#37 千石、仲間になる。

 

「あ!やっほー!滝ちゃーん!!
 相変わらずキレイだねーー!!」
酒場で待ち合わせた滝と宍戸が戻って来た時、席を共にしていた千石が
突然立ち上がって両手をぶんぶんと振り回した。
その今しがたまで忍足に質問攻めを浴びせていたというのに、
この瞬間的な変わりよう。



「「 てめぇは見境がねぇのか!!! 」」



どうやらこれも毎度のことらしく、走ってきた宍戸と隣に座っていた跡部から
ダブルパンチを食らって千石はテーブルに撃沈したのだった。










この千石清純の性格はともかく、本題に入ると意外にも彼は真摯に話を
聞いてくれた。
遠く離れた大陸で、新たな町が創られようとしていること。
だがそれをするには余りにも人が足りないということ。
「へぇ……町かぁ。
 そりゃあスゴイ」
「どうだよ、興味はねぇか?」
「うん、すっごい面白そうだよね。
 そうやって1から何かを創っていくっていうの、すっごいワクワクする」
「ほな、ちょっと見に行ってみぃひんか?」
「そうだねー……行ってみても良いかなァ。
 俺、この島から出たコトないしさ、他の場所も見てみたいし」
「さっすが千石!即決じゃねぇか!」
思わずパチパチと手を叩きながら言う宍戸に、千石が照れたような
笑みを浮かべた。
この年頃は皆、新しいものに興味を惹かれるのだろう。
うんうんと大きく頷くと、旅支度してくるからと言い残して千石は酒場を
走り去ってしまった。
さて、残された跡部様御一行は。





「それじゃ、千石が戻って来次第出発しようぜ。
 おい忍足、ルーラで行けるよな?」
「ええと……え、あれ、ちょお待って、アレってどの辺??」
こめかみ辺りを指で押さえながら場所を思い出そうした忍足が、
ふいにそんな事を口にした。
風景などは大丈夫なのだが、飛ぶために必要な位置が特定できない。
ここから北へ飛べば良いのか南へ向かえば良いのかすら分からないのだ。
「跡部、覚えとる?」
「………え、あァ?ちょ、ちょっと待てよ、」
言われてハッと気が付いたように、跡部は懐から地図を一枚取り出した。
以前立ち寄った大陸は分かる。
この地図が作られた段階ではまだ未開拓の地だったか、スーの村さえ記されて
いないのだが。
「寄ったのが此処だろ?
 だから……多分この河を下って……この辺か?」
「え、そうだったっけ?
 村はこっちで下った河ってコレじゃなかった?」
「待てよ、でも平原ってこの辺だろ?
 そんなトコ回ったっけか?」
一緒に覗き込むようにして地図を見ていた滝と宍戸が、跡部とは全く違った
場所を指差す。
三者三様の指摘に、忍足はいっそ頭を抱えたくなった。
未開拓の地とはいえアリアハンよりも広い大陸なのだ、ひとつ間違えれば
面倒なことになりかねない。
下手をすれば今いるアリアハンの位置すら掴めず戻れなくなってしまう
可能性だってあるのだ。
ここは、あくまで無難な道を歩むのが得策。
「なぁ……もう、大人しく船で行こうや。
 それなら方角さえ間違わんかったらなんとかなるやろし、な?」
「でも、それって時間かかっちゃうんじゃないか?」
「それならそれで、道すがら色んなトコ回りもって行ったらええし。
 その方が変に迷子になるよりずっと有意義やって」
「………それしかねぇか」
忍足の言うことも尤もである。
急がば回れという言葉もあることだ。
重苦しい吐息を零して、跡部が渋々頷いた。







◆ ◇ ◆ ◇ ◆







「お待たせーって、あれ?」
肩下げの鞄に簡単な持ち物だけ詰め込んでやってきた千石が、えらく落ち込んだ
雰囲気にこくりと首を傾げた。
「どうしたの、みんな?」
「……予定変更だ。
 魔法で飛ぶんじゃなくて、船旅にする」
「え、あ、そうなんだ。
 それでなんで跡部くんがそんな不機嫌そうになるのさ?」
「あー、船に酔うんだよ、コイツ。
 だから機嫌悪ぃんだ。
 放っといてイイぜ?」
またも馬鹿正直に答えてしまった宍戸は直後、跡部からの鉄拳制裁を喰らって
床に伏すハメとなった。
それをクスクスと笑いながら眺めた後、改めて千石がペコリと4人に頭を
下げたのだった。



「千石清純、お世話になります。ヨロシクッ!!」








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