#27 一行、会いたくもない顔に再会する。

 

鍵のかかっていないその扉を、迷う事無く跡部が思い切り蹴り開けた。
モンスターとは違い、人間相手に戦うガチンコ勝負の場合は、最初に
どれだけ自分の強さを見せ付け相手の戦意を殺ぐかが最重要項目となる。
そして、跡部の場合。







「よぉ、突然だが失礼するぜ?」
急な来訪を予測していなかったのか扉の向こうで談笑していた盗賊達に
ニヤリとした笑みを向ける。
「どうやら此処に人攫いが居るらしいって聞いて来たんだがよ」
「いいえッ!人違いです!!」
「そうか人違いか、邪魔したな」
即答で返ってきた答えにくるりと背を向けかけた跡部だが、はた、と
そこで動きが止まった。
いやいや待て待て、ここでノセられてどうする。
ていうか、なんかこのノリには妙に覚えがある。
確か…どこかの塔で。
恐る恐る確認しようと首だけを後ろに向けて、これでもかという程
しかめっ面を見せる羽目になってしまった。
自分の後ろから、忍足のどこか間延びした声。


「……あれ?ミチルちゃんや」


「え?うそ、ホントだ!!久し振り!!」
「うわー…お前らあの後どこに行っちまったのかと思ってたんだぜー?」
滝も宍戸もいきなりだった再会に、何故だか嬉しそうな声を上げる。
いや待てそうじゃねぇだろうと思い切りツッコミを入れたかったが
動揺してしまってそれどころじゃない。
そして、もっとそれどころじゃなかったのは。


「うわーーーー!!!出たーーーーーー!!!!」


まるで化け物でも見たかのような表情で、ミチル率いる銀華団とかいった一味は
一斉に叫んだのだった。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇







慌てふためいて逃げまどうミチル達を、とりあえず拳で黙らせた。
そしてその場に正座をさせて、その前に腕組みをした跡部が呆れたように
立っている。
「…お前らなぁ…性懲りもなくまだこんな事やってんのかよ……」
「はーい、センセーしつもーーん!」
「誰が先生だ!!」
手を挙げて言うミチルの頭を思い切り殴ってから、仕方無さそうに跡部が
その言葉の続きを促す。
「どうして貴方様がたがこんな所にいらっしゃったんでしょーか??」
「アーン?違うだろ、俺達の行く所に何故かてめぇらが居やがったんだよ」
「…相変わらず俺様基準なんだからー……」
「何か言ったか?」
「いいえ別に何も言ってませんですハイ!!」
ギロリと凄まれて、ミチルが慌てて首を横に振った。
しかし実際、困ったことにこう見知った人間が相手ではどうにも処分に迷う。
どつき回すのは簡単だが、この場所に踏み込むまでは頭の中にあった
「成敗する」という選択肢は無しの方向にしてやるしかないだろう。
思うところはどうあれ、こんな間抜けな連中を斬り倒すというのも可哀相だし、
何となくだが夢に出てきそうな気もしてくる。
とりあえず、彼らが誘拐してきた店の人間は解放しておいた。
キメラの翼を持たせてやったから、今頃は洞窟を抜けてバハラタに
戻っているだろう。
「で、どうするんだよ、跡部?」
「あー……どうしてやればイイと思うよ、宍戸」
「ハイハーイ!!
 ボクは逃がしてあげた方がイイと思いまーす!!」

