#33 一行、宝珠の存在を知る。

 

この世界には6つのオーブが眠っており、それを全て手にした者は世界を
股にかけることができるという。
それがランシールという街で得た情報であり、そして。
「ひとつ、コレじゃね?」
ゴソゴソと自分の荷物を漁って宝珠を取り出した宍戸に、そこに居た全員が
驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと宍戸、どうしてキミがそんなの持ってんのさ!」
「え、こないだジパングで化け物倒したじゃねぇか。
 その時に見つけてよ、なんか綺麗だから貰っといた」
「……そこでパチるお前が分からへんわ宍戸…」
「ま、何にせよ、だ」
淡く黄色い光を発する宝珠を見遣り、跡部が纏める。
「次はコレを探して回ることに決まりそうだな」
なんだか探し物ばかりしているような気もするが、目的があるからこそ
次に目指す場所が見えてくるというものだ。
そしてこの街にもうひとつ、これは滝が見つけてきたのだが面白い場所が
あるという。
「勇気ある者を試す神殿があるんだって。
 ちょっと覗いて来たんだけど、鍵かかっててダメだったよ」
特に門番などが居るわけでは無いので、鍵が開けられるなら入っても構わない
という事なのだろうけれど。
「持ってる鍵じゃ開かなかったから…入るなら何か違う手を考えなきゃ
 ならないだろうね」
「そこまでして行きてぇのかよ、滝は」
「そういうワケじゃないけど…なんか面白そうじゃない?」
「せやけど、なんでこう鍵の合わへん扉が次々と出てくんねやろなぁ…」
「忍足よォ、こう、一発で鍵を開けちまうようなすげぇ魔法ねーのかよ?」
「おいおい宍戸、俺そんな便利マンとちゃうで?
 ここはひとつ何でも開けられるマスターキーみたいな鍵探した方が
 えらいんちゃう?」
「あんのかよ、そんな夢見がちな鍵が」
「それがな、」
忍足が得た情報によると、この広い海のどこかに存在するというのだ。
どんな扉でも開けてしまうというマスターキーが。
遠い昔、作り出してしまった発明家がその鍵の存在の恐ろしさに、封印して
しまったのだという。
当然今までにも探そうとする者がいたし、どの辺りにあるというところまで話は
明らかになっているのだが、問題はその鍵の隠された祠が海の底だという事だ。
海の中には当然魔物だっているし、そんな海の底の祠の中まで人間が素潜り
できるかといえば、それは否だ。
「場所の情報も大体リサーチできたし、後はどうやってその祠ん中に
 入るかっちゅう事なんやけどな……海の底やしなぁ」
はぁ、とテーブルに頬杖をついて忍足が困ったような声を上げると、それらを
黙って聞きながらお茶を飲んでいた跡部が、ゆっくりと口を開いた。
「海の底まで行けねぇんだったらよ、相手を引きずり出してやりゃあ
 良いんじゃねぇか?」
「引きずり出す…?面白いコト言うね、跡部」
興味を持ったのか滝がその続きを促すと、テーブルの上を簡単に片付けて
地図を広げた跡部が一点を指差した。
それは今いるランシールからずっと北西に上がっていった場所にある国。
アリアハンよりもずっと小さな島国の名は、エジンベア。
「渇きの壺っていうモンが、この国にあるらしいんだが…、それを水に浮かべれば
 暫くの間、その一帯が干上がっちまうってシロモノだそうだ。
 ちょっとした浅瀬程度なら海でも使えるんだと。
 よく雨の降る地域らしいんだが、小さな島国だろ?
 元々は洪水対策で生み出されたモンらしいんだが……使えるんじゃねぇか?」
「はぁ〜……なるほどなぁ。
 ようもまぁ、そう都合のええアイテムが出て来るもんやね」
「つまり、皆考える事が同じなんだろ。
 鍵を得ようとするものは皆、この壺の存在に辿り着く」
「それでなんで誰も鍵を手に入れられねーんだ?」
首を傾げて唸る宍戸に、跡部も肩を竦めたまま何も答えず地図を畳んだ。
「要は…」
カチャ、とソーサーにカップを置いた忍足が、代わりに答える。
「エジンベアに何か問題がありそうっちゅうこっちゃな」
















宝珠を探すか、鍵を手に入れに行くか。
とはいえこの街で宝珠に関して有力な情報を得る事ができなかった。
そうなれば自ずと目的地は決まってくる。
少なくとも場所のはっきりしている、エジンベアだ。
「何事も無ければ良いんだけどよ」
「あはは、無理無理!
 今までそれで何事も無かったためしが無いじゃん?」
「分かってたけどよ…ちょっと嫌な予感がしなくもねーな」
「はいはい、言うてもしゃあないやん。
 行くだけ行ってみようや。
 ほら宍戸、錨上げてや」
「おー」
ゆっくりと錨が上げられて、船は少しずつ波に乗り北西へ向かって走り出す。
「あ、跡部」
「何だよ」
「お前、酔い止め飲んどきや」
「余計なお世話だ!!」
忍足の一言に吠えるように噛み付いて、跡部が憂鬱そうに手摺に背を預けた。
また船旅か、と。








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