#24 宍戸、船が欲しいと呟く。

 

アッサラーム近くにある山越えルートの国境は、通行証が必要という事で
通り抜けを拒否されている。
どうするべきかともう一度アッサラームにて情報収集をすれば、ロマリア近くに
旅の扉が存在するという話が聞けた。
アリアハンから出る時に使った、アレである。
前回のように洞窟の奥深くではなく、今回はソレと解るような場所だった。
小ぶりの建物に、案内人の姿まで。
話をすれば、この扉を潜った先にはポルトガという国があるらしい。
「ホンマに…?
 ホンマにあれ行かなならんのん?」
「つべこべ言ってんな。
 そこしか道がねぇんだからよ」
「そら解ってんねんけど…」
旅の扉は気流の変化が著しく、どうも三半規管があまり強くないらしい忍足は
酔ってしまうらしい。
まだ何かブツブツ言っている忍足の腕を引っ張ると、問答無用で跡部は旅の扉に
引きずり込んだ。










「ココ……何処だろ?」
辿り着いた先は見渡す限りの平原、その向こうには海が見える。
見回してみるが国と思しき場所は見当たらない。
どうしたものかととりあえず周辺を偵察してみると、すぐに街道が見つかった。
この道沿いに行けば、ポルトガという国に入れる筈だ。
「やれやれ、今回の道程は楽そうだよね」
「ホンマやな。
 もう暑いんはコリゴリやわ……」
時折顔を覗かせる魔物達を追い払いながら、てくてくと一行は歩む。
街道は平原を抜け、海沿いを続く。
暫く海を眺めていた滝が、ポツリと呟いた。
「アリアハンも海に囲まれた島国だったじゃない?」
「そうだな」
「あの海の向こうって何があるんだろうって、考えたりしなかった?」
「あー…あるある、いつか行ってみてぇなって思ってた」
「えー、でも未知の世界やん。恐ないん?」
「そうか?逆にワクワクしたりしねぇ?」
足を止めて、どこまでも広がる水平線を何気なく眺める。
いつかこの海の向こうへ、と思った事はあったが、まさかこんな形で島を出る事に
なるとは思わなかったと言うと、宍戸が苦笑を見せた。
「それもこれも、全部跡部のせいだけどよ」
「ちょっと待てよ、何で俺様の責任になるんだ!?」
「何でってお前が無理矢理連れ出さなきゃ、俺は今頃まだアリアハンで
 のんびりしてたんだっつーんだよ!!
 まぁ……こうやって色んなとこ旅するのも、結構楽しいモンだなって
 思うけど、な」
「あ、船が出るで!」
声を上げて忍足が指差した先に目をやれば、汽笛の音を響かせて一艘の貨物船が
ゆっくりと沖に向かって出て行くところだった。
よく見れば近くには桟橋も見え、あの辺りまで行けばきっと街があるのだと
そのぐらいの想像はつく。
この分なら日暮れ前には入れるだろう。
遠く水平線に向かって海を進んでいく船を見送りながら、宍戸がぽつりと零した。



「船……いいよな〜……」



「………は?」
たっぷり間を置いてから跡部が眉を顰めて訊ね返す。
「今何つったよ?」
「だから、船。
 あれば便利だと思わねぇ?
 いちいち道を探さなくっても大陸の向こうに渡れるしよ。
 やっぱ持ってた方がいいんじゃねーの?」
「アッサリ言いよるな、お前……」
「でも結構核心だよ、それは」
「つっても、どうすんだよ。
 あんなモン買う金なんてねぇぞ」
呆れた表情で見る忍足とは違い、意外と真剣に考え出すのは跡部と滝だ。
今度はモノが大きすぎるので盗るわけにもいかない。
そう言えば「そもそも盗る事は犯罪や!!」と忍足から厳しいツッコミが
入ったが、それはともかくとして。
船さえ手に入れれば、通行証が無くても、そして山越えをしなくても
アッサラームの向こう側に行く事だって可能だ。
「……どうする?」
「俺は別に、正攻法で船が手に入るんやったら構へんと思うけど?」
「そうだな…とりあえずポルトガに入って、ちょっと調べてみるか」
「え?マジ?
 マジで船探すのかよ!?」
トントン拍子に進む展開に、話を持ちかけた宍戸の方が驚いている。
思いもがけない方向で話が纏まると、一行は再びポルトガに向かって
歩き出したのだった。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇







ポルトガに着いて宿を取ると、まず手始めに行うのは情報収集だ。
手分けしてあちこちから仕入れた情報を、宿で食事を取る時に話すのは
もう慣れた手順だった。
今回の当たり情報を手に入れてきたのは、忍足である。



「ポルトガ王が、冒険者を募っとるんやって」



パスタをフォークでくるくる回しながら、忍足がそう言った。
「募るって……何でだよ」
「さぁ?そこまでは解らへんねんけど……何かあると思うやんな?」
「まぁ、普通はね」
お茶を啜りながら頷く滝ににこりと笑みを返すと、忍足は跡部に視線を送った。
「何言われるんかは解らへんけどやな、王様に恩売るのが大好きな跡部様としては、
 とりあえずお伺いを立てに行くべきなんとちゃう?」
「……お前、ロマリアでの事を今だに根に持ってんのかよ…?」
「そんな事言うてんのと違うて」
しかめっ面でぼそりと言う跡部に、忍足がくすくすと小さく笑みを零した。
「上手い事やれれば、王様に船下さいて言うのもアリなんと違う?」
パスタを口に運びながら言う忍足に、悪びれた風は全く無い。
つまり、また恩を売れと。
「……ったく、また面倒なコト頼まれるんじゃねぇだろうな…」
吐息を零しながら言うその言葉の意味は、応だ。
「じゃ、明日の朝イチに城へ出発ってコトで」
滝がそう纏めると、4人は同時に頷いた。








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