「は?跡部、お前何言うて…」
「うるせェな。
お前の事が好きだっつってンだよ!!」
今日、突然跡部にそんなコトを言われてしまった。
しかも、ほぼ全員が揃っていた…その面前で。
これはいわゆる『告白』というものなのだろうか。
だがしかし、その割には物凄く喧嘩腰だった。
そのくせ、瞳はこれ以上無いぐらい真摯だった。
………どないせっちゅーねん。
<視えない自分の想いについて>
夜中、雨音が耳について眠れなくて何度目かの寝返りをうつ。
今日は、色んなコトが一度に起こった。
前からおかしかった乾の膝がとうとうダメになって。
そのまま医者に担ぎ込まれて、メンバーが一人欠けて。
そう、そして部活途中で雨が降ってきたからそこで中止になって。
傘がなかったから、皆で走って帰った。
次にアイツが…乾が居なくなった。
帰ってこない乾を捜しに出て。
連れて帰ってきたのは、やっぱり手塚だった。
すっかりずぶ濡れになって帰ってきた2人を見て、柳が泣いた。
乾は何も言わなかった。
ただ、必死で捜した自分たちに向かって「ゴメン」と一言、謝っただけだった。
そして。
「………ほんま、アホなんちゃうかアイツ……」
ぽつりと零してしまった言葉は、しっかりと同室者に聞き取られてしまったようだ。
「そう言ってやるな」
突然聞こえた自分以外の声に、驚いて忍足は目を開いた。
寝返りを打つようにしてもうひとつのベッドに目を向ければ、いつから目を覚まして
いたのか……もしかしたら眠っていなかったのかもしれないが……真田と目が合った。
「なんや真田、起きとったんかいな」
「雨音が耳障りでな」
「奇遇やな、俺もや」
敢えて起き上がろうという気も無くて、お互いが各々のベッドに転がったままで
ただ言葉だけを交わす。
「跡部だろう?」
「おー、よォ解ったな」
「まぁ……今日のアレでピンと来ない方がどうかしている」
「はは、そりゃそうや」
「跡部のアレは本心だ。
だから…そういう風に言ってやるな」
「……どういう意味やのん」
「俺は…正直、そう言える跡部が羨ましかった」
「だから、」
「まぁ、聞け」
問いを投げようとしたら真田にそう言われて、忍足が口を噤む。
忍足が言いたい事も、真田には理解ができた。
跡部が忍足をどう思っているかとか、忍足の気持ちはどうなんだとか、
そういう事が問題じゃなくて。
跡部は時と場合を考えなさ過ぎる。
きっと忍足が怒っているのはそこなのだろう。
「俺も言ってやれれば良かったんだがな…」
「やめてぇや、なんであの場のあの雰囲気で告白タイムができんねんな」
「そうじゃない……なんて言えば良いんだろうな。
多分跡部も、『言わずにはいられなかった』のだと思うんだ」
「………は?」
帰ってきた乾達の傍、千石と向日は沈痛な面持ちで。
ただ言葉も無く嗚咽を漏らす柳と、その肩を静かに支えている真田と。
実際胸の内には絶望が渦巻いていただろうに、それを見せなかった乾と。
乾の腕を強く掴み、青褪めた顔で唇を噛み締めている手塚と。
その光景は、跡部の目にどんな風に映っただろう?
「きっと、衝動的に言ってしまったんだ。
だが……それならば、むしろそれは本心だろうな」
「……あかん、解らんわ。
そもそも、なんであそこでなきゃならんかったのかすら、理解不能や」
「そこは別に考えなくとも」
「お前もアホか。
そっちの方が問題やっちゅーねん」
真田に背を向けるように寝返りを打つと、がばりと布団を被ってしまう。
それにふぅと吐息を零して、真田が静かに問い掛けた。
「では、お前はどうなんだ」
「……何がや」
「どういう状況であれ、お前は跡部の気持ちを知った。
それならお前はどうなんだ?」
「知るかい!!」
言って、頭まですっぽりと布団で覆ってしまう。
「……むしろ、それが一番大問題なんや」
布団に潜ってしまって、小さくしか聞こえない、潜もった声。
それに思わず真田が苦笑を浮かべた。
正直なところ、自分の気持ちはよく解らない。
実際は見えているのだろうに、そこに霧のような靄のような、
曖昧なものが被さっているのを良いことに、見ないフリをしている。
そこから何が飛び出してくるのかも解らないというのに。
そんな恐怖に怯えながら、足元の見えない水面をゆっくりと歩いている。
だがいつか、きっと引きずり込まれていくだろう。
この、深い深い湖の底へ。
<終>
ちょっと、跡忍に心揺らぎ中。(笑)
この2人のサワリが書きたくて、少しフライングしました。
今日という日に起こった事は、ストーリーの流れに関係があるので
あとでじっくり書く事にします。
それまでは深読みしてやってて下さい〜。
結局、選んだメンバー8人の内、6人がカップル決定か。微妙。(笑)
千石と向日はフリーです。
つか、アイドルの方がいいなぁ。
他の6人にとって、この2人は手のかかる弟みたいな存在でいてほしいトコロ。