#47 宍戸、真の恐怖を知る。
「………まぁ、ぶっちゃけ不死鳥だよな?」 「うん」 「だーかーらー、その不死鳥ってのはどんなんだって 聞いてんだよ!!」 顔を見合わせて頷きあう神尾と伊武に、半ば頭を掻き毟るようにして 宍戸はそう怒鳴ったのだった。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 概要を言えばこうだ。 不死鳥とは、伝説の鳥。 身の丈は5mとも10mとも言われ、その寿命は何千年、何万年とも 考えられている。 「はぁ…まぁ、この卵のデカさ考えたら、そんな気はするわなぁ…」 ちらりと台座に置かれている卵へと視線を送って、忍足はそうしみじみと 言葉を零した。 その巨大さだからこそ、孵すには途方も無い力が必要になる。 普通に小鳥が卵を温めるなんて方法では埒が明かず、だから他のものの力を 代用するのだ。 「へー…それがこのオーブってワケなんだねぇ」 道具袋から出して千石がしみじみと言えば、目を丸くしたのは神尾だった。 「ちょ、なんでアンタらがそんなの持ってんだよ!!」 「なんでって……見つけたからだけど? ちなみに3つ、持ってるよ?」 「マジかよ!?3つも…」 「あーあ…橘さん先越されまくってるじゃん…ていうかあの人 ちゃんと戻って来るのかなぁ…俺、こんな辺鄙な場所に 一生居るなんて嫌だよ」 どうやらこの2人に管理を任せた橘という人間は、この卵を孵すために オーブを探しに行ってしまったようだった。 だが6つしかないオーブ、1つでも向こうに見つけられると後々厄介なことに なるのは目に見えている。 「こうなったら…6つともその橘って奴より先に見つけるしかねぇな…」 「あ、でも、ちょっと待ってよ」 ストップをかけたのは滝だ。 彼は暫く考えるような素振りを見せた後に、神尾の方へと向き直った。 「あのさ、世間での謂れでは、6つのオーブを手に入れた者は世界を 股にかけることができるって言われてんだけどさ、それって どうしてかな」 「あーそりゃ、そうだろうさ。 こんなデカいのが孵って、空飛ぶんだぜ? 世界中何処にだって行き放題さ、だろ?」 「………なるほど、そういう意味だったのか……」 だが、本当に空を飛ぶことができるのであれば、いつだったかテドンの村で 判明した魔王の居場所まで辿り着くことができるだろう。 「不死鳥を孵して手に入れられれば、こんなに便利なコトは無いよね?」 「空か……ほんまに飛ぶ方法があるなんて、思わんかったなぁ……」 「それじゃ、残りも探しに行くっきゃないよね?」 意気込んで千石が言うのに、残りの4人も大きく頷いた。 ここは逃せないところだろう。 それを眺めていた神尾と伊武は、やれやれと肩を竦めるしか無かった。 「それじゃあ、もし旅してて何処かで橘さんに会う事があったら、 こっちに戻って来てくれって言っといてよ」 「え?でも…、」 「あの人、別に不死鳥を手に入れてどうこうしたいなんて 思っちゃいないんだ。 ただ、此処に生きてる卵があるから、孵したいって思っちゃった だけなんだ。 だからアンタ達がオーブを手に入れてこの卵を孵すって言うなら、 そっちに任せるだけだよ」 「俺達も早く役目から解放されたいしね」 「……分かった、どこかで会う事があれば、そう言っておく」 2人の言葉にこくりと頷いて、跡部が改めてこの巨大な卵を見上げた。 卵の時点でこの大きさなのだから、孵った後の鳥の大きさなどは 推して知るべし、だろう。 足に掴まるのか背に座るのかは分からないが、空を飛べるようになるなら こんな有り難い事は無い。 ただ、唯一問題があるとすれば。 「………宍戸、お前…大丈夫なんだろうな?」 その瞬間、ぴしりと凍りついたのはむしろ宍戸でなく彼の弱点を知る 仲間達の方だった。 塔の上や綱渡り、それで『あの状態』だったのだ。 今度はそれよりも更に上、しかも塔の時のように壁なんてある筈も無い。 「うわぁ……ヤバいんとちゃうん……?」 「360度見渡す限りのパノラマだよー……俺、知ーらない…」 あちゃーと手を額に当て深々と吐息を零す忍足と滝を尻目に、 当の本人である宍戸はきょとんとしている。 恐らく、その高さがどれほどのものか想像すらできていないのだろう。 周りの反応で状況が掴めた神尾が、ニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべた。 「そうだ、そこのあんた、ちょっとこっちに来てくれよ」 言いながら宍戸の腕を掴み、外へ続くドアではなく彼らが出てきたのだろうと 思われる方の扉へと向かって行く。 読めたらしい伊武が肩を竦めながらついて行って、それに何事かと思った 仲間達もぞろぞろと続いた。 隣の部屋は彼らの生活空間になっているのだろう、どこの家庭とも 然程変わらない部屋があり、そこを更に抜けて弱い明かりが灯る 長い廊下へと出る。 「ちょ…おい、何処に連れて行くんだよ?」 「いいからいいから」 宍戸の訝しげな問いに答えず、神尾は廊下の突き当たりにある鉄の扉を 押し開いた。 狭めの空間になっているそこは、螺旋階段が延々と伸びている。 ひょいひょいと軽い足取りで神尾はその階段を上りきり。 「とうちゃーく!」 天井についている跳ね上げ式の扉を重たそうに開くと、その先へと身を乗り出し、 更に宍戸を引っ張り上げた。 どうやら物見の塔らしく、膝ぐらいまでしかない石の囲い以外は、 見渡す限りの空と大地。 「えーっと、360度パノラマつったら、こんなカンジじゃねぇの?」 参考までに見とけよな、なんて笑顔で言う神尾の明るい声と被るようにして 宍戸の絶叫が聞こえたのは言うまでも無い。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「……ねぇ、コレってあの人に対するイジメだったりするワケ? だったらスゴイよね、さすがに俺そこまでできないよ」 「お前な……」 膝をがくがくさせてその場にへたり込む宍戸を眺めながら、伊武がしみじみと そう呟く。 これは不死鳥が孵った時には更に一悶着あるのだろうなという事は想像に難くなく、 思わず頭痛のしてきた跡部がこめかみを押さえたのだった。 <NEXT> |