「「 てめぇの発言は聞いてねぇ!! 」」

また手を挙げて主張してくるミチルの頭を、今度は跡部と宍戸が2人して
殴りつけた。
「なんか漫才みたいでオモロくない?滝ちゃん」
「あーうん、どうだろうねぇ」
どのみちこういうノリは跡部にしてみれば不本意極まりないだろうから、
ここで素直に頷いて跡部に見咎められると後が厄介だ。
余計なとばっちりは御免である。
忍足に火の粉がいかないのは、やはり忍足だから、だろうか。
「まぁ…アレだ、見逃されたいみてーだしよ」
「だがこんなヤツら、今見逃してやってもどうせ同じ事を
 繰り返しやがんじゃねぇか?」
「じゃあ見張りがてらに仲間にして連れてくかよ?」
「心の底からお断りだ」
「けどよ、斬ったら斬ったで、なんかなー」
「ああ…化けて出てきそうじゃねぇか?」
「うわー…本人を目の前によくもまぁそこまで言ってくれちゃって…」
「イイんじゃね?ミチルだし」
「ああ、ミチルだからな」
顔を見合わせて頷き合う宍戸と跡部に、ちょっとカチンときたかミチルが
すっくと立ち上がった。
「なんかムカついちゃったなーもー!!
 俺達だっていつまでも負けっぱなしじゃねーんだ!!
 こうなったら、今度こそ俺達の銀華魂を見せてやるぜ!!
 お前らも準備はいいかよ!?」

「「おうッ!!」」

「おおーーー」
以前塔で一悶着あった時にも居た仲間達が、剣を片手に勇ましく立ち上がる。
それに成り行きを眺めていた忍足と滝が感嘆の声を上げながら拍手を送った。
もう気分は観客だ。
「へぇ〜…ミチルちゃんが根性見せてくれるってよ、跡部?」
「そうか、そりゃ手加減するのは失礼ってモンだよなぁ…?」
「いやいや全然手加減してくれちゃってイイんスけどねッ!?」
「甘ぇコト言ってんじゃねーよ、オラ、かかってこい」
剣を抜いて挑発するように人差し指を曲げてみせる宍戸に、半ばヤケクソのように
ミチル達が剣を振り翳して突っ込んでいったのだった。


勝敗は推して知るべし。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「お前らよォ…ほんと、向いてねぇんじゃねぇか?」
「全く、激ダサだな」
すっかりボコボコにされて意気消沈しているミチル達の肩を、そうした
張本人達が励ますように叩くが全くもって意味が無い。
「もう盗賊団なんてやめちまえよ」
「約束できりゃ、今回は見逃してやってもイイぜ?」
「くそッ……俺達の銀華魂が……!!」
「別にそれを見せんのは止めねーからよ、もちっと別の方向にしろよ」
「ま、アレだ。健全に生きろって事だな。
 餞別にコレをやるから、もう悪さするんじゃねぇぞ」
言って跡部は道具の入っている袋を漁ると、キメラの翼をミチルに向かって
放ってやる。
それを受け取って、おずおずとミチルは声を出した。
「ええと……俺ら、逃げてイイの?」
「あー、今なら見なかった事にしてやんよ」
「ていうか目障りだからさっさと消えろ。
 できればもう二度と姿を見せんじゃねぇぞ」
パタパタと手を振って追い払うように言う宍戸と跡部に、ちらりとミチルは
傍観者2人の方に視線を向ける。
「あ、いいよいいよ、俺達の事は気にしないで」
にこりと笑むのは滝。
「俺、なんも見ぃひんかったしな〜」
言って目元を手で覆うのは忍足。
「お前ら……実はイイ奴だったんだなッ!!
 ありがとう!!この恩は忘れたりしませんともーー!!」
いやいっそもう出会い自体を無かった事にして下さいと言いたかったが
そこはそれ、黙って笑って見送ってやる跡部様御一行。
キメラの翼を握り締めて、ミチルとその仲間達は一目散に逃げていったのだった。


そして。


「よし、行ったな?」
「行った行った。
 それじゃあ始めよっか」
静かになったその場所で、顔を見合わせニヤリと含み笑いを見せ合った
跡部と滝に、理由の解らない忍足と宍戸は首を傾げるのだが、
それは割とすぐに判明する事となる。







暫くの後、銀華が貯め込んでいたお宝を没収し懐のあったまった御一行が、
いつにない爽やかな笑顔で洞窟から出てくるのだが、それはまた別の話。








<NEXT>