもきくから
良いとして、テニスに関しては専門知識が皆無なので、試合像を頭の中で
描けても、言葉が解らなくて書けないんですよねー。いやいや、勉強不足なんですが。
だから、あまり試合絡みの話は、今後も書かないような気がします。
や、多分書きません。
日常生活で勝負します。
ハッタリのきかない話は、書くのがツライです。
佐伯さんの80%はハッタリで出来てますんで。(嘘ッ!?)