#17 滝、悪徳商人と対峙する。

 

山越えを終え、辿り着いた場所はアッサラームという街。
酒場などもあり割と大きなその街で、まずはロマリアでかっぱらった宝石類の
換金を済ませ、これからのルートを一通り打ち合わせた。
国境を越えるルートはどうやら封鎖されているようで、通り抜けようにも
番となる人物が何かの都合で不在だったことから、それは諦める事となった。
地図で見て確認し、行ける場所は南西にあるイシスという国。
しかも、今までと違って過酷な旅になりそうだった。



「……砂漠やん」
「砂漠だな」
「暑いんとちゃうん」
「日中は余裕で50度超すってさ」
「………俺、帰るわ。」
「まてまてまて!!」



立ち去ろうとする忍足の襟首を掴んで宍戸が止める。
真剣に嫌そうな表情を目一杯に浮かべた忍足が、じろりと3人を見遣った。
「やって、砂漠やで?暑いんやで?水とか無いんやで?
 ヘタすりゃ蜃気楼とかいう幻覚まで見るっちゅう話やないか!!
 嫌やでそんなん!!」
力一杯否定する忍足に、やや呆れた表情で跡部が吐息を零した。
「しょうがねぇだろうがよ、そこしか行ける所がねぇんだから。
 こんな所で足止め食うのも御免だからな、何かありそうな場所へはとりあえず
 向かってみるべきだろ」
「俺、此処で留守番っちゅうわけには……」
「却下だ」
「……やっぱし」
ガクリと項垂れて忍足が声を漏らした。
あまり良い予感はしていない。
せいぜい行き倒れにならないよう願うばかりだ。
「それとさぁ、ちょっと気になる事があるんだけどね、」
「どうした滝?」
「うん、あると結構便利なこの盗賊の鍵なんだけどさぁ、これで開けられない
 扉があるんだよね?」
「……複雑な作りってコトかよ?」
「そうなのかなぁって思ったんだけどさ、どうも…鍵そのものに魔法が
 かけられてるみたいなんだ。
 何か……ありそうだと思わないかい?」
「なるほどな……その辺の情報も探ってみるべきか。
 とにかく次は砂漠越えだからな、万全な準備を整えておくべきだろう」
「あ、じゃあ買い物行ってくるよ。
 跡部が盗ってきてくれた宝石のおかげで、懐具合もあったかいしね」
お財布番の滝が、そう言うとにこりと笑みを浮かべた。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇







路地裏に入って暫く行くと、ひっそりと佇む1件の店。
あからさまに胡散臭そうなその場所に、滝が乗り込んでいく。
なんだかんだで一旦全員の武器防具を一新する事となり、結局は全員が
同行する事になったのだが。



「いらっしゃい!
 よく来てくれました、私のトモダチ!」



……誰がいつお前の友人になったんだよ!!
思わずそう全員がツッコミを入れそうになったのだが、敢えてそこを
無言で乗り切る。
こんな場所にあるせいか、店の主人も随分胡散臭い雰囲気だ。
特に気にした風もなく、滝はそこらにある防具を物色し始めた。
店と主人自体はかなり胡散臭いが、置いてあるものは悪くないものばかりだ。
あれやこれやと選んだ末に、跡部と宍戸の防具はここで買い換える事となった。
「はい、じゃあコレ貰える?」
よいしょ、とカウンターに防具を2つ乗せ、滝がにこりと笑みを見せた。
それに同じく営業スマイルで対応するのが胡散臭い店の主人だ。
「2つで150000ゴールドね」
「………は?」


ピクッと滝の頬が微かに引き攣るのを、忍足は見逃さなかった。


「笑えない冗談だよね。
 まさか本気でそんな値段で売りつけるつもり?」
こういう裏の店ではよくあるパターンだ。
人の足元を見て、法外な値段をふっかけてくる。
だがそんなものに屈する滝では無い。
「仕方ないネー、あなた私のトモダチだから、少しオマケしてあげましょう!
 では、75000でどう?」
「……ふぅん?」
にこにこと笑みを崩さない滝が、主人の言葉にカウンターに頬杖をつきながら
視線を向けた。


その眉間に一筋の皺が入ったのを、宍戸は見てしまった。


「で?それがいくらになるワケ?」
「…ふぅ、お客さん買い物上手ネ!
 それでは、35000にしましょう」
「そんなのじゃあ、俺は満足できないなぁ」
滝と主人の対決は続く。


滝の声音に僅かに殺気が篭り出している事に、跡部は気付かないフリをした。


「おお、お客さん!!それでは私大損してしまいマス!!
 だけどあなたトモダチ!13000でどうデスカ?」
「……あのさぁ、」




 ドゴッッ!!




滝の叩きつけた拳が、カウンターの薄い板を陥没させる。
それを全員が、見なかった事にした。
「そろそろ誠意、見せてくれないかなぁ?」
「あなた酷い人!!
 これ以上下げれば私、首を吊らねばなりません!!」
「いいよ吊ってくれて。俺は困らないから。
 案外その方がココの商品貰い放題かもね?」
さらりと言う滝に、主人は半分泣きそうな顔で告げた。



「8000ね!コレ以上はまからないよ!!」

「オッケー、商談成立だ」



お金の入った皮の袋を壊れかかったカウンターに置いて、滝が人好きのする
笑みを見せたのだった。










店の扉を閉め外へ出てから、滝が買ったばかりの防具を跡部と宍戸に渡す。
「はい、良い買い物したね」
「滝…お前ってさぁ」
「うん?」
「………いや、何でもねぇ」
彼にだけは逆らうまい。
改めて、滝萩之介という男の恐ろしさを痛感した跡部様御一行であった。








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